第7話 / エミリの気持ち②

カランッ ドアの開く音がする


面接官からマスターの顔になった口から「いらっしゃいませ」と聞こえてきた


見ると眼鏡を掛けスーツを着た男が入ってきた。


初めて見る男だった。


何よりここBAR【異世界】で他の来店者に会った事は無かった。


それよりも何? あの... 下半身... 馬鹿なの?


でも...正直あの男に助けられた。


あのまま答えていたら私は...間違った回答をしていたかもしれない。


話を聞いていると面接者では無い、たまたま紛れ込んできた一般人のようだ。


今は心を落ち着かせてあの男が帰るまで待とう。




マスターもあの男を早く帰らせてくれないかな。


あの男の聞きたくない話を延々と聞かされるし、自分に自信が無いのかネガティブな発言が多いし。


マスターも下品な会話が多い。


・・・


あーもう長い!!


「自己評価が超がつくほど低くてつまんない奴!!」


マスターが横眼で私を見る。


「落ち着きなさい。彼が帰った後に面接を続けましょう」


「すみません...つい」


「彼は一般人ですので君の事も声も聞こえてないから大丈夫です」


・・・・・ 


・・・・・


ってあの男、私達の会話聞こえてない?私の事を見える見えないとか金髪娘とか失礼な事をさっきから言ってる。


マスターもあいつの嘘に引っかかって異世界の事まで話し始めちゃったし一体なんなの?


結局、私まであいつと会話してしまうし、マスターは彼の才能に惚れた?からなのか異世界の事を話し始めてる。


・・・


異世界へ転職?あいつがホワイトボードに何か書き込んでいるので思わず隣に座ってしまっていた。


転職のポイントを異世界に当てはめマスターも丁寧にあいつへ説明していた。


でも、私が知らなかった情報も多く聞き入ってしまっていた。


あいつと会話をして1つ気が付いた。私の事をエミリと名前で呼んでくる。


馴れ馴れしいと最初は思った。だけどお父さんが居なくなってから10年間は色んな事がありすぎて生きる屍だった。それが自分の存在を認めてくれるようでなんだか嬉しかった。


本当はエミリという名前が嫌いだった。お母さんはテレジアと呼んでくれるのにお父さんは何故かテレジアと呼んでくれなかったから。


マスターから彼へのオファーを聞いて驚いた。


異世界からの逆転送時にスキルを1つ持ち帰ることが出来るですって?


正直彼へ嫉妬してしまった。


でも、彼は私の面接の最中にオファーを貰うのは間違っていると言って出ていこうとした。


私の面接の事忘れていなかったんだ...


彼との掛け合いが良かったのか、落ちてもしょうがないという気持ちでマスターに最後の質問の回答を本心で答えたら合格を貰うことが出来た。


ただ、自己評価の低いつまらない奴だと思ってたけど、彼の他人に対する気遣いや立ち振舞いに惹かれるものがあった。マスターも同じように感じたからオファーを出したのだろうか。


マスターに異世界へ行く日程を後日伝えてくれるとの事で退店を促された。これでもう彼と会うことは二度と無いかもしれない。


BARを出る前に彼へ「ありがとう」と言いたかった。本心だったが言い慣れてないから小さい声になってしまった。


彼へ伝わったかな?


帰宅途中にマスターから私の携帯電話に連絡があった。


聞くと緊急事態との事で第12並行世界まで行って彼をBAR【異世界】まで連れてきて欲しいとの事だった。


ただ、彼の記憶から異世界に関するすべての情報を消去したとの事。


勿論、私の記憶も...


マスターから彼の情報を貰い後はどうやって彼を連れていくか相談した。


「そんなの簡単ですよ。彼に声を掛けなさい。逆ナンって奴ですよ」


「逆ナン?」


「エミリさんの世界では"逆ナン"とは言わないのですね。ようするにエミリさんから声掛けて彼を誘って仲良くなってお酒のんでその後にホ...」


「嫌です!」


「道を尋ねるふりとか、アンケートの協力とか言って近づくのも自然で言いかもしれませんね」


「参考にします...明日、そちらに伺います。第12並行世界への転送準備をお願いします」


異世界行きチケットをエサに私は利用されていることは承知していた。


それよりも、再び彼に会うと思うと心臓の鼓動が高鳴った。

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