第10話 露呈し始めた弱さ①
「クッソどうなってんだ!」
アインスは荒れた口調でテーブルを叩いた。
彼ら3人が寝泊まりしている、中央通りの宿の一室である。ドラゴンを倒した後、彼らは一泊金貨1枚もする高級宿に拠点を移動させた。もちろんリジーはパーティ結成時から除外である。
「不味い飯を出したのは向こうなのに、なんで俺たちが責められなければならない? 俺は当然のことを言っただけだ! なあそうだろ、シャロ、マイン!」
「そっ、そうだねアインス様!」
「ああ、そうだね」
シャロがいきなり話を振られて肩を揺らしながら肯定し、マインはそんな彼女の頭を撫でながら頷いた。
仲間から同意を得られたことで、アインスはソファの上でふんぞり返った。
「そうだよな。見たところ客は低級の冒険者ばっかりだったし、弱い奴は舌も貧しいってことだ。だから俺たちの口に合わないのは当然ってことだ」
「シャロたちはゴールド級で強いもんね!」
「そうだ! ってことで、今後あの
息まくアインスをシャロはきらきらした目で見つめているが、マインはおっとりとした口調でのんびり首を傾げた。濃い赤毛がさらりと肩から零れ落ち、意外と冷ややかな金の瞳がアインスを捉える。
「アインス様。じゃあ、これからの食事はどうするんだい?」
「は? そんなのレストランに決まってるだろ。金ならあるんだし、マインだって美味いもの食べたいだろ?」
「……そうだねぇ」
レストラン――食堂とは一線を画す、高級志向の店だ。
アインスの当然といった回答に、マインはテーブルの上に置かれたグラスをあおる。ただ高級酒というだけで買い、アインス自身はまったく飲めない、度数の強い酒が瞬く間に空になった。
「マイン? 何を心配してんだ、金なら大丈夫だぞ?」
「そんな心配してないさ。ほら、クエストの途中はどうする?」
「ああ、そうか。今まではあいつがいたからな。また料理術師を入れればいい」
「えー、またぁ? その分シャロたちの取り分減っちゃうよ~」
「臨時加入でいい。どうせ料理術師なんていくらでもいるさ。あんな下級職を俺たちのパーティに正式に入れるはずがないだろ?」
アインスは鼻で笑ってそう言った。
料理術師は初級魔術が使えれば不自由しないとされるため、その一面のみを見て誰でもなれる程度の低い職だと思う者は多い。例に漏れずアインスたちもその類だった。
「まっ、料理術師なんかただの飯係なんだから。俺たちゴールド級の報酬を分けるなんてもったいねえだろ」
「でもアインス様。あいつには報酬分けてましたよねぇ?」
「分不相応でも、パーティの正式メンバーには報酬を与えねえとギルドがうるさかったんだ。まあそれもあいつがいなくなったからもう必要ないけどな」
アインスはそう言って、ソファから立ち上がった。
「おい、お前らもう寝るぞ。明日から、新生パーティだ!」
応えるようにシャロとマインはそれぞれ腕を掲げた。
*
翌日。
アインスたちが受けたクエストは
多尾狼は大型の狼ほどの外見と体躯を持ち、群れで行動する魔物である。通常の狼と違い尻尾が複数あり、この尻尾の数が多いほど群れの中でも格が高く強いのだ。
アインスたちが討伐経験のある多尾狼の尻尾は最大5本。今回のクエストで確認されている多尾狼の尻尾数は3本で、彼らからすれば決して負けることのない相手だった――はずだったが。
「どうなってるんだ!?」
多尾狼の爪を躱し――しかしわずかに服の裾を切り裂かれながらアインスは毒づく。
横なぎに振るった剣が多尾狼の胴に吸い込まれ、しかし致命傷にはならず多尾狼はよろけながら再びアインスに襲い掛かってきた。
「く……っ
マインが赤ん坊の頭ほどの火球を自身の周りに10個ほど生み出した。それらは彼女の合図と共に様々な軌道を描いて多尾狼の群れの中心に着弾する。
しかし閃光と熱波が過ぎ去った後、そこにあったのは倒れ伏す多尾狼ではなく、焼け焦げた地面だけだった。
「シャロ! 回復!」
「や、やってるよっ!? ぐ、
シャロの持つ杖の先から淡い緑色の輝きが生まれ、アインスを包み込む。手足の傷がたちまち消えていくが、アインスの動きのキレは先程と同じだった。
アインスが文句を言うより早く、シャロの泣きそうな絶叫がこだまする。
「ど、どうして!? 今まで出来てたことがなんで出来ないの!?」
それは3人の心境を代弁した魂の叫びであった。
「チッ! シャロ、マイン! いったん引くぞ!」
アインスは荒れた様子で、しかし冷静に状況を判断して、その場を一時離脱した。
クエスト、多尾狼の討伐。ランクにしてシルバー級。
油断していたとしても――それはゴールド級にありえないような失態であった。
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