第17話 熟練パーティー[第1階層編]


 オレの指示で1つにまとまったパーティーは、他のプレイヤーからすれば、一言で言うとありえない動きをしていた。




 "まじかよ……何なんだよあいつら。"


 "本当に初心者なのか?βテスターなんじゃ?"


 "あの動き方はまるで……。"



 そう、まるで……



《熟練パーティー》



 である。





 ギィィィィ!!!!



 大型ボスの唸り声が響き渡る中、オレは次々に指示を出す。


「次、正面から突進攻撃がくる!タケルが防いでルイとオレで反撃する。」


「了解した!」


「分かったっす!」


「その後、隙が出来るからそこでほむらが魔法攻撃。かなでは今のままタケルを中心に回復してくれ。」


「もう準備してるわよ!」


「イザナくん分かった!」


 次にどんな攻撃が来るのかを予測し、防ぎながら、着実にダメージを与える。


 難しそうに思えるが、【大魔法師ハイウィザード】をしていたオレにとって敵の属性攻撃を見極めることは朝飯前だった。


 もう1つの生き残っているパーティーも、今のところは順調にいけているらしく、オレたちは異常なスピードで大型ボスのHPを削っていた。


「このままいけばいけそうね。」


「気緩めちゃだめっすよ、ほむらちゃん!」



 大型ボスの残りHPゲージが1本のところに差し掛かる。


 周囲で呆然と立ち尽くしていたプレイヤーたちも、


 "これはいけるんじゃないか?"


 "俺たち、何やってるんだろ。今からでも参加すれば、遅くないんじゃ?"


 と再び前線に参加する意思を示し始めていた。




「ここからボスのHPゲージが最後の1つになる!攻撃が大きく変化するから注意してくれ。」



 オレの声かけの通り、大型ボスの攻撃モーションが今まで違ったものに切り替わる。


「イザナくん!なんかすごそうなの来そうだよ?」


「あぁ。確かにやばそうだな。」


 ……あれは、【大魔法師ハイウィザード】のスキルの1つ"天雷てんらい"か?


 "天雷"とは字の如く、上から降り注ぐ雷の一閃である。

 誰のところに飛んでくるかを判断するのが、非常に難しいため、判断が遅れてしまう。



「イザナくんあれはどうすればいいっすか?」


 ……くそっ。


「タケル!上から強力な雷攻撃が来るからガードしてくれ。ルイはガードしているタケルに次の攻撃が飛んでこないように牽制頼む!」



「了解!」


「分かったっす!」



 じっくり観察していたので、予測通り"天雷"はタケルのところに落ちてきた。


「ぐっ……これは受けきれるか……。」


 タケルは何とか持ち堪えてくれたので、すぐさまかなでへヒールするように指示を出した。



 もう1つのパーティーは今の"天雷"でメンバー2人を失ってしまったようで、そこから一気に態勢が崩れていった。



 ……ついにパーティーもオレたちだけになってしまったか。



 その様子を見てか、再度参戦を考えていた周囲のプレイヤーたちは、再び心を閉ざしてしまった。



 最後のHPゲージが半分に到達した頃、大型ボスが怒りモードに変わり、ボスの体は常時帯電状態へと切り替わる。


 ……これは、迂闊に近付けないな。




 更に追い討ちをかけるかのように、大型ボスは"雷撃弾らいげきだん"と呼ばれる、雷の球を無尽蔵に創り出してきた。



「あ……あんなの飛んできたら……タケルでも受け止めきれないわよ。ここまできて、今度こそ死んじゃうわ。」


 ほむらが声にならない声を絞り出す。

 他の3人に関しては、声すら出せない程に余裕がなくなっている様子だった。



 オレはボソッと呟くように、


「《マナコントロール》。」


 と唱えた。


 MATK(魔法攻撃力)を+1000分だけATK(物理攻撃力)へ変換する。


 この+1000が大型ボスからの敵意を引きつけるには、ちょうどよい数値だった。



 オレの狙い通り、大型ボスは"雷撃弾“をこちらに向かって一方的に放ってきた。



「イザナくん!危ないっ!!」

「あんな速い攻撃で猛攻とか卑怯だぞ!!」

「嘘……イザナやられてないわよね?」

「イザナくん?返事するっすよ、イザナくん」


 あまりの激しい猛攻であるため、辺り一面に土埃が立ち込める。


 みんなから見れば、オレは完全に一方的な攻撃を受けているように見えるだろうなと思った。



「いやあ、実際こんな遅い攻撃当たるわけないじゃん。」


 当然、オレは全ての"雷撃弾"を回避し続けていた。



「この状況は、チャンスだよな。」



 オレは立ち込める土埃の中で、声を張ってみんなに指示を出した。


「みんなよく聞いてくれ!遠距離を意識して、ほむらの攻撃を主体に攻めてくれ。それでかたがつく!」


「イザナくんは……イザナくんは大丈夫なの?!」



 かなで……そんな泣きそうな声しなくても、大丈夫だよ。



 と心の中でだけ応え"雷撃弾"を回避し続けた。



 ♢


「イザナくんの返事がないよ……。私回復しにいかなきゃ。」



「待ってくれ、かなで。くそっ……こんなこと言いたくないが、今はイザナのことを信じるしかない。後は俺たちで決めるしかないぞ!!」


「頼むっすよ、ほむらちゃん!」


「ほむらちゃんお願い、ボスを倒して!」


「私がここで決めて終わらせるわ!!!《魔法連弾マナブラスト》!!」



 ほむらの渾身の魔法攻撃が大型ボスに炸裂する。



 "いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!"


 パーティーメンバーの声が響き渡る。




 ギィィィィ!!!!!!!!  




 今度はフィールド全体に響き渡るかというくらい、大きな声で大型ボスが叫び声を上げ、HPゲージが0になった。



 "おいおい、やっちまったのか?"


 "嘘だろ?レイドクエストあいつらだけで?"


 "すっげぇぇぇぇ!!!!!"


 "オォォォォォォォ!!!!"



 周囲からは歓声が上がり、ステージにはデカデカと


 ーQuest Clear!



 の文字が表示された。










 ーレベルが上がりました。


 ー第2階層が開放されました。


 ーPVP(プレイヤー対プレイヤー)機能が開放されました。


 ーイベントボス【大罪シリーズ】が実装されました。(レベル10より各ボスから1体を選択し、参加できます。)







 ーユニークスキル【雷を纏いし者ライトニング】を獲得しました。

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