異世界に転生したので、リアルスライムで遊びます!

疾風 颯

異世界に転生したので、リアルスライムで遊びます!

 突然だけど、スライムを知っているだろうか。

 リアルで言えば、洗濯のりやらホウ砂水やらを混ぜたゲルみたいなヤツ。もしくは百均に売ってるヤツ。

 ゲームで言えば、悪いスライムじゃないよとポよポよしてる青かったり金属だったりするアイツら。


 何故突然こんなことを訊いたのかと言うと、私が今、異世界とやらに居て、目の前にどちらかと言えば後者に近い丸い物体があるからだ。


 ……。さらっとまとめすぎたかな。


 ある日私、ミカは、目が覚めると赤子になっていた。どうもそこは粗悪なつくりの路地裏で、日本ではないようだった。前世のことははっきり思い出せるけど、別に死んだような記憶はない。いろいろ考えているうちに人が来て、あれよあれよという間に運ばれ、気づいたら教会のような場所に居た。そこは孤児院だったらしい。異世界で暮らし始めて、早三年。私は三歳児(推定)になっていた。


 そこで、今に至る。

 孤児院の庭の畑のそばに茂みがあるんだけど、そこにスライムらしきヤツが居た。

 ポよポよと揺れているそれをじーーっと見つめる。


『やせいのすらいむがあらわれた!――わたしはどうする?

 わたしのてんしのひとみ!すらいむはポよポよゆれた!』


――なんてのをかれこれ三分くらい続けている。

 そういえば、ラノベとかではスライムが強酸性だったり窒息させてきたりとヤバいヤツな作品もあった。今更ながら危機感を覚えた私は少し後退りする。

 試しに葉っぱをスライムに投げる。

 葉っぱは空気に揺られてひらひらと舞い、スライムに届くどころか私の頭の上に戻ってきた。むう。

 気を取り直してもう一度葉っぱを握り、スライムの直上で手を放す。

 またもや葉っぱは目測を外れて、スライムの横へ落ちる。むうう。

 私は今度は木の枝を拾ってきた。

 さきっちょでスライムをつつく。スライムはポよポよ揺れる。ぽよんぽよん。

 ……。揺れすぎじゃない?なんだかこのスライム、あやしい。意図してやってる気がする。


 リズミカルに、

 つく。

 ぽよん。

 つく。

 ぽよん。

 つく。

 ぽよん。

 つかない。

 ぽよん。


「……。」

 じー……。

 今度はスライムが後退りする。心なしか冷や汗が浮かんで見える。

 どうやらスライムにはそれなりに高度な知能が備わっているらしい。

 

 ずぶ。

 木の枝を突っ込む。

〈――!?〉

 ずぷぷ。

 結構抵抗があるけど、どんどん木の枝が粘体の中に入っていく。

 ……溶けないな、よし。


 木の枝を上に動かす。

 にゅるーん。

 伸びた。

 にゅるるーん。

 めっちゃ伸びる。

 やばい、これめっちゃ楽しい。


 べちゃ。

 あ、落ちた。


「みんなー!ご飯の時間だよー!」


 シスター見習いのアンナが呼んでいる。いかねば。今日はこのくらいで勘弁しといてやろう。

「またくるからね」

〈……。〉


§


 さて、やってきましたスライムさんで遊ぶ時間。

 前回判明したことは、スライムにはそれなりに高度な知能が備わっている、ということと、スライムの物質自体に危険性は確認できない、ということだ。

 というわけなので、今日はスライムさんに餌をやってみようと思う。

 ででん。ここに、今日の昼食の余りがあります。さっきくすねてきたヤツ。ちょっとしなびた果実っぽいものだ。ちょっと酸っぱい。あんまり美味しくないんだよね。名前は知らん。

 お、茂みの中にスライム発見!どうやら昨日と同じ個体らしい。

 そっと近づく。

 あ、気付かれた。スライムが少し後退る。

 ここで名も無き果実(あんまり美味しくない)をスライムに向けて投擲!しかしあたらなかった!ちくせう。

 仕方がないのでトテトテと小走りになって取りに行く。

 あ、取られた。

 スライムが動き、なんかの果実を捕食した。透けている身体のなかに、しなびた黄色い果実が浮かぶ。スライムがぽよんと揺れると、果実は泡となって消えた。

「ふぉおおおお!」

 思わず感嘆の声を上げてしまった。なんだそれは。一体どうなっているんだ?

 思わずスライムをペチペチ叩く。

 現実世界じゃこんな光景見れないからね。一瞬で溶かすというと濃硫酸とかピラニア酸とかだけど、あっちだと黒くなってちょっとグロテスクだし。

 ……ちょっとまて。一瞬で溶かした?これ、危ないヤツでは……?アシッドなヤツでは?服だけ溶かすヤツかもしれない……。

 今度は私が後退る。危機感無さ過ぎだろ、私!?

 今更ながらに警戒心を持った私だが、よく考えたらスライムは高度な知能を持ち合わせているし、これまで襲って来なかったからやっぱべつに大丈夫な気がしてきた。

 うん。それに、私を傷つけたりしたら殺されちゃうことも分かってるだろうしね。

 前回の木の棒でぶっ刺したときも攻撃はしてこなかったし、きっと大丈夫だ、うん。

「きっと、そうか」

 私は頷きながらそう呟くと、スライムに飛びついた!!

〈――!?〉

 何を隠そう、私はスライムが大好きなのだ!

 前世では、スライムものの動画をよく漁ったり、実際に買ったり作ったりしていたのだ。なんせあの感触と音が堪らない!

 そんな私の大好物が実際に生きているのを目の前にして、我慢できるはずなどない!!

 勿論同じ感触である保証はないが、それも含めて確かめないといけない……!


 ぴと。


 手のひらに伝わる、冷たく、肌に吸い付く触感。


 ぎゅむう。


 押し込むと、僅かに押し返す弾力ととともに、全方位からの柔らかい触感と圧力が押し寄せてくる。


 むにょーん。


 掴んで引っ張ると、硬い抵抗をしながらも伸びていく。


 これは……


 スライムスライムだ!!!!


 前世にあったあのスライムが、抱きかかえられるほどのサイズで目の前にある……!これは、抱きつくしかない!!


 むぎゅうぅ……。


 おお、おお……。スライムが、私の目の前いっぱいに広がっているうぅ……。顔を埋めると……うは〜最っ高!

 もうね、死んでもいいわ。いや、転生してるんだからもうきっと一度死んでるんだろうけどさ。


 はっっっっっっっ!!


 何を考えていたんだ、私は……!?死んでもいいなんて、そんな……


 まだ切ってないし、シャキシャキスライムも作ってないのに!!!!

 それに、現実世界向こうでのスライムをこっちでも広められれば……!


 おちおち死んでも居られねえ!この世界を、スライムで溢れさせるために!!

「わたしたちのぼうけんはこれからだ!」

 私はスライムを横に抱え、そう叫んだ。


§


「社長、またそれですか……」

 男が私の部屋に入ってくるなり、そう言った。

「それとはなんだ!スライムは至高の生物なんだぞ!!」

 私は今、スライムに埋もれている。全身全てを、スライムの感触が包み込む……。はあ、幸せ……。

「それに君だって、その眼鏡の耳掛けについてるのはなんだい?スライムクッションじゃあないか。君も人のことは言えないよ……」

「社長のそれは度を過ぎているんです。同じにしないで下さいよ。……ところで、スライムまくらの売り上げですが……」

 そう、私は前世の知識を使ってスライム会社を起業し、見事成功を収めたのだ。

 メラミンスポンジなどの前世から流用したものや、スライム素材を用いた家具などを取り扱っている。

 今では金も腐るほどあるし、周りはスライムでいっぱいだ。もちろん、孤児院で最初に遊んだ子も一緒だ。


 はあ、幸せだ。

 異世界転生最高!!


===


~おまけ~ ある日の孤児院にて

「ほうほう、これがいいんかい?はあぁ~いい音~」

「あれ、ミカちゃん何してるの?」

「あ、ナナちゃ……」

「ぎゃああぁあ~‼‼‼‼ミカちゃんがスライム切り刻んでるううう‼‼‼‼‼」

 孤児院は大騒ぎになりましたとさ、ちゃんちゃん。


 拙作の連載小説、『血銀の十字架』もよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897358501

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