第16話 レイドクエスト[第1階層編]

《第1階層:城塞都市カルディア》

 ーフィールドエリア レイドクエスト予定地点。



 今日の21時よりエリアボスが出現すると、システムにて事前に通達があり、参加するプレイヤーたちが次々とこの場所に集まってきていた。


 昨日の攻略会議や前夜祭に参加していなかったプレイヤーもちらほら見られ、かなりの数での混戦になることが予想された。



 オレは"アイアンソード"を装備し、いつ何が起こっても大丈夫なように戦闘態勢を整えていた。



 ー時刻は20:55。



 プレイヤーたちのほとんどが準備を終え、今回のレイドリーダーであるザーガが、みんなの士気を高めるため声かけを行っていた。


 周囲ではザーガの声かけに応えるように


 "おぉぉぉぉーーーーっ!"


 という声があたり一面にこだましている。


 そんな中、他のメンバーに気付かれないようにかなでが声をかけてきた。


「あの、イザナくん。お願いがあって。」


「かなで、どうしたの?」


「その……ちょっとだけ手握っててほしくて。」


 戦闘開始前で緊張してしまってるんだろうなと思い、オレはかなでの手を握ることにした。



「すぅー。はぁーー。すぅー。」


 かなでは複数回深く深呼吸をした後、もう大丈夫……と笑顔を見せたが、まだ表情が固かった。


「大丈夫。もしものことがあったらオレがサポートするし、かなでもみんなのことも護るから。」


 強めに手を握りしめそう告げると、かなでの表情は安心したように和らぐのを感じた。




 レイドクエスト開始まで、

 3分前……。




 2分前……。





 1分前……。





 10……9……8……7……。



 これだけのプレイヤーが集まっている中、あまりに静かすぎるという独特の空気にプレイヤーたちも緊張が走った。



 3……2……1……。



 ー21:00。



 時刻が21時になると、目の前に突如大きな竜巻が起こり、中から巨大な兎モンスターが出現した。


【レイドクエスト】のスタートである。





【レイドクエスト】《第1階層専用》

 ○フィールドエリアに出現した大型ボスモンスターを討伐し、第2階層への扉を開け。


 難易度:★★★(E)

 詳細:【二角の巨兎】(0/1)

 報酬:5000G、経験値





「全員やつの懐に入り込み、接近戦で応戦せよ!突撃ーー!!」



 ザーガの声かけにより、全プレイヤーが大型ボスに向けて前進していく。


 ただ、オレはこの時点であることに気付いてしまった。



 ○【二角の巨兎】(レベル20)




「レベルが……20になってる……だと。」



 そして大型ボスの纏っている属性のエフェクトが、明らかに炎ではなかったのである。


「みんな、前進しちゃだめだ!」


 全プレイヤーに今から指示していても、間に合わないため、せめて自分たちのパーティーだけでもと声をかけた。


「何言ってるんだ?前進しないと。」


「タケルの言う通りよ。イザナったら今更なに怖気づいてんのよ。」



 タケル、ほむら……オレは怖気付いたわけじゃないぞ。



「聞いてくれ。あいつはβテストの時とは違う。レベルも高いし、属性も炎から雷に変化してるんだ。恐らく接近型の攻撃がベースで、当たれば感電状態で暫く動けなくなる。」


「いや、でもザーガさんは炎って言ってたっすよ?」



 今度はルイまで。

 くそっ。これでは埒があかない。



「ねえ、後ろに下がろうよ?私も何か嫌な感じがするよ。」



 かなでがこう切り出してくれたことで、何とか3人は後退することに納得してくれた。


 一方で大型ボスに突っ込んでいったザーガ率いるメインパーティーたちは、案の定大型ボスの雷による広範囲攻撃を受け感電し、身動きがとれなくなってしまった。


 中には当たりが悪く、一撃で倒されてしまったプレイヤーもいた。



「嘘だろこれ。まじかよ?こんなのほんとにやばいやつじゃないか。」


 タケルだけでなく、他のメンバーもこれには驚いていた。



 そして先程の攻撃を受けて、数多あるパーティーの中で動けるのは、オレたちを含めて2つだけになっていた。


「レイド戦で、さすがにこれはまずいな。」



 オレが《マナコントロール》を使えば、一撃で仕留められるかもしれない。

 だが、これだけたくさんのプレイヤーが集まっている中で、1人目立つわけにはいかなかった。



「イザナくん……私、どうしたらいいの?」


 ……かなで。


「やばいっす、やばいっすよ。」


 ……ルイ。



「どうするのよ。こんなのどうしたらいいのよ。」


 ……ほむら。


「ちくしょう。いきなり俺たちも終わるのか……。」


 ……タケル。



 パーティーメンバー全員にペナルティを負わさないようにするには、もうこれしかなかった。



 そう考えたオレは重たい口を開いた。



「みんな、よく聞いてくれ。オレから提案があるんだ。」



 絶望しきっている4人は、オレの言葉にすがるかのようにこちらに振り向く。


「今回の【レイドクエスト】を無事にクリアするために、オレのことを信じて欲しい。敵の攻撃を予測するから指示通りに動いて欲しいんだ。」


「指示通りって、他のみんなの感電が解ければザーガさんから指示が入るんじゃない?」


 ほむらは変わらずβテスターを神聖視してるんだな。


「確かに感電自体の効果は恐らく20秒くらいだと思う。」


「じゃあそれまで距離とって、みんなが起き上がってから一緒に戦えばいいじゃない!」



 オレは首を横に振った。


「いや、βテスターであるザーガがあれだけ豪語して組み立てた作戦が、一瞬でチリになったんだ。HPを全損したプレイヤーだっている。そんな状態を目の当たりにしてしまえば、もう戦えない。ただの有象無象にしかならないよ。」


 オレの言いたい事にみんなようやく気付いてくれたようだった。


「パーティーリーダーはキミだ、タケル。キミがどうするか決めてくれ。」


「俺は……。俺はみんなを護りたくて【聖騎士パラディン】を目指そうと思ったんだ。だからイザナの指示でみんなが護れるなら、俺は構わない。」


 ルイ、ほむらもその言葉を聞いて頷く。


 かなでは最初から信じてくれていたのだろう。

 それは彼女の覚悟の決まった表情から読み取れた。



「よし、オレたちで絶対に勝とう。」



パーティーメンバー全員が武器を握る手に力を込めた。


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