第15話 攻略会議と前夜祭[第1階層編]

 エリアボス実装前夜。


《第1階層:城塞都市カルディア》中央大広場。



 この場所でエリアボス討伐に向けた、攻略会議が開かれた。


「プレイヤーの数……半端ないな。」


 同じ場所にこれだけたくさんのプレイヤーが集うのは、初めてだろう。



 オンラインNOW!のエリアボス、つまり各階層の大型ボスモンスターは超耐久の高HPで、多人数参加型のエリアクエストであり通称【レイドクエスト】と呼ばれていた。



 数多のパーティもしくは、ソロのプレイヤーたちは各々でダメージを与えHPを着実に削っていく必要があるのだ。


 もちろん広範囲攻撃が頻繁に飛んでくるので、防御や回避、回復も必要不可欠で難易度は普通の比ではなかった。


 そのため【レイドクエスト】には全体を管理・指示する役割であるリーダー的存在は欠かせないのである。



「今回、カルディアのレイドクエストを取りまとめるβテスターのザーガだ。みんなよろしく頼む!」


 壇上っぽくなっているところに立ち、みんなの視線を集めた男は軽く会釈をしてそう挨拶をした。



 周囲からは、


 "は?なんでお前なんだ!"

 "憧れのβテスター様?かっこいい!"

 "ザーガじゃん。がんば〜(笑)"


 といったように様々な声が上がる。


「今回の件、実は立候補させてもらったんだ。俺はβテストの際に、大型ボスの動きを完全に読み切り、1回目で成功に導いた実績がある。これからボスモンスターの情報と立ち回り方について、レクチャーするからよく聞いてくれ。」



 ザーガの話しはじめた大型ボスの情報は、オレの知っている前回経験した内容と全く一致していた。




 大型ボスモンスターは、


 ○【二角の巨兎】(レベル10)


 で、みんな大好き"角兎"の大型版で炎属性攻撃を仕掛けてくるのが特徴だ。


 ボスから離れていると、広範囲攻撃である炎の玉に当たってしまうため、極力接近して戦う必要があった。


「接近戦になるから危険って見方もあるけど、逆に一気に叩けるチャンスでもある。だから攻撃の要となるパーティー構成はタンク・魔法・魔法・魔法・ヒーラーの火力重視構成を基本にしてくれ。物理職が入っている場合は、火力不足だからサポートに回ってもらう。」



「残念っすけど、僕たちのパーティーじゃサポート側っすね。」


 隣でルイが、残念というよりホッとした様子でほむらやかなでと話していた。


 ……正直、今回はあまり出番なさそうだな。兎なんてこの前の牛に比べれば、どうってことないだろうし。


 実際のところ、次の第2階層に行けさえすればいいので、現段階では目立たないようにしておくのが得策だろうと思っていた。



 ♢



 エリアボス攻略会議後は、親睦会を兼ねて広場で立食形式の簡単な前夜祭が開かれた。


「なあ、ザーガさんのところに挨拶に行っておかないか?」


 メイン攻撃隊ではないが、パーティーリーダーとしてβテスターであるザーガに顔見せしておきたいとタケルは提案してきた。


「はいはーい!賛成っす!」


「私もβテスターの方には挨拶しておきたいわ。」


「うーん、オレはパスで。」


「えー……イザナくんノリ悪くないっすか?かなでちゃんはいくっすよね?」


「私も、ごめんなさい。」


「かなでちゃんまでこないんっすか……ガーーン!」


 ということで、オレとかなでを残して3人はザーガに挨拶に行ってしまった。



 かなでと2人きりになり、暫くの間沈黙が続く。



 ……さすがに何か声かけた方がいい、よな?

 いや、でも何を喋ったらいいんだろう。



 必死に考えても、言葉は何も浮かんでこない。



 ……ええい、とりあえず声だけでもかけてしまえ。


「え、えーっと……ごほんっ…かにゃで。」


 ……やっちまったぁぁぁ。

 何を話そうかを考えすぎて、思い切り噛んでしまった。


 クスッ……と隣で吐息が漏れ、かなでの方に目をやると堰を切ったかのように笑い始めた。


「あのちょっと……かなでさん?そんなに笑わなくても。」


「あははは……はぁはぁ、ごめんなさい。イザナくんが一生懸命何か話さなくちゃって顔してるの見てたらおかしくってつい。しかも噛んじゃうし。」


 オレ、そもそも顔にまで出てたのか。

 アサシン目指してんのに、失格じゃん。



「ふぅ……。笑いすぎてお腹痛くなっちゃったよ。でもありがとう。それだけ一生懸命考えてくれてたんだよね。」


「何も思い浮かばなくて、顔に出てただけだったけどな。噛んじゃうし。」


「ふふ。イザナくんは優しいね。……あのねイザナくん。」


 先程まで笑っていた表情とは打って変わって、今度は真剣な表情で話し始めた。



「私、正直に話すと明日の大型ボス攻略、ものすごく怖いの。ゲームなんてするの初めてだし、私がもし何か失敗してみんなに迷惑かけちゃったらどうしようって。」


「まあパーティーでのボス戦って、緊張するもんな。」


「うん。絶対にみんなの足だけは引っ張りたくない……そうなったらもう合わせる顔なんて……。」


 両腕を抱え込み、小刻みに震えているかなでの様子を見るに、今日の攻略会議が始まる前からかなり無理をしてたのかもしれない。



「なあ、かなで?」


「・・・。」


「【オンラインNOW!】は好き?」


「・・・うん。」


「なら、大丈夫だよ。ゲームなんだから要は楽しければいいんだよ。」


「みんなと出会えて、一緒に遊べて楽しいよ?でも……もし失敗して迷惑かけちゃったらって思ったら……。」


「その時は別にかなでの責任じゃないよ。それにオレがいる限り、失敗なんてことは起こさせやしない。」


 思い悩むかなでを勇気付けるために、頭をポンポンとする。



 ……さすがにちょっとかっこつけすぎたかな。


 と思った時には、案の定かなでは真っ赤なゆでだこのようになってしまっていた。



(かなで)「イザナ……くん。あのね、私。」


「う、うん?」


 あまり真っ赤な顔しながら改めた感じにされると、少し期待してしまう自分がいた。


(かなで)「ううん、やっぱり今は大丈夫。イザナくんのこと信じてるね。」



 頬を赤く染めながらにっこりと笑うかなでを心に刻み、オレは《第1階層:城塞都市カルディア》レイドクエストでかなでを護り抜くと誓った。

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