第27話 反撃の拳

奴隷と看守たちが集う労働場所にて、大勢の悲鳴と怒声が響き渡る。

アクスとリーナの二人が暴れまわり、看守たちはすでに追い詰められていた。

「でえりゃゃあ!!」

敵の中に突っ込んだアクスが拳を振るだけで、多くの敵が吹っ飛んでいった。

「ためらうな!撃て!」

武器を構え、看守達がアクスを狙った。

それに気づいたアクスは指先から冷気を放ち、看守たちの武器をを凍らせた。

武器を使えなくなった看守達はなすすべもなく倒されていった。

「遠くからだ!距離を取って戦え!」

副看守長の作戦により、遠くから看守達が武器を構えた。

「放て!!」

号令によって機械仕掛けのボウガンから放たれた電気の矢は、アクスを狙って飛んでいった。

すると、リーナが飛んでいく電気の矢の前に現れ、矢を容易たやすく弾いた。

すかさず狙撃してきた看守達に手を向けた。

『ショッキングブレイク』

リーナの掌から微弱びじゃくな電気が発生し、機械仕掛けの武器を爆発させた。

「たかが数人に何を手間取っているんだ!」

「しかし…!やつらの動きが素早く…ぐはぁ!」

あっという間に敵を倒していく二人の姿を、ヘルガンは離れた所から見守っていた。

「相変わらずすごいなぁ…」

その後ろから、一人の看守が金棒かなぼうを持って近づいていた。

「危ねぇ!」

それに気づいたニバが、敵から奪った武器を敵に叩きつけた。

「アクスのお仲間さん、大丈夫か!?」

「あっ…ありがとうございます!」

ニバは高い岩山に登り、息を大きく吸い込んだ。

「聞け!同胞達よ!!」

張り上げた声が皆に伝わった。

「今こそ好機!彼らに味方して、奴等に一矢報おうじゃあないか!!」

しかし、他の奴隷達はニバの言葉に対して強く反抗した。

「……今更逃げたところで…!どうにもならねぇだろ!俺達は、身内すら殺されちまったんだ!!」

「こいつらの言うとおりだじじい!」

一際大きい体格の看守が、下卑げびた笑いを見せた。

「パルーン様が復活した今、てめぇら雑魚が群れて来たって無駄なんだよ!大人しく奴隷しとけ!」

「無駄ではない…あのバカな王を倒すことで、この星だけではなく他の星まで救えるのだ!!今こそ立ち上がる時じゃ!!」

奴隷達に向かって、拳を高く掲げてみせた。

「あほらしい御託は結構だ!さっさと死ねぇ!」

看守は重い鉄球をぶら下げた鎖を持ち、ニバを狙って叩きつけた。

重い攻撃にニバは対応できず、地面に強く叩きつけられた。

「偉そうに言ってた割に弱いじゃねぇか!」

鉄球をどかすと、砕けた地面には血だけが飛び散っていた。

「あ?どこに消えやがった…」

「わしはここじゃ!」

看守が声に気づいた時、傷負ったニバが看守の顔に飛びかかっていた。

顔に張り付いたニバは、手にした棒で強く殴りつけた。

「くらえ!」

棒にはボタンが付いており、ニバがそのボタンを押すと、電気が棒の先端に流れた。

棒と接触していた看守は強い電気が体を流れた。

体が電気で痺れ、黒焦げになった看守は地面に倒れた。

一緒に地面に倒れたニバは、立ち上がって勝利の雄叫びを上げた。

「ニバのじいさん………」

「俺たちもいくぞぉ!」

ニバの行動に触発された奴隷達が、落ちていた武器を拾い上げた。

「いいぞ!わしたちでパルーンの奴に思い知らせてやろうぞ!」

「うおおおお!!」

奴隷達が看守たちに襲いかかった。

看守たちは大勢の奴隷に数で押され、形勢がさらに不利になった。

「くそっ!どうにかこの事を外へ知らせなければ…」

「その必要はありません」

「ユニシア様!?」

どこからともなく、ユニシアが現れた。

「あいつは…!」

目が合ったアクスは、ユニシアに対して構えた。

それに気づいたユニシアは、動じることなくアクス達に歩み寄って行った。

「お元気そうでなによりです、アクスさん」

アクスの前に立ったユニシアは、鞘から剣を抜いた。

それを前にしてアクスは警戒を緩めず、ユニシアの顔を真っ直ぐに見つめていた。

ユニシアは一つ息を吸うと、剣を振り上げた。

だが目の前にいたアクスは動こうともせず、じっと立っていた。

するとユニシアは突如振り返り、自分の味方である看守たちに斬撃を放った。

斬撃は宙を伝わり風のように流れ、看守たちを切り裂いた。

ユニシアの行動にその場に居たほとんどの者が驚いた。

「なんのつもりですかユニシア様!?」

看守たちが騒ぎ立てる中、ユニシアは振り返った。

「どういうつもりだ…」

「私はあなた達に加勢しに来ました」

「なんじゃと!?」

ユニシアの言葉に、アクスは驚く素振りも見せずに鋭い視線をぶつけていた。

「…悪いが信用出来ねぇな、俺たちに協力してなんのメリットがあるんだ?」

「少なくとも貴方達にメリットはあると思いますが」

「分かんねぇな…」

「いいわよ」

後ろで話を聞いていたリーナが、アクスの代わりに答えた。

「リーナ、だけども…」

「時間が無いのよ、今はこいつを信じましょう。もし裏切ったとしたら私が責任を持ってひねり潰してあげるから」

「ありがとうございます。では…ここを制圧しましょうか」

「……まぁいいけどよ…あとでちゃんと理由を教えてもらうぞ!」

アクス達三人は先頭に立ち、看守たちを蹴散らしていった。


「で?わざわざ俺を呼び出したかと思えば、俺の部下がやられていく様子を見せるとかなんのつもりですか?」

城に呼ばれたジーニンが、水晶に映されたアクス達の戦いを見て、パルーンに問い詰めた。

「これを見ろ」

懐から黒い光を放つ玉を取り出したパルーンは、手に浮かせた状態でジーニンに見せた。

「どんどん大きくなっているだろう…これは“負の宝玉”という」

「随分とすごい力を感じますね…」

その玉に触れようと、ジーニンが指を近づけた。

「おっと!無闇に触れるな、指が失くなるかもしれんぞ?」

「で、これがなんだって言うんですか?」

「これは人の負の感情を吸い取り大きくなっていく。私が千年前に地球へ行ったときに偶然発見した物だ」

「…なるほど、つまりはわざと反乱を起こさせてそのエネルギーを集めようってことですか」

「そういうことだ。だからあいつらは放っておけ、今はな…」

「くくく…分かりました。ですがユニシアはどうします?」

「明日宴を開く、そしてその事はユニシアにも伝えてある。あいつが裏切るなら、その事を奴らに話すだろう…」

黒い光で照らされる部屋の中で、パルーンは邪悪な笑みを見せた。


時が経ち、アクス達のそばには看守達がボロボロの状態で山積みにされている様子があった。

戦闘を終え、激しい戦闘の音の代わりにリーナの怒声が響いていた。

「あんたねぇ!あんなクソみたいな野郎に負けるなんてふざけてんじゃないわよ!!」

アクスの胸元に掴みかかり、怒りで赤くなった顔を近づけていた。

「それに関しては悪かった…っていうか、俺はてっきり勝手な事をしたことで怒ってるのかと…」

「それもあるわよ!このボケナス!!」

怒声と共に放った平手打ちは、アクスを簡単に吹き飛ばした。

受けたダメージは大きく、アクスは地面に倒れて立ち上がれずにもがいていた。

「あっ…あのっ!やりすぎですよ!」

静止したヘルガンに振り返り、睨んだ。

「あんたもなに捕まってんのよ…!」

「いやぁ…そのぉ…占いでお金を稼いでたら捕まってしまって…」

リーナは手をパキパキと音を鳴らし、ヘルガンに近寄った。

「やめて!アクスさんでさえあの痛がりようなのに、僕がくらったら死んじゃいます!!」

慌てふためくヘルガンを睨み、大きなため息をついた。

「まぁいいわ…それよりもユニシアだっけ?なんのつもりで私達に味方したのか教えてもらうわよ」

少し離れた位置に居たユニシアを見て、距離を保ったまま問いかけた。

「理由は単純です、サリア様の力になりたいのです」 

「サリアの?なんで?」

「それは…」

「話さないつもり?」

リーナが厳しく問い詰める。

ユニシアは言葉が詰まり、目を閉じて黙ってしまった。

「なぁリーナ…さっきは俺も警戒してたけどよ、一緒に戦ってくれたし敵じゃねぇと思うんだが…」

「あんたは黙ってなさい」

黙っていたユニシアは大きく息を吐くと、目を開いてみせた。

「私は少し前まで心などありませんでした。ですが少し前のこと…私が地球に偵察に向かった時の話です」

ユニシアは小さく口を開き、語り始めた。


時はさかのぼり、地球での季節は冬。

ミルフィの町から少し離れた平原に、小さな球体の宇宙船が降り立った。

扉が開き、ユニシアが初めて地球に足を踏み入れた。

「こちらユニシア、地球に到着しました。これより任務を開始します」

ユニシアは宙に浮かぶと、ミルフィの町目掛けて飛んでいった。

空から降る雪にまぎれ、ユニシアが空から町を見下ろしていた。

ユニシアは耳に付けた機械を操作し、写真をいくつか撮ると、月と通信をとった。

「地球人の写真を送信。これより目標を捜索します」

『了解』

ある程度の偵察を終えたユニシアは、アクス達の住む拠点に進路を変えた。

しばらく飛ぶと、アクス達の拠点が見えてきた。

すぐ側の森に身を隠し、家の様子を伺う。

「それじゃあ行ってきます!」

中からサリアが現れ、すぐ後ろにはアクスが付いていた。

町へと向かっていく二人を追い、ユニシアは気配を消し、距離を取りながらあとを追った。

町へと付いたサリア達は、ヒーラ教の教会へと入っていった。

他の建物よりも小さく、こじんまりとした教会であったが、手入れは行き届いているのか綺麗きれいな教会であった。

少し遅れてやって来たユニシアは、教会の窓から中の様子を覗き込んだ。

そこには、サリアとアクスを含めたヒーラ教の人たちが料理をしていた。

それも何百人も食べれるであろう、食事の量だった。

「さて…じゃあみんな!これをみんなに配っていきましょう!」

「はーい!!」

教会の扉を開き、町中に呼びかけた。

「配膳の時間でーす!!」

すると、町中から人が押し寄せてきた。

小さな子どもに薄汚れた老人、様々な人がやって来た。

押し寄せて来た町人達に、サリアが筆頭に食事を配っていった。

「みんな慌てないでいいからね、ゆっくり食べなさいよ」

「わかった」

誰よりも早く、アクスが食事にありついていた。

「って!なんであなたが一番に食べるのよ!!」

「手伝ったら食べていいって言ってただろ」 

アクスとサリアの会話に、周りで笑いが起きた。

それを隠れて見ていたユニシアは、フードを深く被り、顔を隠した状態で近づいていった。

「あの…私にも食べ物をわけてくれませんか、ヒーラ教の者ではないのですが…」

「もちろんいいわよ。はい!」

サリアは皿に温かいスープをよそい、パンと共に渡した。

「ありがとうございます…あの…なぜこのようなことを?」

「…そりゃあ、ここ最近色々と大変なことがあったからね、町の人達も満足に暮らしていける状態じゃないのよ。だから、私達がこうして出来ることをやっているのよ」

そう語ったサリアの目は、一切の曇りも無かった。

「…ヒーラ教は一部の宗教から嫌われていると聞いています、嫌がらせを受けているとも聞きました。あまり目立つ行為をしたら危険なのでは…?」

「うーん……その通りなんだけど…私には頼りになる仲間がいるから」

サリアが目を向けた方には、アクスが居た。

「そうですか…少し…うらやましい…ですね」

「ところであなた、どこから来たの?」

「……遠い所です、すごく遠い所…」

「ふーん…ねぇ、何か困ってたりする?」

「えっ…?」

「なんだか心が読めないというか無いというか…なにか辛いことがあるんなら相談してちょうだい」

「………すみません、失礼します…!」

サリアの親身な態度に対し、申し訳なさそうに頭を下げて、ユニシアは黙ってその場から走り出していった。

「あっ…ちょっと!」

サリアの言葉が耳に入らぬよう、必死で走った。

「なぜ…私は動揺しているの…」

走る最中さなか、ユニシアは自分に問いかけた。

「なんだろうこの胸焼けは…心がなんだと言うんだ、私にはそんな物はないはずでは…」

気づけばユニシアは、やって来た宇宙船の前まで走って来ていた。

『どうかしたのですか?ユニシア様』

ユニシアの耳元から声が聞こえた。

「…なんでもない。今回の情報収集は完了した、これより帰還する」

通信を切り、ユニシアは宇宙船へと乗り込み、遥か彼方の月へと飛んでいった。

月へと向かう宇宙船の中で、ユニシアは胸に手を置き、一人で呟いた。

「心が無い…か…ならばこの胸焼けは何なのだ?私にも心はあるのではないのか?」

視界から去っていく地球を最後に見て、ユニシアは誰にも聞こえないようなか細い声で言った。

「……また…会いにいっても…いいでしょうか?」


「その日以来、私はサリア様の心に惹かれていきました。変装し、何度もサリア様と言葉を交わしました。その結果、私はサリア様の味方になりたいと心に決めました」

「……だってさ、あんたはこいつの言葉を聞いてどう思う?」

「……こいつの言うことは嘘じゃねぇと思う。思い返してみれば、パルーンの奴からサリアをかばってくれてたしな」

アクスはユニシアに近づき、そっと握手を求めた。

「手を貸してくれるってなら大歓迎だ!」

差し伸べられた手を前に、ユニシアは躊躇ちゅうちょしていたものの、アクスの満面の笑みを見て強く握った。

「似ていますね…あなたとサリア様…」

「そうか?似てないと思うけどな」

「でもいいんですか?味方だった人たちを裏切って…」

「構いません、最優先事項はサリア様の救出、そしてパルーンの討伐です。もう戻るつもりはありません」

その目には、今までには無かった熱い闘志が目に見えていた。

「それでは早速、私の方から一つ提案させていただきます。パルーンの暗殺です」

「暗殺か…じゃが、出来るのか?」

「私ならば近づくことが可能です。それに、私には奥の手がありますので」

「暗殺?なにつまらない事言ってんのよ、あのムカつく奴は私が正面からぶっ飛ばしてやるわ!」

「却下です。パルーンには五千の軍勢がいます、無謀かと」

「たかが五千の兵くらいどうってことないわよ」

「相手をあなどりすぎですよ」

「あんたが臆病おくびょうなだけでしょ」

二人の意見はまったくの逆で、さらにお互いにゆずり合わないゆえにぶつかりあっていた。

「楽に済むなら楽な方を選んでもいいじゃないですか!アクスさんもなんとか言ってください!」

「いやぁ…俺もあいつには借りがあるし、直接戦いたいんだけど…」

「……あなたに頼んだのが間違いでした…」

「では好きにしてください、私も好きにやらせてもらうのぜ」

「それが手っ取り早いようね」

「なんで協力しないのかなぁ…」

思うようにいかない話し合いに、ヘルガンは肩を深く落とした。

「次に、アクスさん。貴方はしばらく修行していただきます」

「修行?俺だけか?」

「リーナさんはともかく、今の貴方ではパルーンと戦うのは不安があります。ですので、一日修行してもらいます」

「一日でどうにかなるんですか?」

「そこはかなり過酷な場所らいしので一日でも大丈夫かと。それに、パルーンを狙えるのは明日だけですし」

「明日!?明日のいつだ!」

「明日の昼、城では宴が開かれます。明後日は処刑の日ですし、明日しかないかと」

「……わかった!早くそこへ連れていってくれ!」

「承知しました。その前にみなさんに忠告を…赤い瞳の敵には気をつけてください」

一言残すと、ユニシアは牢屋のある屋内へと入っていった。

それに続いてアクスが中へ入っていく。

しばらく歩くと、アクスが入っていた牢屋の近くの壁に着いた。

ユニシアが壁を強く叩くと、壁が壊れて道が出来た。

開いた穴を潜ると、目の前には白い扉があった。

「この扉の先です。中には時計があるそうなので、一日経ったら出てきてください」

「あるそうなので?中に入ったことないのか?」

「私は入れませんでした」

「じゃあなんで修行場所に選んだんだ?」

「この部屋は月に元々あった部屋です、中の詳細は本に書いてありました。この月は元々神が住んでいた場所らしく、神と関わりのある貴方であれば入れるかと…」

入れるかもどうかもわからない部屋に連れられ、アクスは戸惑とまどいながらもドアノブに手を掛けた。

力を込めて扉を押すと、扉が開いた。

中は真っ白い空間で、空気がひどく重い。

扉の目の前にはベッドや食料などがぽつんと地面に置かれていた。

だが、そんな事も気にならなくなるほどの異様な空気に加え、謎の重さが体にのしかかる。

アクスは辺りを見回してみたが、辺り一面真っ白でどこまで広いのか把握することは出来なかった。

「では、頑張ってください」

ユニシアは外から扉を閉めた。

部屋に慣れずアクスはその場に立ち尽くしていた。

息苦しそうに呼吸を短く繰り返してい。

しばらくして、ゆっくりと深呼吸をし始めた。

「……よし!段々慣れてきた!」

僅かな時間で部屋に順応し、重みが体を襲う中、アクスはサリアのためにこぶしを振るい続けた。













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