もう戻れはしないのだから

第1話

 1:


『――というわけだったんだ。だから一人で行ってきて、ヴァンパイアを二人、エリザベートの配下を倒したよ。黙っていてごめんね』


「あなたそれ謝れば済むと思ってるの!」


 荒げてしまった声に、少し離れた場所で待っている静香と奈緒代、桃絵と理李が驚いてこちらを見てきた。


 慌てて背中を向けて顔を隠す。


『でも珠枝、もう済んだことだから』


 電話越しに聞こえるフランの声は、言葉とは裏腹にまったく反省の様子が見えない。


「あなたねえ……」


 額に手を置くついでに、額を揉みほぐす。フランのこのマイペースさに悩まされる事は、今に始まった事でもない――と無理やり思い直す。


「だからと言って、馬鹿みたいに正直に出向くのは駄目よ。何かあったらどうするの」


『心配してくれてありがとう珠枝』


「そーじゃないから……」


 話が噛み合っているようであまり噛み合ってない。大きく溜息を吐き出す。


 携帯越しでは埒が明かないようだ。


「とりあえず報告を聞くから、部屋に来てちょうだい、私もすぐに戻るわ」

『分かったよ』


 通話を終わらせて、待っていた四人の方へ向く。


「ごめんなさい、急用が出来てしまって、早く帰らないといけないの」

「けっこう切羽詰ってたみたいですね。あの子ですか?」


 静香が聞いてる。あの子はおそらく、昼間に学校にやってきた摩子の事を指しているのだろう。


「仕事の手伝いが入ったの」


 聞いてきたのは理李だった。


「バイトかにゃ?」


「ええ、三木さんにちょっと話したけど、その件なの」

「珠ちゃんなにしてんの?」


 理李が静香に聞く。


「美術品のバイヤー、でしたよね」


 静香へ頷く。


「なにそれ! 気になる!」


 目を輝かせた理李。


「田中、巳代さん急ぎなんだから、今は聞くなよ」


 桃絵が理李の頭を掴んで押し込めた。


「今度聞かせてよ、また明日」

「ええ、それじゃあ」


 できたばかりの友人たちに見送られ、彼女らを追い越して走る。



 訓練を終えてチームが出来て、私は戻ってきた。


 フランと摩子と自分。


 〈シルバニアン〉の、出来たばかりのヴァンパイアハンターチーム。


 オリジナルフランケンシュタインが作った、その子たるフラン・Q・シュタイン。


 自分が名前をつけた人狼の幼子、巳代摩子。


 ヴァンパイアハンター組織〈シルバニアン〉新チームのリーダー巳代珠枝。それが自分だった。



「あ、お姉ちゃん」


 すれ違ってから気づいて、走っていた足を止めた。


 目を見開いて振り向く――

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