第44話 交錯する想いの果てに[かなで編]

 レベル70とは言え、頑丈かつ破壊力の高い攻撃を繰り出すゴーレム相手に、みんなを護りながら戦うのは厳しいかもしれない。


(……でもシュナの力を借りれれば)


 オレの期待は裏切られることなく、シュナは提案を承諾してくれた。


「さて、頼んだぜ……シュナ」

『敵の弱点位置を捕捉。最適な攻撃ルートを検索……見つけました。マスターの視界に投影します』


 シュナがそう話すと、オレの視界に攻撃のルートが映された。


 きちんと個体別の弱点ポイントまで載せてくれている。


「さすがだな、シュナ!」


 オレは一気にゴーレムたちに攻めかかり拳だけで、破壊の限りを尽くし——数十秒の戦闘の末、全てのゴーレムを粉々に砕いて殲滅させた。


「ほんまになんて人や……ありえへんで」


 アコは驚きを通り越し、少し呆れたような声で呟いた。


「ふぅ、お疲れ様シュナ」

『やりましたね、マスター』


 戦闘を終えたオレは一息付いてから、かなでたちのところに移動した。


「かなで、ヒカルさんの様子は?」

回復ヒールしたからもう大丈夫だよ!」


 かなでの懸命な治療のおかげで、どうやらヒカルも無事だったみたいだ。


「ほんまにありがとう。感謝しかないわ……。[転職の巻物]はかなでちゃんが持ってってな!」

「え、でも……」

「ええねん。ヒカルのこと助けてくれて、ほんまありがとう」


 アコの想いを受けて、かなでは[転職の巻物]を受け取ることにしたようだ。


「アコさんありがとうございます!」


 こうして、オレたち四人は転職クエストダンジョンを後にすることとなった。


 ***


 アコたちと別れたオレとかなでは、月と星が綺麗に見える澄んだ湖の近くベンチに座っていた。


「改めておめでとう!かなで」

「ありがとう。本当夢みたい……【大司教ビショップ】になれるなんて……」


 かなでは本当に嬉しそうにしていた。


「あのさ……かなで。オレずっとかなでに伝えたいことがあったんだ」


 オレはかつて、かなでと約束したことを果たそうとしていた。


「うん……」


 かなでが静かに頷く。


「オレはかなでのことが……大好きなんだ。だから、これからはオレと一緒にいてほしい」


 ずっと伝えたかった想い


 自分の心の底からの気持ち。


 これをようやく伝えることができた。


 ……ただ、かなでの表情は暗かった。


「イザナくん……ごめんなさい」


(……えぇ!嘘だろ?!)


 かなでの返答に、かなり動揺してしまった。


「あっ……違うの。私、その……話さなきゃいけないことがあるの」


 かなでは改まって話そうとするが、言葉を詰まらせていた。


 ——そして俯いたまま数分が経過した。


 ようやく意を決した様子で、大きく深呼吸を二回繰り返すと、重たい口を開いた。


「私……実はリアルであと数ヶ月の命なの」


 それは全く予想だにしない言葉だった。


「……病気……とかなのか?」


 言葉を選んだつもりだったが、ショックが大きすぎたため思わずストレートに聞いてしまった。


「うん……もう手遅れで本当に助かる見込みがないって」


 力なく無理に微笑もうとする表情は、オレの脳裏に深く突き刺さった。


「かなでは……これからどうしたいんだ?」

「……お医者さんからは、残り少ない時間は自由にしてもいいからって言われてるの。だから生きてる間にこのゲームを始めた頃の目標が達成できてよかった」


 そう話すかなではどこか寂しそうだった。


「いや、まだだよ」

「……え?」

「オレは……かなでと一緒にいたい。デートだってしたい。かなでに隣でいててほしいんだよ!!」


 思わず力が入り、激しい口調になりながら話してしまう。そして目から反応的に涙が溢れてきてしまった。


「イザナくんにそこまで言ってもらえると、私……幸せだなあ。私も本当にイザナくんのこと大好きだから……愛してる……から」


 そこまで話して、かなでからもぼろぼろと大粒の涙が溢れ出ていた。


「あのさ、かなで……」

「ゔん……」

「オレも話さなきゃいけないことがあるんだ」


 オレはこれまで、自分の身に起きていることを誰にも話したことがなかった。


 ただ、この時初めてかなでに打ち明けなければと思い、全てを打ち明けた。


 ——「そんな……イザナくんは……今どういう状態なの?」



 オレの身体がリアルにあるのかどうかも、正直分からない。もしかすると、この世界に完全に入り込んだ存在になってしまっているのかもしれない。


 オレはそのことを正直に伝えた。


 かなではオレの話を聞いて、決心を固めたように話し始めた。


「私、これから最期の時までイザナくんと一緒にいるようにする……これが告白の返事!」

「え……?」

「私のことで迷惑かけちゃだめだって思ってたんだけど……イザナくんもきっと誰にも話せず、辛かったんだろうなって……ずっとこの世界で一人でいるのは寂しいもん」


(あぁ。きっとオレはかなでのこういうところに惚れたんだろうな)


 そう思ったオレは、そっとかなでに近付いた。


「イザナく……ん……んむっ」


 かなでの唇にソッと唇を重ねた。


 かなでも突然のことで、少し驚いた様子だったが、すぐに力を緩めオレに委ねてきた。


 呼吸をするためわずかに離れた後、オレたちは互いに本能のまま唇を重ね合い続けた。









【あとがき】



 イザナと別れてから、かなでに起こっていた苦しみの真実が明らかになりましたね。


 残りの少ない時間と言われていますが、今後かなでと少しでも一緒にいるという選択を取るために、イザナはどんな道に進むんでしょうか。


 そして、次回のタイトル発表になります。


『第45話 ギルド結成』 です!


 お楽しみに。



 良ければ作品フォロー・評価・ハート等いただけると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る