第5話 / 管理協会からのメール (田中視点)

私はもう1名の合格者を出して管理担当者へ報告したい気持ちでいっぱいだった。


「●●さん、それでは改めて聞きます。異世界へ行ってみませんか?」


「......」


彼は暫く黙っていた。


「異世界へ行く合格の基準は?」


「課題をクリアして、最後の質問に答える事です」


「課題なんてクリアしてないし、最後の質問も答えてないけど?」


「課題については基準に達している為免除になります。それに私はさっきからずっと異世界の言葉で喋っていますけど●●さんはなぜか理解し会話も成立してます」


「...異世界の言葉なんてぜんぜん意識してなかった。じゃあ最後の質問っていうのは?」


彼の眼は私に質問しろと言っていた


「いいんですか?オファーなので必要無いんですよ?」


「お願いします」


私は彼が答えたくない質問をしなければならないが彼の魂を読み取った時、実は1つ用意出来ていた。


「質問します。あなたが会社を解雇になった理由は?」


彼の顔が薄ら笑ったように見えた。


「なるほど、そういう事か...」


「答えられませんか?」


「いや、解雇になった理由は電車で痴漢して逮捕されたからですよ」


彼の頭の上で魂が青白く震えているのがわかる。


彼は嘘をついている。


「●●さんありがとうございました。残念ですが...不合格です」


「そうですか、残念です。それじゃあ記憶を消してください」


「●●さん、私も残念です。私はあなたの素質に引かれたんです。異世界へ行って貰いたかった」


「皆買い被りすぎなんですよ。もし行ったとしてもあっという間に死んで逆転送が関の山。そんな素質、俺には無いですよ」


今思えば彼は異世界へ行くつもりはなかったのだろう。


こうして私は彼の記憶を消して第12平行世界へ放出した。もう2度と戻って来れないように。



ピロリーン



どうやら管理担当者から返信があったようだ。

早速返信内容を確認する。


BAR【異世界】


面接官担当 田中殿


ご苦労様です。管理担当 今井です。

報告書受け取りました。


合格者西園寺テレジア=エミリについては異世界行きを承認する。


ただし、彼女の異世界行きの日程、転送場所については以下の件がクリアになり次第とする。


件の不合格にした第12並行世界の彼についてデータベースで照合したところ"該当無し"と出ている。"該当無し"の原因としては3つ考えられる。


1.単純な登録番号の報告間違い

2.登録番号情報の変更または消去されている

3.検索されては困る人物


1.ならば不問とするので早急に返信するように。


2.の場合、我々が管理しているデータベースの不備により登録番号の変更または消去された可能性がある。


3.だったら問題だ。我々では対応出来ない可能性がある。上からの圧力、例えば一国の王もしくわそれに近い権力者により意図的に検索されないようになっている。


2もしくわ3の場合、いずれにせよ、彼をもう一度BAR【異世界】へ来店させ彼の魂を深掘りして読み解く必要がある。これは前代未聞の事である。早急に調査し結果を報告するように。


異世界人である君1人で第12並行世界へ行って彼を見つけることは困難であろう。西園寺テレジア=エミリを使って捜索することを許可する。彼女は違う並行世界ではあるが捜索させるのに問題無いと判断する。それに彼の顔を知っているのは好都合だ。


彼女には彼を見つける迄は異世界へ行けないと協力するように仕向けなさい。


尚、重要事項が含まれる為、この返信を読み終えた後必ず削除するように。


以上、


異世界管理担当

今井



読み終えた後、私は直ぐに削除と返信をした。

いつまで経ってもこちらの世界の連絡手段は慣れない。が直ぐにエミリアへ電話をした。


「もしもし」


「エミリさんですか?面接担当の田中です。異世界管理担当者より回答がありました。面接の最終質問の回答に不安があるとの事です。安心してください、合格に変更はありませんが追試を受けてもらいます」


「どういう追試でしょうか?」

彼女は冷静に私に聞いてきた。


「面接の最中に来店した●●さんです。彼をBAR【異世界】まで連れてきて欲しいのです。残念ながら彼の記憶から異世界の事、ここの事、そして君にあった事は全て消去されています」


「つまり、彼はオファーを辞退したと言うことですか?」


「...そういう事になります。本来なら守秘義務があるためお答え出来ないところですが緊急事態なのでお答えしました」


「...分かりました。知っている彼の情報を全て教えて下さい」


「お願いします。期限は1週間以内とします」


―――後は彼女に賭けるしかない。もしかしたら私は大きな間違いを犯したのかもしれない。

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