第42話 私のお兄ちゃん[ほむら編]

 魔法攻撃職のトッププレイヤーばかりを集めた、最強ギルドの一角【Wizard's】の半勢力である四千人。


 オレはそれと今から戦わなければならない。

 ……大切な友人である——ほむらを護るために。



「おいおい、イザナく〜ん!ビビってるんじゃないかい?」


 四千人のトップに立っている、サブマスターの[†ゼウス†]が高々にそう話しかけてくる。


 オレはその声に反抗するかのように、一歩一歩着実に前へと進んだ。


「チッ!身の程もわきまえないカスプレイヤーが……いいでしょう、僕から攻撃してやりましょう!!!」


[†ゼウス†]はまず一人で魔法詠唱を始める。


『マスター攻撃が来ます。恐らく属性は雷かと』

「あぁ、シュナ分かってる。雷は威力と速度が桁違いだから気をつけないとな……」


 今となってはオレの相棒とも言える存在——システムのシュナから助言を受け、オレは気をつけながら詠唱中の[†ゼウス†]に更に近づいた。


「バカめ!くたばれカスプレイヤー!!!【雷撃サンダー】!!!」


 前方から黄色の閃光が煌めくと同時に、激しい魔法攻撃を受けて周囲に砂埃が立ち込める。


「そらそらどうした?カスプレイヤー!!!【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】【雷撃サンダー】———!!!!!!!!!!」



 まさしくMP値が切れるのではないかと思う勢いで、ひたすら雷の魔法を繰り出してくる。


「やだ……嘘でしょ。イザナ……死んじゃうよ……」


 砂埃が立ち込める中なので、オレの姿が見えずほむらの悲痛な声が聞こえてきた。


「トドメだ!!我が最強の雷魔法で存在もろとも吹き飛ばしてくれるわ!!!——【雷鳴雷光サンダーボルト】!!」


[†ゼウス†]がその呪文を詠唱し発動すると、先程までの魔法とは打って変わり、天から壊滅的な威力に見える稲妻が降り注いだ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ハーーーッハッハッハッハッ!!!!」


 鼓膜が破れるかと思うほど大きな稲妻の音が止んだ後、ほむらの叫び声と[†ゼウス†]の勝利の雄叫びがギルドホームに響き渡った。


「みたかぁぁぁぁ!!この僕の……まさしく全知全能なる神にも等しい力を!!!!!」


 前方から聞こえる声は無視していたが、その一方後方でほむらが泣いている声を放置することはできなかった。


(……やれやれ仕方ないな)


 オレは右手に持った【夜ノ王剣ー真月ー】を一振りすると、周囲に包まれていた砂埃を払った。


「ハーーーッハッハッハッハッ!!!さあほむら!!こっちへ戻ってこい!!……カスプレイヤーはいなくなった……ぞ?」

「イザナ……!!あれだけの攻撃当てられたのに……無事だったのね」


 オレの姿を見つけた[†ゼウス†]の顔は歪み、ほむらは目を腫らしながら安心した表情を見せた。



「言っただろ!ここはオレに任せてくれって」

「うん……うんっ!」


 オレはほむらの方に振り返り、微笑みながら大丈夫であることを伝えた。


「クソッ!あり得ないあり得ないぞ!!どんな芸当を使ったんだ!!!」

「芸も何も……【雷耐性】だよ。知らないのか?」


[†ゼウス†]の表情は一瞬固まったが、オレの【雷耐性】を聞き勝ち誇ったようにギルドメンバーへ向けて言葉を発した。


「おいお前ら!!このカスプレイヤーは雷属性にだけは耐性があるらしいぞ!!それ以外の魔法を全員でぶっ放してこいつを仕留めろ!!!」

 


「「「「オオオオオオォォォォ!!!!」」」」



[†ゼウス†]の命令を受けギルドメンバーたちは一斉に詠唱を始めた。そして当の本人も攻撃に参戦するべく急いでMPポーションを飲み干していた。


「さーて……ちょっと見せつけてやるかな——【雷帝ノ稲妻インドラ】」


 オレの発言と共に、周囲と武器に青白い雷の閃光が駆け巡り、眩いエフェクトを放った。


 ———————————————————————

 ☆【雷帝ノ稲妻インドラ

 ⇒その身と武器に雷を纏うことが可能。その攻撃は全てを灰塵と化す。[ATK(物理攻撃力)とAGI(素早さ)を5倍にする]———————————————————————



「クッ……見せかけのエフェクトで僕たちが怯む訳がないだろう?!お前たちかかれぇぇぇ!!!」


[†ゼウス†]の号令で四千の魔法が一気に押し寄せる。


 本来、魔法攻撃は詠唱中こそ防ぐチャンスはあるが、発動後は必中であり避けることなど不可能に近い。ましてや魔法を受ける方法は魔法での防御結界以外に存在していなかった。


 だが【雷帝ノ稲妻インドラ】かつ夜の時間帯で職業【黒夜ノ覇王】のボーナス付き状態であるオレにとって、魔法を交わすことも剣で弾くことすらも雑作もないことだった。


「ヒッ……ヒィィィィィ……[†ゼウス†]様!!や、やつに魔法が当たりませんっっ!!!」

「ま、まほうが……弾かれて……どうなってんだこれは!!」


 この時点で[†ゼウス†]の表情は、かなり曇っていた。


「おおお、おまえたちなんとかしろおおぉぉ!」


[†ゼウス†]はギルドメンバーたちをかき分け、後方に逃げるかのように下がっていった。


「ギルドメンバーを護り支えるのが、ギルドのトップに立つ人間の使命だろうに……情けないな」


 オレは四千発の魔法攻撃を全て無効化すると、一気に敵陣の中央へと入り込んだ。


「お、おい……[†ゼウス†]様は下がられたけどこれってチャンスなんじゃ?」

「よ……よし、今度こそ仕留めてやるぞ!」


 この状況をチャンスと捉えた四千人は、再び一斉に魔法の詠唱を始めた。


「やれやれ……そろそろくだらない魔法攻撃にも飽きてきたな。数はかなり多いが全員ヤれるか?」

『はい、マスター。後方に退いたプレイヤー[†ゼウス†]以外の全てに対し、100%の効果が期待できます』

「よし……スキル発動——【覇王ノ覇気はおうのはき】」


 ———————————————————————

 ☆【覇王ノ覇気はおうのはき

 ⇒確率で完全に対象の戦意を喪失させることが可能(レベル差が大きければ大きいほど成功率は上がる)。また、戦意喪失に失敗した場合でも、全てのステータスを−50%にする効果を持つ。※効果適用時間10分———————————————————————


 禍々しくも神々しい覇王のオーラが、オレを中心にして一気に周囲へと波動する。


 覇気の波動を受けた四千人のプレイヤー全員が、詠唱中の魔法を止め武器を捨て膝をつくこととなった。



 —— "一人"を除き、全ての勢力を無力化させたのだ。



 この光景があまりにも衝撃的すぎたのか、あれだけ横柄な態度を示してきた[†ゼウス†]も半泣き状態で懇願してきた。


「お願いします。何でも言うことを聞くんで見逃してください。僕だけは助けてください。ペナルティを受けたくないんです。お願いします!!」


 ただ、この後に及んで自分のことしか考えないサブマスターに、オレは助ける価値はないと感じていた。


「そこで膝をついてる四千人と今日いないメンバーも含めて、二度とギルドメンバーたちを巻き込むな」

「分かり……ました」

「後……オマエはギルドを辞めろ」

「な……?!」

「分かったか?」

「……く……くっそぉぉぉぉ!なんでこんな……この僕がこんなことにならなきゃいけないんだぁぁ……全てお前のせいだ!!ほむらぁぁぁぁ!!」


 一瞬の隙をついてきた[†ゼウス†]はほむらへ向けて【雷鳴雷光サンダーボルト】を放った。


 かなり後方にいるほむらの頭上には、魔法が今にも放たれんとしている。


「ハーーーッハッハッハッハッ!!!その距離じゃ間に合うはずがないだろ!!!お前はほむらのことを護れずに終わるんだよ!!!格好つけた割に呆気ない結末だったなぁぁぁぁぁ!!」

「ゲスなオマエらしいな、本当に——【神速ソニックムーブ】」


 ———————————————————————

 ☆【神速ソニックムーブ

 ⇒神の如き速さを用い瞬時に移動するユニークスキル。視認できる対象1体との距離を一瞬で詰めることができる。再使用時間は30秒。———————————————————————


 味方を視認対象として使うのは、初めてだったが【神速ソニックムーブ】で一気にほむらの元に移動し、オレは【雷鳴雷光サンダーボルト】を[†ゼウス†]へ向けて剣で弾き飛ばした。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……くるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



雷鳴雷光サンダーボルト】にオレの剣に纏われていた【雷帝ノ稲妻インドラ】が合わさった攻撃は[†ゼウス†]のお腹に大きな風穴をあけ、またもや一撃でHPを全損させた。



「雷の神が雷に敗れる……か。本当情けないな」




「「「「やった……やっと悪夢から解放されるんだ」」」」

「「「「苦しかった地獄の日々が終わったよううう」」」」


 戦意を喪失させた四千人のギルドメンバーたちは[†ゼウス†]が倒されたことを口々に喜び合い、泣いていた。


「キミたちもギルドの上の命令とは言え、狩場の独占をしていたことは事実だ。だからこれからはマナーを守って、本当の意味でトップギルドと呼ばれるように……頑張るんだな」


 オレは四千人にそう告げた。


 ペナルティを与えるため、HPを全損させることも考えたが、彼らの頷く表情を見るからにきっと同じ過ちを繰り返すことはないだろう。


 オレがこの結果に満足していると、ふと後ろからほむらに声をかけられた。


「本当にすごいよ……ありがとう……お兄ちゃん」

「へ?!」


 唐突なお兄ちゃん呼びに、変な声が出てしまう。



「あっ……えっとその……私の本当のお兄ちゃんみたいだなって思って……。かっこよかったよイザナお兄ちゃん!」


 そう話しながら、ほむらは顔を赤くしながら微笑んだ。



 こうしてオレとほむらの……いや、主にオレによる対【Wizard's】戦は無事に幕を閉じたのである。





【あとがき】


『オンラインNOW!』をたくさんの方に読んでいただいておりまして、本当に感謝です。


ほむら編が終わり……続いてはあの子が出てきます!


そうです。あの子の章です(笑)

ようやく想いを伝え合えますが……少し思わぬ出来事が……!


——次回もお楽しみいただけると嬉しいです。


作品フォロー・評価・ハート等いただけると嬉しいです。












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