第28話 ぶつかる熱気

パルーン討伐を志すアクス達は、着々と準備を整えていた。

アクスやリーナは独自の修行を、ヘルガンやニバは奴隷達と共に武器を集めていた。

気づけば、一日が過ぎていた。

「いよいよですね……」

「あぁ…いよいよじゃ…」

決戦まで残り数時間。ヘルガン達は最後の確認をしていた。

手筈通てはずどおり、お主達が正面から入ったあと、タイミングを見て我々は裏手から侵入する」

「わかってます…大丈夫です…」

口では言うものの、ヘルガンの体は震えていた。

「不安そうじゃな」

「それが…アクスさんが部屋から出てこなくて…」

「ふん…あいつがいなくたって私一人で充分よ」

怯えているヘルガンとは対照的に、リーナは普段と変わらず自信に満ちていた。

「そうは言いますけどね!パルーンってやつほかにも、五千の兵とユニシアさんを除いた二人の幹部が居るらしいじゃないですか!」

「上が大したことないんだから、幹部程度どうってことないでしょ」

あなどるでないぞ!幹部は二人とも赤い目の持ち主、特殊な能力を持っているはずじゃ」

「そういえばニバさんも赤い目ですよね、何か特殊な能力があるんですか?」

「わしか?わしはただタフなだけじゃ」

「えぇ…なんか残念ですね…」

「そんな事言ってないで、さっさと作戦を開始するぞ!!」

一足先にニバが、奴隷達を率いて城へと向かった。

道中で怪しまれないために、数人の奴隷が看守に変装して奴隷達を連行する作戦であった。

「それじゃあ私達も行きましょうか」

「本当にアクスさんを待たなくていいんですか!?」

「くどいわね、私一人で充分だって言ってるでしょ」

冷たい言葉を吐き捨て、リーナは一人で先に城へと向かって行った。

ヘルガンはアクスがいる牢屋の奥が気になるように視線を向けていたが、遠く離れていくリーナのあとを追うために前を向いて走り出した。

その頃アクスは、真っ白な景色が広がる空間で、何度も何度も拳を振り続けていた。

体にのしかかる重さも一日で完全に克服し、動きは以前よりも素早くなっていた。

しかしただ拳を振り続けていた訳ではない、どこからともなく突如とつじょ水が押し寄せたり、炎がアクスを包みこんだりした。

当然それだけでもなく雷や嵐、地面が裂けるなんて事もあった。

だがそれさえもアクスは乗り越え、全てを修行にかした。

大量の汗をかいたアクスは水入りの壺に顔を突っ込んだ。

不思議な事に、アクスが今居るわずかな場所と部屋の出入口だけは異変の被害に合わなかった。

壺の水を飲み干しベッドに横たわると、そのまま目を閉じて深い眠りに入った。


「見えてきたわよ」

リーナ達が城のすぐ近くまでたどり着いた。

「では、わしたちは裏手に回る。そちらも頑張ってくれ」

「ニバさん達も気をつけて!」

ニバは奴隷達を引き連れ、城の裏手へと進んでいった。

リーナとヘルガンの二人は城の正面に立った。

「きゅい!きゅい!」

ヘルガンの懐に潜んでいたラックルが突然騒ぎ出した。

「ん?どうしたのラックル…っつ!」

「なによ?未来でも見たの?」

「………あの…すごく嫌な光景が見えちゃったんですけど…」

「ふん…そんなことはとっくに想定済みよ!!」

威勢いせいの良い声と共に、リーナは城の門に拳を打ち込んだ。

巨大な門に穴を開け、穴から亀裂きれつが広がり門を砕いた。

門が崩れ落ちると、中から兵士達が武器を構えている様子が見えた。

「来たぞ!敵だ!!」

「うわぁ!やっぱり!!」

「撃て!!」

リーナ達を視界に捉えた兵士達は即座に狙撃した。

リーナはヘルガンを抱えて跳び上がり、攻撃から逃れた。

あらかじめ敵から奪っていた無線を使い、ニバと連絡を取った。

「もしもし!聞こえる!?」

『こちらニバ!どうした!?』

「宴なんか無い!敵の罠よ!」

『ああ!こっちもすでに把握している、ユニシアが教えに来てくれたんじゃ!』

「ユニシアが?」

『じゃからこっちは大丈夫じゃ、計画とは違った動きになるが作戦は続行する。気をつけて進んでくれ!』

無線が切れると、リーナは敵に向き直った。

「ユニシアの裏切りじゃないのか…」

「それよりもリーナさん!敵が来てますよ!!」

「仕方ない…ヘルガン、あんたはこいつらを引きつけなさい」

「なんでですか!?」

「私はこれから親玉をぶっ飛ばしにいくから」

「ムリムリムリ!!この数見てくださいよ!さっきよりも増えてるんですよ!!」

部屋のすみから隠れていた兵士達が続々と現れてきた。

「あんたには未来予知とここぞの時の度胸どきょうがあるから大丈夫でしょ。じゃあ頼むわよ」

ヘルガンの肩を軽く叩き、自身は城の奥の方へと向かって行った。

「ぎゃあああ!!薄情者ぉぉ!!」

叫びながらも、迫りくる敵の攻撃を走りながらかわしていくヘルガンは、そのまま大勢の敵を引き付けていった。


城の一室から、カメラ越しに二人を見るジーニンの姿があった。

モニターが何台も置かれ、その前でジーニンを含めた数人の兵士が城の様子を観察していた。

そこに現場の兵士から連絡が入った。

『申し上げます!正面に敵が二人現れました!』

「わかってるよ。だが一人少ねえな…まぁいいや、どこか他の場所からも敵が大勢侵入しているはずだ、じわじわと追い詰めてやれ!!」

『はっ!』

通信が切れると、椅子いすにだらりとくつろぎながら金属片を食べ始めた。

「ジーニン様!敵を多数確認、裏口から入ったようです」

「ほうほう…」

「それで…その…敵の先頭にユニシア様が映っており…」

「ほう!とうとう隠れずに来たか!!映像見せろ!」

兵士の頭を無理矢理どかし、ジーニンがモニターに目をくっつけた。

「馬鹿な女だ!素直に従っておけばいいものを!」

椅子から勢いよく立ち上がり、ジーニンは部屋の扉へと向かった。

「ジーニン様、どちらへ?」

「決まってんだろ!今なら女神ちゃんがフリーだ。処刑される前に楽しんでくるわ!!」

「しかし!侵入者が…」

「じじいもいるんだから大丈夫だっての!」

下品に笑いながら、ジーニンは大急ぎでサリアのいる部屋へと向かった。

「ふんふんふん〜!サリアちゃぁんあ〜そ〜ぼ〜!!」

ノックもせずに扉の向こうへと飛び込んだ。

「何か御用ごようでしょうか?」

ユニシアがいつになく冷たい目で、ジーニンをにらんでいた。

ジーニンは言葉も出ずに、姿勢も崩さずにユニシアの顔をまじまじと見つめていた。

「は?…………えっ?」

「用がなければ帰ってください、ここはレディの部屋ですよ」

部屋の外へとジーニンを追い出すと、扉を閉めた。

「んん?なんであいつがここにいるんだ…?」

元居た部屋に戻りながら、ジーニンは考える。

「おかえりなさいませジーニン様。先程さきほどユニシア様がパルーン様のいらっしゃる玉座の間へと向かって行く様子が見えました」

「なにぃぃぃ!?」

驚いたジーニンはすぐさまパルーンと連絡を取った。

『パルーン様!今そちらにユニシアが…』

「ああ…私のすぐ前に立っているぞ」

『だけど今、女神の部屋にユニシアが居て…!』

「なに…?」

パルーンの意識がジーニンの言葉に向いた瞬間、ユニシアがけんを抜き、抜くのと同時に斬りかかった。

けんはパルーンの顔を前に腕で止められた。

「貴様…何者だ!」

腕でけんを大きく払い除け、ユニシアを吹き飛ばした。

体勢を整えるやいなや、ユニシアは再び向かって行った。

鋭い剣技を繰り出し、執拗しつようにパルーンの首か心臓を狙っていった。

だがそれをパルーンは、全て手ではじいていった。

「どういうことだ!何故ユニシアが二人いる!?」

パルーンが問いかけるも目の前に居るユニシアは何も喋らない。黙々もくもくけんを振るった。

しゃべらないのならもういい!!」

動きのスピードを上げ、けんの動きをくぐり抜けた。そして、ユニシアの首を掴んで持ち上げた。

「貴様が何者であろうと関係ない!くたばれ!」

手にさらに力を込め、首を絞める力を強めた。

ユニシアは、首を絞められ苦しそうにもがきながらも、骨を折られて息絶えた。それと同時に、ユニシアの姿が消えた。

「なっ…!消えた…!?どこへ…」

完全に隙だらけとなったパルーンの背後から、ユニシアが現れた。

「パルーン!!!」

怒りのこもった熱い叫びと共に、けんでパルーンの首を斬り落とした。

首は地面に転がり、血が赤い絨毯じゅうたんに染み込んでいく。

けんを抜いたまま、ユニシアはその場に立っていた。

地面に転がるかつてのあるじの首を見て、激しく息をみだしながら、高揚感に満たされていた。

「……やった…やりました…!」

「誰を…やったって?」

何処どこからか、死んだはずのパルーンの声が聞こえてきた。

「まったく…保険をかけておいて正解だったよ…」

地面に転がった首から声が発せられていた。

首と別れた体から黒いもやが発せられ、首と体をいつけるように黒いもやが首と体を繋ぎ合わせた。

パルーンの怪我は綺麗に消え、何事も無かったかのように動き出した。

「貴様が二人いたのはなんだ?分裂か?分身か?まぁどっちでもいいか…」

「この…化け物がぁぁ!!」

あらゆる考えを捨て、怒りだけを頼りにユニシアは斬りかかった。

けんはパルーンを前に、黒いもやではばまれた。

「俺はこれから侵入者共と遊んでくるのでな、貴様はしっかり女神を見張っておけ」

目を大きく開いてにらみつけると、ユニシアは突然気を失い、地面に倒れた。


城の正面から侵入したヘルガンは、敵の攻撃からなんとかのがれて城の奥へと進んでいた。

縦に異様に長い部屋で、部屋の真ん中には塔のように長い階段があり、上へと続いているように見える。

はるか上からは、まばゆい光が部屋に差していた。

光に気を取られ上を眺めていると、ヘルガンの横を流れ弾がかすった。

ここもすでに、ニバ達と兵士達による戦いが起こっていた。

「ニバさん!無事でしたか!」

「ヘルガンか!そっちも無事か!」

「無事じゃないです!リーナさんが先に進んじゃって敵がわんさか…」

「リーナならさっきまでここで戦ってくれてたぞ」

「えー!?なんでですか!ニバさん達だけずるいです!」

「そんなこと言われてもな…」

そんな中、戦いの音をもかき消す程の大きな音が響いた。

音の出どころは、上へと続く階段の途中だった。

そこに居たのは幹部のニッパであった。

ニッパは拡声器を手に叫んだ。

「ようこそモルモット達よ!!これから君達には実験に付き合ってもらうぞ!!」

ニッパはそばに大砲を運ばせ、部屋の真ん中に大砲を打ち込ませた。

大砲から発せられた弾は、地面にぶつかるのと同時にはじけ、中から赤い煙が部屋中に広がった。

「げほっ!ごほっ!なんなんですか!?」

敵味方問わず煙を吸い込んでしまったが、今のところ異常は無かった。

「さてさて…どうなるかな…?」 

高い階段の上からニッパが見守っていると、部屋の各所から悲鳴が上がった。

「ぎゃあああ!!体が!俺の体がぁぁ!!」

兵士や奴隷達の姿が変化していく。

溶けたり、燃えたり、凍ったり、様々な変化を遂げた。

中には体が別の生物へと変化し、他の人間を襲う者も現れた。

「いいぞいいぞ!!実験成功だ!!」

高い所から笑い飛ばすニッパを見て、ヘルガンは奥歯を強く噛み締めた。

「ニッパ様!何故俺達まで!?」

被害にあった兵士達が涙ながらに尋ねる。

「たかが奴隷をも排除できぬ兵士などいらんだろう!最後にわしの実験に役に立つぐらいしてみせろ!!」

その言葉にヘルガンは拳を強く握りしめ、走り出した。

「あっ!おいヘルガン!どこへ…」

ニバの言葉など耳にも入らず、階段を駆け上った。

そして、ニッパの背後にまで走り、拳を強く繰り出した。

「この…クソ野郎!!!」

「わっと!何をする!天才科学者の頭を狙いおって…馬鹿か貴様は!!」

「うるさい!!なにが科学者だ!!このクソ野郎!!」

普段おとなしいヘルガンが暴言を吐き、怒りに身

を任せニッパに向かって行った。

「バカめ!自分の体を見てみろ」

ニッパの忠告で我に返り、自分の体を見た。

「なっ!?腕が溶けている!」

ヘルガンにも赤い煙の影響が現れていた。

「そんな体でわしを倒せるかの〜」

懐から二丁の拳銃を取り出し、ヘルガンに向けて撃ち込んだ。

ヘルガンは両足を大きく広げ、簡単にかわしてみせた。

「きゅい!」

「ありがとうラックル!おかげでかわせた」

「何をしたのか知らんが…いつまで体がつかな?」

ニッパは小さな機械に乗り込むと、機械ごと宙へと浮かび上がった。

長い階段の周りを漂いながら、ヘルガンに狙いを定めた。

「くっ…!……かかってこい!!」

溶けていく自分の腕を押さえながらも、力強さを落とすことなく威勢いせいよく叫んだ。


一足先に上へと向かっていたリーナは、壁を強くり上げて登っていた。

階段の上の部屋へと着くと、下の階の何倍も大きく、周りには観客席のような物が見える。

地面や壁は白く、頑丈な石で作られている。

まるで闘技場のようであった。

「侵入者がよくぞここまで来れたものだ」

天井に穴が空き、そこからパルーンが降りてきた。

「地球人か…アクスとやらはどうした?逃げ出したのか?」

「さぁね、まだ寝てるんじゃないの?」

「それはそれは…であれば、起きた時に仲間の死体

を見せつけてやるとするか」

威圧するパルーンを前にしても、リーナは動揺一つしなかった。

「私を殺すつもり?冗談もそのへんにしておきなさい、後で恥かくわよ」

「冗談だと…これを見てもまだ言えるか!」

両拳を腰まで引いて腰を落とすと、地面を強く蹴ってリーナに突撃していった。

地面が削れるほどの速さで向かうパルーンを前に、リーナは軽々と避け、足を引っ掛けた。

あまりの速さのためにパルーンは盛大に足を引っ掛け、地面で顔が削れた。

「くっ!貴様っ!!」

後ろに振り返り、リーナを睨みつける。

すると、パルーンのすぐ目の前にリーナが現れ、鋭い蹴りをくらわせた。

後ろに大きく倒れ、傷ついた自身の顔に手を当てた。

「なんだとっ…!?この俺がっ…!」

強い衝撃を受け、身も心も傷ついたパルーンを見下ろし、リーナの口角が上がった。

「さぁどうした?私を殺してみなさいよ」

地面に倒れたパルーンに、ご機嫌きげんな笑みを見せた。




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