サブカルギルド 21

 キャンプから帰って数日。光里の友人の声優さんに会いに行くこととなった。

 三人は寮での生活は断ったものの、近くで家を借り、三人で暮らしているらしい。

 で、光里に案内してもらって現在、その家の玄関の前にいる。

 見た目としては、ちょっと大きめな二階建ての一軒家、程度である。

「ここに三人住んでるの・・・?」

 大きめとはいえ、女子大生三人で暮らすには、少しだけ小さくも見えた。

「うん、三人とも仲いいから。」

 そう言って、迷わずにチャイムを鳴らす。

 少し足音が鳴ってから、インターフォンから声が通った。

『いらっしゃい光里ちゃん、その子彼氏でしょ、申し訳ないんだけど、ほんのちょっとだけ待っててくれない?ほんとちょっとだけ、10分くらいだから・・・。』

 後ろで聞いていたのだけれど、廊下から居間で見ているアニメを盗み聞きしてる気分になった。

 とはいえ、そうなるくらいにはいい声だった。

「はいはい、どうせ後30分くらいかかるんでしょ。それじゃちょっと散歩して待ってるから。」

『そうしてくれると助かるよ~。それじゃ!』

 声が途切れた後、家の中から走り回る音やら物が倒れる音やら聞こえたのは、気のせいという事にしておこう。

「そう言うわけだから、お散歩デートしよ?」

 普段よりテンションが高いのか、笑顔でそんなこと言うものだから、自分もうれしくなってしまった。

「喜んで。おすすめの場所とかあるの?」

「うん!もともとこの辺に住む予定だったから~」

 いろいろお話を聞きながらゆっくりと歩いていく。

 露店販売を見かけて、食べ歩いてみたり。

 公園のベンチで何も考えずに二人きりでぼーっとしたり。

 正直、30分とは思えないほど楽しかった。


 さて、例の家の前に戻ってきたタイミングで、ふと時計を見ると1時間経っていた。

 ・・・これあまり良くないやつじゃね?

 なんて思いながら光里の後ろについていく。

 光里がチャイムを鳴らすと、返答が来る前に、勢いよく扉が開かれた。

 同時に破裂音と色とりどりの線が飛んできた。

「「「ふたりともいらっしゃ~い‼」」」

 めちゃくちゃ歓迎ムードだった。

 とはいえ、クラッカーの残骸が無念に垂れている。何だこれ。

 同様に放心している光里に気付いた一人が声をかけた。

「上がって上がって、いろいろ準備したから!」

 この人は暗いの苦手なんだろうな・・・。

「あっ、うん。それじゃ、お邪魔します。」

 来るのは初めてだったのだろう。声の端から緊張がうかがえる。

 その比じゃないくらい緊張してるけど。

「お、お邪魔しまぁす・・・。」

 無意識に声を小さく、存在感を小さくしようとしてしまった。男女差によるアウェー感がぬぐえない。


 光里についていくと居間に連れられた。客室を期待していたのではないけれど、ほぼほぼ他人の自分を生活スペースに入れて良かったのだろうか?

「さて、それで、君が光里ちゃんの彼氏くんか。見た目より頼りになりそうだね。」

 どう反応していいものかわからず、苦笑いで流してしまった。

「それで、今日はどしたん?」

 切り替え速いな・・・。

 光里がこちらを見ている。多分、「私から言っていいのか?」という事だろう。

 ギャルっ子(仮称)は光里を見ているので、そこに割って入るのも悩むけれど、話の元は自分にある。

 首を振って、「自分で言うよ。」と心で伝える。

「今日は三人にお願いがあってきました。」

 ギャルっ子は驚いた顔と悩んだ顔をしてから口を開いた。

「あ、えっと、私、硬いの嫌いだし、たぶん同い年かそれ以上だから、タメで話してもらえるとありがたいなぁって・・・。」

 ・・・まぁ、そういう人もいるのだろう。

「わかった。その方がいいならそうさせてもらうよ。それで、本題なんだけど・・・。」

 ギャルっ子はかなり真剣に聞いている。見た目と中身に差があるのはギャップ萌えだな・・・。

「単刀直入に言っちゃうと、作ろうと思ってるゲームの声優をしてほしいんだ。」

「「やる‼‼」」

 キッチンで飲み物を準備していたらしい二人が驚きの速度で居間まで走ってきた。

「それどういうゲーム⁉どんなジャンル⁉」「どんなストーリー⁉どんなエンドあるの⁉」

 興味津々なのはありがたいけどネタバレ求めないで(まだ書いてないし)。

「落ち着きなって二人とも、それで、今の質問答えてくれる?」

 なんだ、ギャルっ子の周りの空気が一段と真剣になったんだけど。

「うん、ジャンルとしてはギャルゲー。主人公と三人のヒロイン、あと主人公の親友ポジが欲しいけど・・・それは後々考える。エンドはいろいろ作る予定だよ。R指定版なら血生臭いエンドとかも作ろうか悩んでる・・・けど・・・。」

 三人とも目を輝かせてる・・・。キノコ目ってやつだ・・・。

光里も驚きながら若干引いてる。

「ぜひやらせてよ!やりたかったんだよそういうの!」

 そう言ってくれるのは本当にありがたい。

「それで、この件の報酬についてなんだけど・・・。」

 と切り出すと、不思議そうに。

「売り出すの?」

 と返された。なんも考えてないところ突かれた。

「ん~、そこはまだ考え中かな・・・。どのくらいの量になるかもわかんないし。」

 光里が答えてくれた。ありがたい・・・。

「そっかぁ、それじゃ、売れたらちょっと頂戴。売り出す予定じゃなくても手伝うよ。ていうかむしろ頼んでくれてありがとう的な⁉」

 この言動的に、金銭面の問題は起きないだろう。それなら、問題なくお願いできる。

「「ありがとう。」」

「具体的にお願いするのはかなり後になるかもしれないけど、その時は遠慮なく頼らせてもらうよ。」

「うちらこそありがとうだよ。ゲームに声当てる機会なんてこれからもないだろうからさ。」

「そうそう、私たちの知名度上がった後に、初版がとんでもない値段で売買されることもあるかもしれないですし!」

「おねぇ、の人気より私の人気の方が多かったりして。」

「そんなのその時じゃなきゃわかんないじゃんよー!」

 愉快。というものの具現化かな。

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