第26話 それぞれの思惑
牢屋にて、正面から勝利を宣言したアクスに、パルーンは吹き出した。
「ふははっ!面白い!牢屋に繋がれた貴様に何が出来るかのか楽しみにしているぞ」
そう言うと、パルーンの姿が足元から徐々に消えていった。
パルーンの姿が消え、再び静かになった牢屋の中でニバが言った。
「随分と自身満々に言っとったが、勝機はあるのか?」
「あるさ…次戦ったら絶対負けねぇ」
一切の不安も感じさせない、真っ直ぐな目でアクスは言った。
「そうかい!だが…そのためにはまずここから出ないとな」
「まだその時じゃねぇ…傷を直して、この牢屋の中で鍛えねぇと…もっともっと強くならねぇと…」
握った拳を掌に打ち付け、アクスは気合いを入れた。
それから時間が流れ、次の日の朝。
町では、パルーンの演説によって人々が混乱に陥っていた。
先程よりかは大分落ち着いたものの、人々の心は不安で満ちていた。
そんな中、町中で長い行列が出来ていた。
「ここの占い師さんの言うことは当たるって聞いてきたのよ〜、私の未来も見てちょうだい!」
「かしこまりました〜」
そこには、ラックルと共に占いをしているヘルガンの姿があった。
摩訶不思議なヘンテコな踊りをしながらラックルに念を送るといった、妙な真似をしていた。
「出ました!むむむ…こことはまったく違う豊かな星が見えます。そこであなたは今以上の幸せを得るでしょう」
「そうなの?でもどういうこと?他の星に移住するのかしら…」
「そこまでは分かりません、ですが私の言ったことはまごうことなき事実でございます」
「そう?まぁいいわ、見てくれてありがとう」
占ってもらった女性は、ヘルガンにお金を渡した。
「ありがとうございました〜!では次の方…と言いたいとこらですが今日はこれまで、さようなら〜」
突如占いを辞め、そそくさとその場を後にした。
並んでいた人たちは突然の仕事放棄に怒声を浴びせた。
「ちょっと!占いなさいよ!!」
「そうだ!そうだ!」
するとそこへ、タイミングよく武器を持った兵士たちが現れた。
「おい貴様ら!何をしている!?」
その場は一瞬で乱れ、人々が悲鳴を上げながら散っていった。
その場から逃れていたヘルガンは、何とか巻き込まれずに済んだ。
「危ない危ない…助かったよラックル」
「きゅいきゅい!!」
ラックルの能力で未来を見れる事を知ったヘルガンは、それで占いをしていたのだった。
しばらく走り続けると、広場のベンチで腰をおろした。
懐から包みを取り出して広げると、占いで得たお金が山積みになっていた。
「どうしよう…アクスさんが捕まっているのにこんな事しか出来そうにない…」
アクスが捕まったことは知っていたが、ヘルガンには金を稼ぐしか出来なかった。
ため息をつくヘルガンに、ラックルが頬ずりをした。
優しく接してくれるヘルガンを撫でながら、ヘルガンは言葉を掛けた。
「ありがとうねラックル…辛い時も一緒に居てくれるのは君ぐらいだよ〜」
「きゅい、きゅい」
ヘルガンとラックルがお互いに慰めあった。
「そこのきみ、少しいいかな?」
「はい?」
ヘルガンの前に二人の兵士が現れた。
「妙な占いをしている怪しい人物が居ると聞いたんだけど、ちょっとお話聞いてもいいかな?」
「………………っつ!!」
ヘルガンは逃げ出した。
城の長い廊下で、ユニシアは一人歩いていた。
足どりは重く、その足から鳴る足音からは重苦しい感情が感じ取れた。
サリアの居る部屋の前に止まると、扉を叩いた。
「サリア様、失礼いたします」
声を掛けてから中へ入ると、中には誰もいなかった。
部屋の電気は消え、窓が大きく開け放たれている。
開いた窓の側へ駆け寄ると、足元に観葉植物のつるが外に伸びていることに気がついた。
ユニシアは体を浮かせ、窓の外に伸びたつるの先を見た。
そこには、長く伸びた植物のつるに掴まっていたサリアが居た。
「なにをしておられですか?」
目があったサリアはバツが悪そうに目を逸した。
「危険ですのでおやめください」
ユニシアはサリアの腕を掴み、部屋へと戻った。
「まったく…お気持ちはわかりますが危険すぎます。貴女に何かあったらあのアクスとやらも心配しますよ」
「ははは…ごめんなさい…」
「ところで、ジベルさんはどこですか?」
「さぁ…?どこかに遊びに行ってるんじゃない?」
サリアは目も合わせずに、顔を背けて言った。
サリアのあやふやな言葉に、ユニシアは鋭い目線を向けた。
「……そうですか」
その時、窓の外で空中を漂うジベルの姿があった。
「ふぅ…無事に脱出成功…」
背中には白い羽が生えており、手には紅い液体の入った瓶を持っていた。
脱出をしようとしていたサリアとユニシアの間でとある作戦があった。
時間は少しさかのぼり、ユニシアが部屋に入ってくる数分前のこと。
「サリアさん!誰もいないうちに脱出しましょう!」
「いや…脱出したとしてもすぐにばれてしまうわ。だからあなただけ逃げて、そしてこの薬をアクスに届けてあげて」
サリアは紅い液体の入った瓶をジベルに渡した。
「特製のポーションよ、多分アクスはここから西の方に居るわ」
「どうしてわかるんですか?」
「窓の外から何人かの男の人たちが捕まった状態で西の方角へ連れて行かれていたの、おそらくパルーンの言っていた労働場所があると思うの」
「…わかりました!この私にお任せを!…ですが私一人ではそこにたどり着くのも一苦労ですよ?」
「大丈夫!ほいっ!」
ジベルの背中に向けて指を振ると、柔らかな白い羽が生えてきた。
「私はわざと逃げる素振りを見せて注意を引き付けるから、アクスのことよろしくね!」
という事があり、ジベルは空を飛びながら高らかに声を出した。
「サリアさんに頼まれた仕事…絶対にやり遂げてみせます!」
ジベルは威勢の良い小さな声を出して、西へと飛んでいった。
奴隷たちが働く場所では、自分の体よりも遥かに大きい岩を何個も持ちながら駆け回るアクスの姿があった。
「なぁ…あいつ、ここに来たときボロボロの状態だったよな?」
「あぁ…」
「骨が何本も折れていたよな?」
「あぁ…」
「なんで一日であんなに動けるようになるんだよ!?」
「知るか!」
看守たちの驚きなどつゆ知らず、アクスは大岩を運び続けた。
「精が出るな、アクスよ」
畑作業をしていたニバに声を掛けられ、アクスの足が止まった。
「まだまだ!こんなんじゃ足りねぇ!!」
アクスは威勢を張るように大きな声を出すが、体に巻かれた包帯から血が滲み出ていた。
「あまり無理すると傷が開くぞ」
「時間がねぇんだ!多少の無茶ぐらいなんてことねぇ!!」
話を終えるとアクスは再び走り出した。
労働場所を隅から隅まで走り回り、出入口である大きな鋼の扉の前を横切ると、扉が大きな音を鳴らし始めた。
「開門!開門!」
慌てた様子の看守の言葉と共に大きな扉が開いていく。
扉が完全に開くと、遠くから大きな音が聞こえてきた。
煙を巻き上げながら何かに乗った集団が扉に向かってくる。
「ヒャッハー!!」
大きな声で叫びながら、集団の先頭にいたジーニンが労働場所に飛び込んだ。
牙のような装飾が施されたバイクに乗り、働いている奴隷たちの中へと突っ込んでいった。
「オラ!どけどけ!轢いちまうぞ!!」
慌てて奴隷たちが避けようとするが、すでにジーニンは目の前まで迫っていた。
するとジーニンはバイクごと飛び上がった。
奴隷たちの上を飛び越え、ジーニンは地面を滑りながら一回転して止まった。
バイクから降りたジーニンは、拡声器を持って喋り始めた。
「うっそ〜!!大事な労働力を無駄に潰しちまったら俺が怒られるもんね〜!!」
「だっはっはっは!!」
一斉に看守達は笑いだし、労働場所の雰囲気が一気に変わった。
その光景を見ていたアクスはニバの元へ訪ねた。
「あいつ…誰だ?」
「パルーンの直属の部下、ここを管理している看守長ジーニンじゃ」
一人の大柄な男がジーニンに近づき敬礼をした。
「ジーニン様!来るときはあのような事はやめてくださいと何度も…」
「別にいいじゃねぇか!ところで副看守長…今日が何の日か覚えてるよな?」
「ええ…あの日ですね」
「てめぇらも何の日か覚えてるよなぁ!?」
「もちろんだジーニン様!!」
ジーニンの言葉に湧き立つ看守達に、それを見て震え始めた奴隷たちの姿があった。
「もうそんな日か…」
「なんだ?なんかあんのか?」
ジーニンは拡声器に向かって大きく声を張り上げた。
「今日は〜〜!月に一度の〜〜!処刑の日〜!!」
「うおおおおお!!」
なんとも恐ろしいことに対して、看守達は大きく盛り上がった。
「処刑!?」
「月に一度、働けなくなった者、仕事の遅い者は看守達の独断によって様々な方法で処刑される」
「そんなのがずっと続いていたのか?以前見た偉そうなやつはそんなことしなさそうなやつだったけどな…」
「確かにパルーン以降の王は比較的穏やかだった…じゃが何故かこの国の裏の事情に関しては誰も言わなかった。何かに取り憑かれたかのようにな…」
二人の話している間に、看守達が荷車に大きな水槽を載せて運んできた。
人が何十人も入れそうな水槽は、今にも水が溢れかえりそうになっている。
「よ〜し!今回の処刑の対象者を連れてこい!」
看守達に連れられ、十数名の奴隷達が連れてこられた。
ルーン人や異星人が混じった奴隷達は、涙を流しながらじたばたともがいていた。
「やだぁ!!助けてくれ!!」
「私は何もしてないんだ!冤罪なんだぁ!!」
奴隷達が口々と命乞いするなかで、ジーニンは大きな皿の上に盛られた金属片を食べ始めた。
スナック菓子のように金属片を食べながら、対象の囚人の数を指で数えていた。
「ん?おい!一人足りねぇぞ!新しく入ってきたやつはどうした!?」
「ただいま連れてきます!」
指示された看守が一人の囚人を引っ張って戻ってきた。
「ようこそ異星人よ!てめぇにはここの洗礼を受けてもらうぜ!!」
「ぎゃああ!!誰か助けてーー!!」
「きゅう〜!!」
ヘルガンだった。
さらにヘルガンの懐にはラックルもいた。
「ヘルガン?どうしてここに!」
「知り合いか?」
「俺の仲間だ」
捕まっているヘルガンを見て、アクスは少しずつジーニン達に近づいていった。
「よーし!まずは新人の洗礼からやるぞ!!あれを持ってこい!」
ジーニンが命令すると、一人の看守が熱せられた鉄の棒を持ってきた。
それを見たヘルガンは、何をされるのか即座に理解してさらに叫んだ。
「ぎゃあああ!!やめてください!助けてください!」
「ギャハハ!!助けなんてこねぇよ!さぁ…そっちの妙なペットもろとも熱々の鉄棒を押し付けてやる!」
「やめろ!」
人混みの中からアクスが飛び出し、ジーニンに蹴りを放った。
「アクスさん!!」
アクスに気づいたヘルガンが涙を流し安堵した。
放たれた蹴りは、鈍い音を立ててジーニンに当たった。
「っつ!!うおわぁぁ!」
蹴りを入れたアクスの足が、大きな音と共に折れ曲がった。
蹴られた当の本人は、頭をぽりぽり掻きながら地面に倒れたアクスを見下ろした。
「なんだぁ?………ああ!お前が例のやつか。急に何しやがる、頭イカれてんのか?」
怪我をしていたとはいえ、アクスの全力の蹴りを受けてもジーニンは平然としていた。
「…なんだこいつ…硬ぇ…」
足から吹き出す血を抑えながら、アクスはなんとか立ち上がるも、ジーニンの手がアクスを地面に押さえつけた。
「うるせぇな…てめぇもどうせすぐに死ぬんだ、じたばたしてんじゃねぇよ!」
「ぐっ…くそっ…!」
「少し痛い目にあわないと駄目みたいだな…」
近くに居た看守の腰から剣を抜き取り、アクスの体の上まで近づけた。
その途端、ジーニンの耳元からアラームが鳴った。
耳に付けていた通信機から鳴った音だった。
「うるせぇな!もしもし?」
「俺だ」
「これはこれはパルーン様…何か用すか?」
「今すぐ城に来い」
「…いくらなんでも横暴じゃないですかね?こっちだって仕事があるんですが?」
「いいから早く来い」
「……っち!わかりましたよ!今すぐ行きます」
会話を終えたジーニンはバイクに乗り込んだ。
「処刑は後だ、俺が帰って来るまで大人しくしてろ!」
部下を数人引き連れて、ジーニンはその場を去っていった。
ジーニンがいなくなった後、鋼の大扉が閉まった。
「全員!この場は解散!仕事に戻れ!」
一人の看守の号令により、看守や奴隷達は自分の仕事に戻っていった。
アクスは足を押さえながらヘルガンの
「ヘルガン!無事か!?」
「アクスさん!そっちこそ無事で?」
「まぁ…怪我は酷いけどな」
アクスの足からは未だに血が垂れていた。
「貴様ら!無駄話をしてないでさっさと仕事に戻れ!」
通りかかった看守に叱られ、ニバが二人に声を掛けた。
「わしらも仕事に戻ろう」
「いや…今がチャンスだ」
「……まさか…」
「おい!聞こえているのか!?仕事に戻れ!」
先程の看守が苛立ちながら、アクスに向かって棒で殴りかかった。
アクスは迫ってきた棒を手錠の鎖で受け止め、棒に鎖を絡めて引っ張った。
引っ張られた看守は地面に倒れ、さらにアクスから正拳突きをくらって気絶した。
「貴様っ…!何をする!!」
騒ぎに気づいた看守達がアクス達を取り囲んだ。
「アクスさん!?さすがにまずいですよ!何でこのタイミングでやるんですか!?」
「大丈夫だ」
アクスが、後ろにそびえ立つ岩壁の上に目を向けた。
すると突然大爆発が起こり、岩壁が爆発で崩れ落ちた。
その瓦礫によって扉が塞がれ、労働場所は完全に封鎖された。
「どうした!?何が起きている!」
「あそこ!侵入者です!」
一人の看守が岩壁の上を指さした。
そこには、岩壁の上に立っているリーナの姿があった。
「侵入者だと!?すぐにジーニン様に連絡を…」
『ショッキングブレイク』
看守達が連絡を取る前にリーナが仕掛けた。
手を下に向けてかざすと、至る所から機械が爆発し始めた。
「駄目です!機械が突然爆発を!」
「ぐぬぬ〜!おのれぇ!!」
怒った看守達はリーナに向かって武器を構えた。
機械作りのボウガンから雷の矢が発せられた。
それを見たリーナは岩壁の上から消え去り、雷の矢は空にある岩盤に深く突き刺さった。
「くそっ!どこ行った!?」
「どこ見てんだ!」
リーナに気を払っていた看守達を、背後からアクスが蹴り倒した。
「何をしている!撃てっ!」
「いや…!しかし…」
「構わん!撃てっ!」
「遅いわよ」
戸惑っているあいだにリーナが目の前に現れ、看守達にエネルギー弾を放った。
「リーナさん!来ていたんですか!」
「私だけじゃないみたいよ」
そう言ったリーナは、視線を空高く向けた。
そこには宙に浮かぶ瓶があった。
しかしアクスの目には、ジベルの姿が映っていた。
「ジベル!?なんでここにいるんだ!」
「アクスさーん!サリアさんに頼まれて来ました。これを飲んでください!」
空から瓶をアクスに投げ渡した。
「これは?」
「サリアさんが作ったポーションです!」
「なるほど!じゃ、早速」
瓶の蓋を開け、中に入っている赤い液体を一気に飲み干した。
すると、体の傷がまたたく間に治り、切り傷はおろか骨折までもが一瞬で治った。
「すげぇ!体が元通りに治ったぞ!」
アクスは手錠に手を掛け、手錠を簡単に引きちぎった。
自由を取り戻したアクスは、嬉々として戦闘態勢に入った。
「よっしゃあ!やるぞ!」
アクスが敵の前に立つと、その背後を守るようにリーナが立った。
「…ところでアクス、あとで話があるから」
「ん?わかった、後でな!」
アクスとリーナは背中を合わせ、敵の中に飛び込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます