第10話

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 誌原さんは腰に下げていた細い刀身の剣――刺突剣を引き抜き、対する黒い人物はそれを銀の刀で切っ先をなぎ払った。


 誌原さんが叫ぶ。剣と刀の舞う中で。


「私が誰だかわかる?」


 黒い人物が答えた。


「分かっているわ。いえ、初めから分かってた」


 落ち着いているというよりも、どこか冷たい感じのする声音。


 どこかで聞いた覚えのある声だ。


「あなたがたとえ髪を変えても、鼻もほっぺたの形が変わっても……」


 誌原さんの細身の剣の切っ先と、黒い人物の銀の刀が火花を上げてかち合う。


「声が変わったとしても、月日を経ても」


 誌原さんの剣の先が、黒い人物のヘルメットを突き刺した。しかしヘルメットの中身までは刃が届かなかったらしい。誌原さんはそのまま切っ先を一度振り上げ、ヘルメットを宙に舞わせた。


 黒い人物が後ろへ飛んで誌原さんと距離を開ける。


「……すぐにあなただって、分かったわ」


 黒い人物は、広がった艶やかな黒髪を一度だけ振った。


「希美。あなたが私の妹だった事は、忘れたりなんてしない」


 体のラインがはっきりと見える黒いボディスーツに上着のジャケット。艶やかな黒髪。


 ヘルメットの中身は、


 同じ学校の二年の先輩。巳代珠枝だった。


「大事な、私の家族だったのだから」


(――え?)


 妹? 誌原さんが?


 俺の疑問に答えるように、誌原さんが叫んだ。


「お姉ちゃん」


「でも、もう私の妹は死んだの。吸血鬼にされて」

「私はまだ生きてるわ!」

「いいえ、あなたはもう死んでいるの。あなたはただのグール……吸血鬼の下僕よ」


「違う!」


 冷たくあしらうような巳代先輩とは対照的に、誌原さんが大声で否定する。


「私はまだここにいるわ! ここにまだ――」


 突然に誌原さんが真横にはり倒された。


「誌原さん!」


 誌原さんへ飛びついた狼が、彼女に覆いかぶさって首を噛み千切ろうとしている。


「やめろ!」


 誌原さんの元へ駆け寄ろうとして、

 その間に巳代先輩が現れた。


「誌原さんを離せ!」


 狼に命じているのは、確実に巳代先輩だった。


「君には、巻き込んで申し訳ないと思うわ」


(この人は、人の話を聞かない!)


「だからどけって――」


 ドスッ


「……ごめんなさい」


 俺の心臓に、銀の刀が突き刺さった。

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