サブカルギルド 22

 後日。自室にて。

「そう言えば広くん、単位って大丈夫なの?」

「言われてみれば数えてなかったけど、光里もだろ?」

 二人で一つの作品として出したものだったので、もしかしたら半分になってたり・・・?

 気になったので確認してみると、前期の平均単位数を超える量の単位を与えられていた。

 え、夏休み時期終わるまで遊んでていいってマジ?

 与えられていた単位数は、前期間中に得られる最大点数与えられていたので、お金目当てで色々こなすか、自己満足くらいでしかないのだ。

「えへへ、私たちかなり頑張っちゃったみたいだね。」

 嬉しそうに言うものの、驚いてはいない様子。

 入学前のコンクールで一位をかっさらっていたのこの子じゃね???

「でもそっか、単位は増えないけど、お金稼ぎとしては参加できるんだもんね。せっかくなら、いろいろやってみる?」

 興味がある。という感じだった。実際自分も興味がある。

「んじゃ、受付に行ってみるか。俺もそこまで詳しく見てたわけじゃないし。何があるのか楽しみだな。」

 


 少し歩いて、クエストボード。前期が3/4終わったころ合いだったこともあり、今は執筆作業にいそしんでいる人が多いのだろう。人は少なかった。

「へぇ、低ランクのクエストって、短編よりも短歌とか川柳とかの方が多いんだね。」

「みたいだな。じゃぁやっぱり、入学したての学生が長編書くのは例外的だったんだろうね。」

 実際に楽しかったし、やりがいもあった。それに短歌より小説の方が書きたかった。

「私、短歌とか苦手だから、こればっかり限定とかじゃなくてよかったぁ・・・。」

「そこは俺も同意見だ。せっかくだから、なんか受けとくか?」

 短編や長編の小説のクエストが特別少ないというわけでもない。

「そうだね・・・。せっかくだから何か・・・。」


 話し合っているうちに閉館時間が近づいているアナウンスが流れた。

 えっ、そんなに時間経ってたの?

「あっという間に閉館時間だね・・・。」

 光里も驚いている。

「決まらないなら仕方ないし、別に明日来てもいいわけだから、また今度来よう。」

「そうだね。ウィンドウショッピングみたいだったけど。」

 仕事のウィンドウショッピングとか、職業病かよ。

 とも思ったけれど、割とそうなのである。


 そのまま自室に戻ったのだけど、当たり前のように光里はついてくる。うれしいけどね。

「あんまりいうことじゃないかもなんだけど、自分の部屋には戻らないの?」

 不思議なことを聞いてくる。といった表情をしてる。わかりやすかわいい。

「服取りに戻ったりはするけど・・・。ここが居心地良いから・・・。」

 理由を悩んで、思いついたら思いついたで照れて。

「かっ・・・。」

 危ない、全部出るところだった。

 光里はキョトンとこちらを見ている。幸い気付いてないようだ。

 仕切り直そう。クエストを受けることについてと、これからのゲーム開発についてだ。

「んんっ、それで、クエストについてなんだけど・・・。」

「なんか今の色っぽい・・・。」

 おい戻ったぞ。どうしてくれるんだこの空気。

「・・・ひとまずそれは置いておいてだな、クエスト、どうする?」

「正直受けたい。まだ書きたい。受けないなら勝手に書く。」

 勝手に書くのは良いと思うけど(自分もやってるし)。問題はゲームの方だな。

「それじゃ、ゲームの方だ。ギャルゲーってやったこと・・・無いか。」

「うん、ゲームには全然触れてこなかったから。」

 それは知っていた。だから、先にクートから借りてきた。

「それじゃ、この中から選んでみて。好きなのでいいよ。」

 そう言いながらカーペットの上に6つのゲームを並べる。

 4つは全年齢対象だが、2つR指定のものを混ぜている。

 なぜって?個人的にそれが一番面白いからだよ。

 18才だろって?画面に18歳以上ですか?って出て、いいえを押す正直者はそのサイトに行かないだろ。

「これ可愛い・・・。パッケージ裏も面白そうだし・・・。」

 さすがかんきつソフト、初心者さえ引き寄せる。

「うん、俺もそれ好きなやつだ・・・どれも好きなやつだけど。」

 ここで二つ選択肢が浮かぶだろう。この作品がR18と言うか、黙るか。

 では、読者に問おう。ギリシャの裸の石像はなぜ美しいとされるか。どうしてラノベにはラッキースケベがあるのか。なぜ大人な夜の街があるのか。

 そう、人間だからである。

「ちなみにそれR18指定だけど大丈夫?」

「面白ければ関係ないよ。」

 制作側とはこういうものなのである。今の彼女にとって、表面的にどういうものなのかは、どうだっていいのだろう。

 どんな世界で、どんな人たちが、どんなふうに話を紡ぐのか。

 それを知るためにやるのだから。


 ゲームが開始されて、問題が起きた。

 別にソフトやハードウェアが壊れたわけじゃない。

 彼女が急に嫌がったわけでもない。

 男女二人が同じ部屋でギャルゲーを始めたのだ。

 いやほんとになんでここでやるの?

 と、最初のうちにこそ思ったけれど、プレイせずに見てる自分は、アニメでも見ているかの感覚に陥ったし。

 彼女は彼女で、「こういう選択肢が・・・。」とか「そう言う反応になるのか・・・。」など新しい価値観に触れているようで、今回のことはかなりの成功と言えるだろう。

 ・・・集中を邪魔したくないせいで、おなかが減っても夕食が食べれないのだけど。


 いつのまにか寝ていたようで、意識がゆっくり覚醒してくる。

 体温の反射で暖かくなっている布団は、きっと寝てる間に光里がかけてくれたのだろう。

 耳に入ってくるのは女性の喘ぎ声で、誰かを求める声で・・・!?!?!?

 待て待てなんだどういうことだ!?

 暗い部屋の中で唯一光を放つテレビを見ると、濡れ場シーンである。

 なるほど、今はそこなのか・・・。って冷静に判断してる場合じゃねぇ、どういうことだよ。

 『彼氏が寝てる間に彼にすすめられたR18のギャルゲーのSシーン見てる。』ってどういう状況だよ!?

 俺これどうすればいいんだよ・・・。

 ひとまず、寝がえりのふりをして壁を向く。

 このまま寝るべきか・・・?

「ひろくん?」 

 まだだ、まだ動くな、ここで少しでも反応したら起きていることがバレる・・・。

「寝返りかぁ・・・。」

 つまらなさそうに、そう呟く。え、何。起きてたら何かしようと思ってたの⁉

「お腹、減ったなぁ・・・。」

 独り言として処理されたそれは、部屋の中をほんの少しだけ反射しながらむなしく消えて行った。

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