第4話 リスタート[始まり編]

「これさ、どうなってんだろうな、グレン?」


 隣にいたはずのグレンに声をかけるも返事がない。


「おい、グレン?」


 オレが首を傾けて見ると……そこにグレンの姿はなかった。



 第1階層に移動してしまったことに動揺して気付かなかったが、辺りにはたくさんの人が集まっていた。



「プレイヤーなのか?……にしては初期装備のやつ多すぎってか初期装備のやつしかいないじゃん!」


 とここで、自分の装備も初期装備になっていることに気付いた。



「は?オレの【大賢者シリーズ(SS)】装備はどこいったんだ?」


 すぐにアイテムストレージや装備画面を開くも、そこに【大賢者シリーズ(SS)】装備はなかった。



「どうなってるんだよ、これ」



 大広場の時計がちょうど12:00を指し示すと、中心にある泉からかわいいうさぎに似たマスコットキャラクターが出現した。



「やあみんな!ボクはこの世界……【NEW ORIGIN WORLD オンライン!】のマスコットキャラクター "なう" だよ!ボクは今日という大事な日をここにいるみんなと迎えることが出来てとても嬉しいよ!」



 周囲のプレイヤーから "ワァァァァァーーッ!"という大きな声が上がった。




「この世界にはたっくさんの冒険が待ってるんだ。多彩な職業システム。待ち受けるモンスターに次々と変化する新しい階層。五感の感覚共有システムを導入しているから、食事を楽しんだり、仲間と盛り上がったり、恋人とデートしたり……色々とワクワクドキドキできる世界になってるんだ!」



(いや待てよ。この台詞どこかで……)



 オレはこのマスコットキャラクター "なう" の台詞に聞き覚えがあった。



 (そうだ。あれは確か【オンラインNOW!】の正式サービスが開始された日と同じだ)



 その後、蘇る記憶と寸分違わぬ光景が続き、

 【オンラインNOW!】の正式サービスが開始の合図がなされた。



「ははっ……まじかよ。ってか時期考えたらこれ過去に戻ってるってことだよな?こんなのどうすれば……」



 何か手はあるはずだと必死に考えてみる。



「はっ!そうだ、ログアウトすりゃいいんじゃん」


 オレはツールバーのオプションからログアウトのボタンを押そうとした。


 ……がそこにログアウトのボタンは無かった。



「おいおい、タチの悪い冗談だろ……」



 まさかの出来事にさすがのオレも不安に駆られた。

 オレは隣にいた名前も知らないプレイヤーに、ログアウトボタンがないことを伝えた。


「は?ログアウトボタンがない?それ本気で言ってんの……ってあるじゃんかよ!脅かすなよな〜。お前アニメの見過ぎだろ!」


 との回答だった。



 正式サービスで浮かれているとはいえ、言い方には少しカチンときたが、今は心理的に言い返している余裕はなかった。



「オレ以外……いや、オレだけログアウトできないんだ」



 こうなった原因は明らかだった。



「くそっ。【パンドラBOX】なんて選択しなけりゃよかったんだ。あの時グレンの言うことをちゃんと聞いておけば、こんなことには……」



 (……ちくしょう)



 だが少し頭を切り替えれば、オレが長年ハマりにハマったVR MMO RPGの世界をまた最初から攻略できると言うことだ。



 しかもラスボスである【魔神王アイヴィス・ヘルゴート】の討伐までの完全攻略の情報を持っている。



「はっきり言ってチートだよなこれ。いいぜ、やってやるよ。今度こそこの世界で本当の最強になってやる!」



 オレは決意を表明するかのように拳を "グッ!" と握りしめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る