Never Ending Load

最終話


「珠枝」

「……たまえ」


 ダルヴァリーを倒したフランが、イローナを倒した摩子が、珠枝の後ろにやってきた。


「珠枝、エリザベートを倒したんだね?」


 力なく座り込んで頭を垂れる珠枝が、こくりと小さく頷いた。


「妹さんは?」


 フランの声に、長い時間をかけてから珠枝は首を横に振った。


「そう……」


 まったく反応する姿を見せない珠枝の背中に、フランがまた口を開いた。


「君の復讐は遂げられた、倒すべき敵を倒すことができた……だから、ハンターを辞めるかい?」


 しゃっくりをあげる珠枝の肩が、びくりと固まった。


「もう無理をしなくてもいい。あとは別のハンターに任せて、君は人間の生活に戻ればいいと思うんだ。君の本分は遂げられたのだから」


 しんと静まる中、珠枝は答えない。それを承諾と取ったのか、フランは「うん」とうなづいた。


「大丈夫、君の事情はもう終わったんだ。だからこれからは人並みの生活に戻って、普通の学生になって、自分の人生を、自分のために謳歌して行くと良い。お疲れ様、珠枝」


 フランの柔らかな声。


 摩子が珠枝とフランを交互に見て、言ってきた。


「たまえとお別れしちゃうの?」


「そうだよ、摩子。僕たちは珠枝との任務を終えたんだ。さようならするんだ」


「――まって」


 珠枝が口を開いた。


「珠枝?」

「まだ、終わってなんかいないわ」


 珠枝が乱暴に、ボディスーツの腕で涙をこすり落とす。それからよろけながらも、膝が震える脚で立ち上がり、深い息をこぼした。


「そう、まだよ。まだなのよ」


 フランが聞く。


「まだ、続けるのかい? どうして?」

「だって――」


 珠枝が振り向く。


「まだ、終わってなんかないから」


 涙で充血した眼。ふやけて紅潮した頬。


 切り裂かれた右肩。ぼろぼろになった黒いボディースーツ。


 ほとんど力の入っていない足腰。


 泣いた子供がむくれてしまったような、そんな顔つきでも、


 それでも、表情だけは凛としていた。


「私はヴァンパイアハンターよ。私が自分で選んだ道なの――それに、約束もしたから」


 きっぱりと、フランと摩子へそして自分の中へ、断言するように、珠枝は言った。


「あの子はいつか、私が殺すわ」


                               ――終――

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吸血鬼譚Killer Girl ~ハンターの姉vs吸血鬼の妹~ 石黒陣也 @SakaneTaiga

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