恥ずかしい?

 手を繋いでソフトクリームを食べながら、理沙ちゃんをちらっと見る。理沙ちゃんも横目に私を見ていて、目があった。


「……」


 一瞬お互い固まってしまう。でも、そんな必要はない。私はぎゅっと理沙ちゃんと握りあう手の力を強くして、またぺろっとなめた。

 理沙ちゃんはちょっとだけ目を見開いてから、にへらっと笑ってぎゅっと握り返してくれた。


 その笑顔を見てると、胸がぎゅってなってちょっと苦しいけど、何だか幸せな気持ちになってくる。今日は今まで以上にデートっぽくて、なんだかすごく、いいと思う。


「あ、理沙ちゃん。あのさ、味、お互いに食べくらべない?」

「あ、いいけど、あ、でも、その、スプーンとかないし」


 もっとデートっぽいことがしたくなって、私はそう提案してみた。理沙ちゃんはなんだかお上品なことを言っているけど、普段からソフトクリーム食べるのにスプーン使ってないでしょ。


「別にいいよ。あーんして」

「う、あ……あー」


 一押しすると理沙ちゃんは赤くなりながらも素直に顔を少し出して口を開けた。私のはイチゴ味で、理沙ちゃんはバニラだ。


「ん……お、美味しいね」

「うん。理沙ちゃんのもちょーだい」

「う、うん」


 理沙ちゃんが差し出すソフトクリームをひと舐めする。うん。普通にバニラ味で美味しい。次に自分のイチゴ味を一味。うん。やっぱりイチゴ味が一番おいしい!


「美味しいね。理沙ちゃんはアイス食べてるの結構バラバラだけど、何が一番好きなの?」

「うーんと……ううん、アイスは全部好きだよ。甘いし」

「甘いのは何でも好きなんだね」

「うん」


 理沙ちゃんはちょっと迷いながら答えてくれたけど、確かにいつもアイスに限らず、同じのをよく食べてるってことはなかったかも、理沙ちゃんは好き嫌いが多いイメージだったけど、甘い物は全部好きなだけで特別どれが好きってことはないのか。


「じゃ、もう一口あげるね。あーん」

「あ、あー」

「あー! いた!」

「しー! 美香ちゃん駄目! 今いいところなのに!」

「!?」

「んぶっ」


 あーん、と理沙ちゃんに揚げようとしたところで急に聞こえた聞き覚えのある声に、私は勢いよく振り向いた。そこには当然の様に友達の美香ちゃんと詩織ちゃんがいて、詩織ちゃんはちょっとばつがわるそうな、美香ちゃんは楽しそうな顔でこちらに駆け寄ってきた。


「はろー! 奇遇じゃーん!」

「ご、ごめんねー、春ちゃん。いいところだったのに」

「ど、どうして二人がここにいるの!?」


 デートらしいことしてドキドキして楽しかった分、それを友達に見られてたかと思うと顔から火が出るかと思うほど恥ずかしくなってしまって、私は慌てて立ち上がって誤魔化すようにそう尋ねた。


「えー、だから奇遇だって」

「あの、ごめんね。とりあえず先に、そっちのお姉さんの顔を拭いてあげた方がいいと思うよ」

「あ、ご、ごめんね、理沙ちゃん」


 言われて見ると理沙ちゃんの顔にはべったりソフトクリームがついていた。あわわ。さっきぶつけたのか。


「ちょっとこれ持ってて。拭くからじっとしててね」

「あー、ありがと。美味しい」


 とりあえず美香ちゃんにソフトクリームを渡して、鞄からハンカチを取り出して固まってる理沙ちゃんの頬をぬぐう。何か背後で食べられてるっぽいけどとりあえず置いておく。


「ごめんね、理沙ちゃん」

「う、ううん。大丈夫」

「よかった。それで、えっと、何で二人ここにいるの。わざとでしょ」

「ばれた? へへへ、だって気になるじゃん。紹介してよ。この間は従姉妹だからスルーしたけど、恋人なら話は別っしょ。あ、アイスは溶ける前に食べよっか」

「あー、よし。とりあえずアイス食べよう」


 溶けちゃうからね。自己紹介の前にさっさと食べることにした。

 何故か私のイチゴはそのまま美香ちゃんが食べてるけど、この気まずいまま時間をかけて食べてる方がめんどくさいのでいい。


 もうすでに半分以上食べてたので、残りのコーンをバリバリ食べてはいおしまい。


「ごちそうさまー」

「ごちそうさま。理沙ちゃん、ごめんね、慌てて食べて」

「あー、大丈夫」

「じゃ、自己紹介しよっか。急にお邪魔してすみません。私たち、春ちゃんのクラスメイトなんです」


 まるで常識人みたいな顔をした詩織ちゃんがニコニコしながら場を仕切るように自己紹介をはじめ、美香ちゃんのことを紹介し、前から私から恋人のことを聞いていて気になっていて、もしかしたら会えるかと思ってつい来ちゃいましたー、邪魔してごめんなさい。と口を挟む間もなく説明した。


「あー、うん」

「理沙ちゃんは優しいから気にしてないけど、私には謝ってね。あー、それで、まあ、今更だけど、鈴木理沙ちゃん、私の従姉妹で恋人だけど、口下手だから話しかけないであげて」

「えー、大人なのにー?」

「ちょっと美香ちゃん、失礼なこと言わないで。理沙ちゃんはそう言うところも可愛いの」

「あ、あの……は、初めまして」


 ちゃちゃをいれる美香ちゃんに注意をすると、まさかの理沙ちゃんが声をあげた。三人でぱっと見たので、理沙ちゃんは目をそらしたけどなんとかまた戻ってきて口を開いた。


「ご紹介にあずかりました、鈴木理沙です。えっと、春ちゃんによくしてくれて、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

「え、あ、はーい……。お、大人なのに、敬語使うんですね」

「私はいいと思うな。むしろ、大人の人って相手が子供だと思って初対面なのに偉そうにする人多いけど、あれってどうかと思うのよねぇ。ね、理沙さんもそう思いますよね?」


 理沙ちゃんがすらすらと話し出したので一瞬びっくりしたけど、そう言えば仕事とか決まったこと話すのはできるって自分で言ってたし、敬語なら話せるってことなのかな?

 美香ちゃんはびっくりしてるけど、詩織ちゃんには好印象だったようだ。


 でも理沙ちゃんは詩織ちゃんに話しかけられて困ったように私に視線を向けてきたので、多分想定外で何を言えばいいのか決まってないことはわからないのだろう。


「はいはい! もう! これで紹介はしたんだからいいでしょ? 二人の気持ちは分かったけど、今日はデートなんだからまた今度にしてよ」

「そだね。会えたらラッキーくらいで、今日は普通に遊びに来てるし、じゃ、また学校でね」

「そうだね。邪魔してごめんなさい。理沙さんもまたね」


 手を叩いて注目を集め、二人を雑に追い払う。二人とも興味があってきたんだろうけど、デートの邪魔をするつもりはなかったみたいで素直に手を振って立ち去ってくれた。


「ふぅ、ごめんね、理沙ちゃん」


 と謝ったけど、よく考えたら社長先輩の時も同じことがあったんだし、別にそこまで謝ることもないか。


「ううん。大丈夫。……ちょっと疲れたけど。ちゃんとできてたかな? あの……恥ずかしく、なかった?」

「え? まあ恥ずかしかったけど」

「ご、ごめんねっ。あの、私、もっと、き、気を付ける、から」

「え?」


 なんで理沙ちゃんが謝るの? 私の友達のことだし、あーんしてるの見られたの恥ずかしいけど、言い出したのも私だし。むしろ、理沙ちゃんの方が小学生とデートしてるの見られて恥ずかしいとかじゃないのかな。


「いや、理沙ちゃん悪くないでしょ。何謝ってるの?」

「え、だって……私が、春ちゃんの恋人として、その、ちゃんとしてないから、恥ずかしかったんでしょ?」

「は? 違うから。単に、デートを見られて恥ずかしかっただけだから」


 全く見当違いなことを言われたので、思わず強めに言ってしまう。だって理沙ちゃん、ほんとに申し訳なさそうにしょんぼりして言うから。


「そう、なの? でも、私……うまく、話せなかったから」

「そんなことないよ。ちゃんと挨拶してくれたし、むしろちゃんとしてたって、詩織ちゃんなんか褒めてたでしょ」

「……ほんとに? 大丈夫だった?」

「本当。それに、多少うまくできないとしても、理沙ちゃんが恥ずかしいとかないから。そんなに自虐的にならないでよ」


 よしよし、と手を伸ばして頭を撫でて慰めてあげる。理沙ちゃんはちょっと恥ずかしそうに周りに視線を走らせてから、そっとはにかむように笑った。元気でてきたみたい。


「うん……ふ、え、えへへ」

「あ、今の笑い方可愛いよ」


 ふひひ、とまた笑いそうになったところで一瞬頬をひきつらせてから、えへへ、とちょっと可愛らしく笑いなおしたので褒めてあげる。

 理沙ちゃんは嬉しそうにニコっと自然な笑顔になったのでよしとする。


「おやつも食べたし、今日はもう帰ろっか。疲れたでしょ」

「……うん。ちょっとね。そうしようか」


 まだちょっと時間は早いけど、帰ることにした。徒歩で来たし、そこそこ距離あるからへとへとになる前に帰るのがちょうどいいよね。


「バトミントン楽しかったし、またしようね」

「うん……あの、手……いいかな?」

「え、いいけど……」


 歩きながら軽く話題を振ると理沙ちゃんは真剣な顔でそう言いだした。その真顔にちょっとドキッとしながら手を出す。

 理沙ちゃんは目元をキツクして、ちょっと怒ってるみたいな顔になりながら私の手を、ガラス細工を持つみたいにそっととった。


「きょ、今日は、なんだか、積極的だね」

「……うん。嫌?」

「い、嫌じゃないよ……」


 嫌じゃない。でもこうも何度も求められると、何だか恥ずかしい。

 私たちはまた言葉少なくなってしまって、黙って家に帰った。




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