第6話 / エミリの気持ち① (エミリ視点)

------------- エミリがBAR【異世界】に入店した時まで遡る


立て看板に【異世界】と書かれている近くのドアを開ける


「いらっしゃいませ」


オールバックのバーテンダーがこっちをみて静かにしゃべる


「ご注文はどうされますか?」


「ダンディなあなたに抱かれたい...」


面接者の合言葉と教えられたけど単にこの親父の悪趣味としか思えない。


「かしこまりました。面接の方ですね。一番奥の席に座ってください、何か飲み物は?」


「結構です」


「ダイエット?」


「違います!」


「おほんっ。それでは時間になりましたので最終面接を行います。異世界の言葉で質問していきますが大丈夫ですか?」


「はい、問題ありません」


「質問には正直に答えて下さい。それでは自己紹介をお願いします」


「西園寺テレジア=エミリと申します。XXXX年4月3日生まれの24歳です」


「エミリさん、ここに初めて来てから何年になりますか?」


「3年になります」


「異世界語が驚くほど上達しましたね」


「マスターから事前に頂いた教材のおかげです」


「そんな事はないです、本人の努力なくして習得するのは不可能だと私は思いますよ」


「あなたの経験が異世界で貢献出来ると思いますか?」


「私は、医学部を出て現在医者の卵です。異世界へ行ければ持っている知識、経験で病人の治療が出来ると思います」


「異世界の情報は事前に説明させて頂いた通りです。最終確認ですがどうしても異世界へ行きたいですか?」


「気持ちに変わりありません。全てをこの日の為に注いできました」


「異世界へ行って何をされたいですか?」


「行方不明になった父を探す事です」


「以前にもそのお話しを聞かせて頂けましたね。しかし、異世界へ行ったという確証は?」


「10年前突然私達家族の前から父は消えました。警察に行ったり探偵を雇いましたが何1つ情報がありませんでした。しかし4年前、父らしき人物を見たという人を見つけました。その人が言うにはビルの壁の中に吸い込まれて消えていったというんです」


「なるほど」


「半信半疑でした。でも父を見つける手がかりになるならとその日からビルの前で張り込みをしました。1年が経とうとした時です、1人の男性がビルの壁の中に吸い込まれるように消えていったのが見えました。周りに人がいるのに誰も気づいて無いようでした。意を決して私は壁の中へ飛び込みここに辿り着いたのです」


「あなたの想う強い気持ちが異世界の入口と波長が合ったのかもしれませんね。あなたのお父さんの名前は確か...」


西園寺光彦さいおんじみつひこ


「西園寺光彦さんでしたね...私は5年前から面接官を任されていますので10年前の事は分かりませんし守秘義務があります。しかし今日は最終面接です...」


分厚い手帳をぱらぱらとめくり何かを探しているようだった。


そして、手帳の中から何かを見つけるとマスターは私にこう言った。


「ここまでたどり着いたのだから特別に教えてあげましょう。確かにあなたのお父さんは10年前にここに来て異世界へ転送された記録があります。逆転送の記録もありません。今も異世界にいるのは間違いないのですがどこで何をしているかまでは分かりません」


「......」 やっと見つけた。


エミリの頭の上の光の玉が真っ赤に激しく燃え始めた


「ふふっ」


「何か面白いですか?」


「いいえ、何でもありません」


「...私も質問してもいいでしょうか?」


「どうぞ」


「今までの合格者はどういう理由で異世界へ行ったのですか?」


「そうですね... 抽象的になりますが大半は現状の生活に強く不満をもっていたり、何か強い想いを抱いている者がここBAR【異世界】と波長が合い来店します。見込みのある者は私から異世界の話をして興味があるか確認し、あたなへ提示した同じ課題をクリアし最終面接に合格して異世界へ転送されています」


(つまり、お父さんは突然居なくなったのでは無かった。時間を掛け課題をクリアして異世界へ行く準備をしていた。現状に強い不満があったから?お母さんと私を捨ててまで異世界へ行ったのはどうして?お父さんが居なくなったせいでお母さんがどうなったか知ってる? 絶対許せない!)


暫く私をじっと見ていたマスターが口を開いた


「必要な4つの条件の内3つ迄合格です。1つ目はここのBARにたどり着く事。2つ目は異世界語が喋れるようになる事。3つ目は異世界生活に対応出来る能力がある事」


「最後の条件は何ですか?」


「簡単な事です、最後の質問に答えて下さい」


「最後の質問?」


「そうです。それでは質問します、あなたは異世界でお父さんを見つけたらどうしますか?」


想定外の質問がきた。


お父さんを抱きしめて辛かった日々を話します。もう1回家族で過ごそうって説得して一緒にこっちの世界に連れて帰りたいですって答えれば満点回答になる?


違う...


そうじゃない。私がお父さんを探す本当の目的は...


私が答えられない事を知っているかのようないやらしい質問...


暫く沈黙が続いた。マスターは私が答えるまで何も喋らずじっと返答を待っている...


うまく答えないと......


うまく答えないと...


うまく答えないと


「...異世界で父に会うことが出来たら、私は...その...」


エミリの頭の上の光の魂が青白く小さくなり小刻みに揺れていた。

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