ほむら編

第41話 Wizard's [ほむら編]

 薄暗い霧が立ち込める闇夜の中、オレはかつてのパーティーメンバーである、ほむらと一緒にとある場所に来ていた。



 とある場所とは——【オンラインNOW!】最強ギルドの一角。

 ……攻撃魔法職専用ギルド【Wizard's】のギルドホーム。


 そこではサブマスターを筆頭に、メンバーの半分である四千人がオレたちを倒すために待ち構えていた。


 これは最前線が第七階層に到達した頃に起こった、オレとほむらが挑む戦いの記録である。





 ——そもそも事の発端だが……。


 攻撃魔法職専用ギルド【Wizard's】に加入していた、ほむらからの相談を受けた事が始まりだった。


「ごめんね、身内の話なのにソロプレイのイザナに持ちかけちゃって」

「いや、構わないよ。ほむらが困ってるなら手を貸すべきだしな」


 ほむらからの相談というのは、巷で噂にはなっていた【Wizard's】の狩場独占の件だった。


 強力な範囲魔法で、フィールド上のモンスターを狩り尽くし、他のプレイヤーが参戦できないようにするという……極めて悪質な行為だ。


 それを多方面で行っているので他のプレイヤーたちは全くモンスターを狩れず困っているとの噂だった。


「——つまり、ほむらはこれを辞めさせたいのか?」

「ううん、私は【Wizard's】を脱退したいの。その手伝いをして欲しくて」

「脱退ならギルドマスターかサブマスターに言えば、簡単にできるんじゃないのか?」

「それが……ギルドマスターは受験が忙しくてしばらくログインできないみたいで……サブマスターは一人たりとも脱退させない方針なの」

「なるほどな……。実質サブマスターが全てを牛耳ってるって訳か」

「うん……」


 ほむらによると、サブマスターは[†ゼウス†]という名前らしい。ギルドマスターに変わり、狩場の独占やギルドメンバーの脱退を認めない違法とも言える行為をしている元凶だ。


「とりあえず直接会ってみないとな……連絡はとれるか?」

「うん……ただ、ものすごくプライドの高い人だから、怒らせたらただじゃ済まなくなっちゃうよ」


 ほむらの脱退を催促するだけで、オレ自身も喧嘩を売るつもりは毛頭なかった。


「大丈夫。ちゃんと話をするだけだから」

「うん!イザナのことだから信じてるよ」


 オレたちは[†ゼウス†]とアポイントを取り、三人で会うことになった。



 ***



 アポイントを取り三人が集合したのは、とあるカフェだった。


「えっとぉ、うちのほむらの友人?……名前はイザナくんと言ったかい?」

「あぁ……」

「僕はこれでも忙しい身でね。何せ最強ギルドのサブマスターだからね」


 自信に満ち溢れた様子で[†ゼウス†]は脚を組みながら答えた。


「今日はゼウスさんにお願いがあって来たんだ」


 オレがそう話すと、人が豹変したかのように席を立ち唾を飛ばしながら叫んできた。


「ゼウスさんじゃない!![†ゼウス†]様だ!様を忘れるな!!!」


 かなり細かいところで、拘りがあるようだ。突っかかるようにしてくる姿勢からも、ほむらが言っていたプライドの高い人間というのも理解できる。


「悪いがオレは【Wizard's】のギルドメンバーじゃない。だから様を付ける義理はないはずだ」


 オレの発言に[†ゼウス†]は眉を吊り上げ、いかにも機嫌が悪そうな雰囲気を見せた。


「ふぅ……。オーケーオーケー僕は寛大だからね。君如き一般のカスプレイヤーが、偉大なるこの僕の高貴さを理解できないのも仕方ない。」


(……なるほどな。よくいる典型的なギルドマスター・サブマスターが偉いと思ってるタイプなんだな)


 オンラインゲームにおいて、ギルドの根幹となるマスターやサブマスターの存在は確かにすごいものだ。


 ただ、それが偉いかどうかというのは全くの別物だということは言うまでもない。


「で!話は何だい?手短に頼むよ」


 この癖のある相手に対して、かなり言い出し辛いことだが、ここはストレートに伝えることにした。


「ほむらの……ギルド脱退を認めてほしいんだ」


 少し沈黙が続いた後[†ゼウス†]は再び豹変した。


「はぁぁぁぁぁぁ?!そんなの言うこと聞くわけないだろ?!ふざけるなよクソが!!」


 あまりの剣幕に、隣でほむらもびっくりしてしまっていた。


「おい!ほむら!!お前はこっちに来いよ!ギルドメンバーはギルドためにあって当然なんだよ!!しっかりとボロ雑巾になるまで貢献してから引退しろや!!!」


 ——プツンッ。



 ギルドメンバーを大切にしないゴミのような発言に、さすがのオレも我慢できなかった。


「一つ言わせてもらうけど、ギルドメンバーはギルドやオマエの道具じゃなくて、大事な家族みたいな存在なんじゃないのか?」

「ハァ……おいおい、ソロプレイヤーの君にギルドの何たるかを語られちゃ僕も終わりだな……。これは明らかな侮辱だよ……」


[†ゼウス†]はそう話すと席から立ち上がり、オレたち二人に向けて『決闘だ!!』と伝えたのだった。


 この時は[†ゼウス†]とオレがPVP(プレイヤー対プレイヤー)で決着をつけるのかと思っていたので、まさか今日新たに会いに来た際に、ギルドメンバー四千人を従えて出待ちされていたことには驚いた。


「イザナ……これさすがにヤバくない?うちのギルドメンバー……魔法系のトップクラスばかりが集まってるのよ」

「そうだろうな……」

「やっぱりいいよ。私が我慢し続ければいいんだもん……こんなのイザナまでやられちゃう……」


 本来は自分の心配をすべきところなのに、ほむらはこんな時までオレの心配をしてくれていた。


 なのでオレはほむらの方に振り返り、笑顔でこう伝えた。


「ほむらは後ろに下がってて!ここはオレに任せてくれ」


 オレは武器【夜ノ王剣ー真月ー】を鞘から抜き、四千人のトッププレイヤーたちと向き合ったのだった。




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