罠は甘くそして赤く

第1話

 1:


 熱い。体が熱い。

 苦しい。

 熱で溺れてしまいそうだ。

 機械のエンジンの音、タイヤの滑る音。

 バイク。二輪自動車の走り去る音。

 金属を強く引っ掻く音が一度だけ。

 熱い、焼ける臭い。

 熱い……熱い……


 固いものが弾ける音。目が覚めた。

 何かが降りかかってくる。


「――ッ!」


 反射的に体をかばい、窒息しそうな苦しさで喘ぐ。


「は、はっ、は――」


 何度も呼吸を繰り返した。頭の中がじんじんする。


 落ち着いてから、ゆっくりベッドから起き上がった。


 悪い夢を見てうなされたのか、まだ体が熱い。もしかしたら風邪かもしれない。頭痛もする。喉は痛くないようだ。体の熱と頭の痛み、それから軽い吐き気。


 寝間着も敷布団も掛け布団も、汗のせいかぐっしょりと濡れている。


(寝ぼけてる、のか)


 喉が渇いた。

 ベッドから降りて脚をつけると、


「いたっ」


 何か尖った物を踏んでしまった。


 ベッドに腰を下ろしたまま足の裏を見ると、細かく光る破片のようなものが刺さっている。これは――


「ガラスの、破片……」


 首の後ろを、風がひと吹き撫でてきた。

 窓は閉めたはずなのに、カーテンがはためく音がする。


 振り向くと――

 窓ガラスが割れていた。

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