第3話

 3:


 生徒会室に用事があるからと、昇降口で誌原さんと別れ、一人で教室へ向かう。


 と、突然に現れた女生徒にはっとなった。


 すぐに思い出す、あの時の二年の先輩。


 口調も目元も冷ややかな印象だったが、ひどく綺麗な人――


「体は大丈夫?」

 目の前まで歩いてきて、そう二年の先輩は言ってきた。

「はい?」


「体、体調は?」

「あ、ええっと……」


 きつく絞られたような切れ長の瞳でまっすぐに見られ、つい目を逸らしてしまう。


「大丈夫、です。たぶん」


「そう」


 簡潔に言ってくると、そのまま俺の脇を通り過ぎて、早足で去ってしまった。


 振り向いてその二年の先輩の後姿を見送る。


 振り返った時に、手に持っていたペットボトルの水が揺れて、ちゃぷりと音を立てた。


(何だったんだ?)

 


 教室に入って席に着いた早々に、ペットボトルの水を飲み干してしまった。

 朝から喉が渇いて仕方がない。


 朝のホームルームまでまだ時間がある。今のうちに売店前の自動販売機へ行ってくるか。


「あれ? いっきんどこ行くん?」


 同じクラスかつ中学からの付き合いの鮫島透が声をかけてきた。


「ちょっと売店」

「じゃあ俺クリームパンね」

「自分で行けよーっと」


 パシリにされる前に、さっさと教室を出る。

 と、透が後ろからついてきた。


「俺も行くわ」

「だったらパシらせるなよ」


 透と一緒に、一階の売店へ。


 ああなんか喉が、ひりついたように渇く。


「いっきん、なんか調子悪くね?」


 首元を押さえていると、調子の良い口調の透がこちらの顔をのぞいてくる。


「なんか、朝からな」

「生徒会役員様はお忙しそうで」

「ちげーよ」


 透の軽口はいつもの事だ。


 なんだか本当に調子を崩してしまったようだ。眩しい朝日を見ると、軽いめまいのような感覚がする。


 売店の前にある自動販売機に到着。透が売店で売られているパンを眺めているのを尻目に、俺はジュースを選ぶ。


 またミネラルウォーターにしようかと思ったが、なんだか水よりも濃い……そう、少しばかり重たい飲み物が欲しくなってきた。


「これにするか」


 ペットボトルサイズのオレンジジュースを選んだ。

 自動販売機から取り出し、ふたを開けて飲む。

 ゴクリと喉を通るオレンジジュースが気持ち良い。


「透。行くぞ」

「うーむ」


 返事の代わりに、背中越しに透のうめき声が。


「どうした?」


 俺が透の隣に並び、何をしているのか様子を伺う。


「いやな、クリームパンにしたかったんだが……こっちの三色パンの方がお得な感じに思えてきて、でもクリームが」

「早く選べ」


 丁度、朝のホームルームの予鈴が聞こえてきて、とりあえずそれでも悩み顔でうめく透の頭を引っ叩いた。



 ああ、だるいな。

 だるいのはいつもの事だけど、今日はいつにもまして体が重い。


 悪い夢を見るし、体調が良くないし。


 逆かな? もしかしたら体調が悪くなってきたから、悪い夢でうなされたのかもしれない。


 そういえば、あの割れた窓は何だったんだろうか?


 悪い夢って俺は何を見てたんだっけ?

 思い出せない。

 今日はなんだか暑いな、梅雨前なのに。


 また喉が渇いてきた。


 どんな悪い夢を見たんだっけか?

 このまま眠ったら、夢の続きでも……


「高行、起きろ!」


 二限目の古典。

 教師の声で目が覚めた。

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