第4話

 4:


「そろそろ解けたかな?」


 目の前にある希美の顔。


「希美。私は、何を……」


 にこりとした微笑みを投げてくる希美の顔を見て……血の気が一気に引いた。


 反射的に首筋を確かめる。外傷はない。


 時計を見る。十八時半を少し過ぎたところだった。


 いったいどこからどこまでが――


「久しぶりだったね、二人で遊んで帰るの」


 希美とアイスを食べながら、他愛もない話をしていた事は本当に起こったことらしい。


「案外簡単に催眠にかかっちゃうんだもん。お姉ちゃん、ちょっと迂闊だったよ」

「希美、あなた……」


 こちらの言葉を押さえるように、希美が人差し指を自分の口にあてがった。


「ここでやるわけには行かないでしょ、お互いに?」


 夕暮れの公道、すぐ横の車道ではライトを点けたばかりの車が行きかっている。当然、自分たちの周りには一般人も。


「何もしてないから大丈夫よ、ただアイス食べて懐かしい話をしただけだから。それだけだから……」


 だが、希美の視線は冷たく、懐かしさで温まった様子は微塵も見えない。逆に、暗い過去を思い返してたような、哀れみの表情だった。


「お姉ちゃん、手」


 視線を落とすと、いつの間にか、手の中に紙切れが入っていた。


「そこで待ってるから、この後でお姉ちゃん必ず来てね。できれば一人が良いけど、たぶん無理そうかな?」


 まだ、催眠術の術中に捕らえられた余韻か、頭の中がぐらぐらとしている。


「ちゃんと準備してきてね。それじゃ、また」


 希美が立ち去って人ごみの中へ消えていって、夕日が完全に落ちた頃になっても、まだしばらく動き出す余裕が入らなかった。

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