第2話
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「合理的に判断した結果よ」
「情に流されたんじゃないのかい?」
柔らかい笑みをのせて、フランが言ってくる。彼は今、リビングの椅子に座って、右の脚の修理をしていた。
「からかわないで、それは私が決めた事、状況を見た判断よ」
ふんと鼻を鳴らして、フランからそっぽを向く。
時間としても、あれから一日も経っていない昨日の夜の今である。フランの右脚は腿の半ば辺りから途切れており、有機素材部品や人工骨格人工筋肉などを接合口から見せながら、いくつもの情報伝達用コードで体と繋げていた。右の腕も全壊していたが、こちらは先に新しいものに付け直した(帰ってきてすぐに取り替えた)のでもう直っている。
フランは片手で専用デバイスで脚の調節をしつつ、こちらと話していた。
夕方のリビングには、私とフランだけがいた。人狼の摩子は、あれから希美を追跡している。
「でもよかった」
「何が良かったのよ?」
「君がそういう人だという事と、ヴァンパイアにも良い人がいたって事だよ。その彼女は人を傷つけるのが嫌で、人間が好きなんだね。僕と同じだ」
横島奈緒代と名乗っていた、エリザベートの配下の一人である吸血鬼ダルヴァリーは、そのままクラスメートに急遽転校すると告げ(告白はフラれてしまったと苦笑してごまかしていた)、すぐに彼女は学校を早退して居なくなってしまった。あのまま自分も理由をつけて早退して、彼女を倒しても良かっただろう……いや、そうするべきだったのかもしれない。
「あんな顔で言われたら、ね」
幸せそうな顔の中にわずかに哀情が混じった表情。そして何かを覚悟した気配。もしあそこで話を聞いた以上あなたを倒すと答えても、彼女は堂々と前に出て、己の自由を勝ち取るために戦っただろう。あるいは全力で、足掻き抜いて逃げただろう。
自分の――
「……全てをかけて、生きるのね」
突然、テーブルの上にあったフランの携帯電話。呼び出し音が鳴った。
「何その着メロ……」
「三味線っていう日本楽器の音楽だけど?」
「…………」
「どうかしたのかい?」
「いえ、別に好みは人それぞれね。うん」
額のしわを押さえてどう言おうか迷っていると、フランは何の疑問も持たずに携帯電話で話し始めた。
「はい、わかりました。ありがとうございます……いえ、そういうことは。はい……はい。わかりました、珠枝にはそう伝えておきます。ええ、彼女には何か? ……そうですか。わかりました」
フランが話し終えて通話を切り、こちらに向いてきた。
「武装許可が下りたよ、珠枝。レベルBまで出してくれた。君の『師』がね」
レベルB――それはヴァンパイアハンターが、一度の戦闘で許可できる武装の度合いだった。Bといえば大体、中の上あたりの度合いだが、ひとチームが持つ武装としては、早々与えられない重装備の量だった。
「衰えたとはいえ相手は数百年逃げ延びた大物。今度こそ確実に打ち倒すように。ってさ」
「他には?」
「師は援軍は追加しないって。弟子である君の実績が欲しいみたい。あと「ヘマをするなよ、私の指導力にも影響する」と言っていたね」
「権力好きのあの人らしいわね」
「あと、「無理はするな、無理だと思ったらやめろ。代わりに私が出てもかまわない」とも言ってたね」
「そう……」
ふと、まだ懐かしむには近い、師の言葉を思い出した。
――男と女じゃ、確かに女は腕力で男にどうしても劣る。でもね、ヴァンパイアと比べたら、男も女も対するにそう変わらないのさ。
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