第13話 給食室の怪 ⑦

『ん? ここには、りんりんの釜はないようだよ』 


 光が消えると、すずしろがお告げをつげる占い師のような声で言った。柳井センパイとりんりんが落胆したように肩を落とす。


「なんで、そんなことがわかるの?」


 すずしろの言葉の意味がわからなくて、思わず聞き返した。


『ぱあ―っとすると、探し物が答えるの―』


 すずしろが自慢げに翼としっぽをぱたぱたとさせた。


 いや、その説明じゃあ、わたしにはわからないよ。


 つっこみたいところがたくさんあるけれど、可愛らしいすずしろの説明に、わたしは思わず苦笑いをする。


 柳井センパイだったら、ずうっと説明してくれるとはおもうけど、それはそれで、メンドーだな。

 

 ちらっと柳井センパイを見ると、考え事をしているのか、目をつぶっている。


 まっ、いいか。


 さっき、月長石から四方八方に波紋のように広がっていった光が、探し物を見つけるセンサーのような役割をするんだってことはわかったし。

 呪文はちゃんと効力を発揮したようだし。


 それにしても、すごいなぁ。不思議だなぁ。


 わたしは首にさがっている月長石とすずしろを交互に見比べた。


 わたしの視線に気がついたすずしろが『ボク、えらいでしょ! なぜて!』と、腕の中にとびこんできた。もふもふとした頭をゆっくりとなぜる。すずしろが目を細めて、のどをグルグルと鳴らす。

 

 気持ちよさそうだなぁ。でもなぁ……。


『おいらの釜、……、どこへいった……』


 自分の釜の大切さを知ったりんりんが、がっくりと手をついている。


「りんりん……」

『自業自得だよ。しばらく、反省させたほうがいい』


 すずしろが薄目をあけて、ぴしゃりと言う。


「そ、そう? でも、……」

『いいの!』


 もうっ。すずしろ、りんりんに冷たいんだからっ。


 わたしはりんりんからそっと目をそらして、柳井センパイを見た。


「木を隠すなら森の中というというから、給食室にあると思ったんだが……。何も見つからないか。……、釜が給食室にないとすると、釜の件と給食室の件は別の事件だと考えるべきだったか。となると、どう考えればいい? 誰が何のために給食室で釜のお化けが出ると噂を流した? 西園先生に来てもらうほどの案件だったのか? う――、わからない。……このままでは、八方ふさがりだ……」


 柳井センパイが腕を組みながら、ぶつぶつと独り言を言っている。


「そんなことはない。ほら」


 振り返ると、西園にしぞの先生が、右手で、お鍋を亀の甲羅のように背中にしょった小さな男の子の、左手で、髪の部分に鈴をつけた黒い長い髪・赤い着物姿の女の子の首根っこを掴んでいた。


『あ!!!!』


 叫んだのはりんりんだ。

 


『あにきー!!』

『にいちゃん!!』



 見たこともない物の怪に、「すずしろ、あれは?」とわたしは腕の中にいるすずしろに聞く。


『りんりんの弟の『鍋の物の怪』のなっしぃと、妹の『鈴の物の怪』のちりだよ』


 すずしろは顔をあげてふたりを見ると、興味なさげにまた目を閉じた。

 柳井センパイを見ると、顔を真っ赤にして、両手をぷるぷると震えさせているのがわかった。


 ぜったい、怒ってる――。


 わたしは、だまって、ことの成り行きを見守ることにした。



「こいつらはその隅っこで隠れていた。今回の給食室の怪の原因はこいつらだ。証拠になっしぃが懐中電灯を持っていた」


 西園先生はあごで、調理室の一角をさすと、どさりと、二人を落とした。りんりんが駆け寄り、りんりんと男の子と女の子がひしっと抱き合う。


「大方、なっしぃがちりをライトで照らしていたずらをしたんだろう。それに――」

「お前ら!! あれほど、勝手に出歩いてはいけないって言っただろう!!」


 柳井センパイが、西園先生がしゃべり終わらないうちに、怒鳴った。三人は西園先生の後ろにさっと隠れる。


「柳井。落ち着け。ここは亜空間とはいえ給食室だ」

「しかし、先生。こいつらは、約束を守っていない!」


 西園先生の後ろに隠れている三人を指さす柳井センパイの手がわなわなとふるえている。西園先生が眉を下げて、とりなす仕草をした。


「確かに、いたずらをしてはいけない約束になっているが、今回は二人にも理由があるそうだ」

「理由?」

 

 とげのある口調で柳井センパイが聞き返す。


「まあまあ……、それについては、理科室に戻ってから、二人から聞くことにしよう。な? ……、それに、こいつらだけじゃない。まだ奥でへべれけになっているご老人達がいてな……」

「へべれけになっているご老人?」 


 柳井センパイが、納得がいかないという顔をしながら首をかしげた。


「どうも、みりん酒を見つけたようでな。腰が立たないと言っていてな」

「誰です?」

 

 怒りすぎたのか、柳井センパイの顔色が赤から白に変わっていく。


 西園先生の後ろに隠れていた三人ががたがたとふるえている。わたしも他人事とはいえ、すずしろをぎゅっと抱きしめるしかできない。

  

 西園先生が犯人の名前を告げる探偵のように、静かにゆっくりと口をひらいた。


「……、しゃもじいと しゃくじいだ」

「ああ? あいつらもここにいたんですかぁあああああああ? あいつら、まとめて調伏してやる――――!!!!」


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