サブカルギルド 20

 目を覚ますと、背後に心地よい温度を感じたので見てみると、幸せそうな顔で寝ている光里がいた。もちろんドキドキしたけれど、どちらかと言うと、安心感の方が強かった。何に安心したのか全く分からないけれど。

 周りを見てみると、寝た時よりは明るくなっていて、ちょうど日の出の前だとわかる。

 せっかくなので日の出を見ようと、芋虫を脱却すると、隣で寂しそうな顔をしてもぞもぞとうごめく芋虫がいる。

舞はそのままもぞもぞ移動して、自分が使っていたシュラフに顔をうずめると、満足そうに頬を緩ませたのだが、自分はちょっと複雑である。

風邪をひかないように上着を羽織り、外に出るためにテントを開けると、静かな空気が伝ってくる。

外に出ると、草を踏む音が子気味良く聞こえる。

薄く白い雲が見える。

山肌と近くの雲がオレンジに映る。

視界には、夜明けが表現されている。


若干寝起きのまま、朝食の準備をしているとクートとシロが起きてきた。

「おはよツッチー」

「おはよう、二人とも。」

「くあぁ。」

 シロは目覚めがいい方で、もうすっかりいつも通りだがクートはそうとは言えず、あいさつ代わりのあくびである。

「あっ、もう日、出ちゃった⁉」

「そう、残念なことに日の出は過ぎたよ。」

「うそぉ、どっか泊行く日は絶対に朝日見るって決めてるのにぃ・・・。」

 今までの旅行で朝からたたき起こされたのはそれが理由だったか。

「朝食の支度か、確かに腹減ったな。」

 腹の虫を鳴らしながら眠そうな声と顔で現状確認をし始める。

「おう、サンドウィッチ作るからちょっと待ってな。」

 二人を待たせてすぐにサンドウィッチを四人分作ると、匂いにつられてか光里も出てきた。

「おはよう、広くん。」

「おはよう。よく眠れた?」

 当たり前の挨拶をする彼女はすっきりとしていて、寝起きというものを感じさせない。

 見た限り、出てくる前に服を着替えていた。先に出ておいてよかった。

「光里!おはよう。」

「シロちゃんもおはよう。」

「おはあぁう。」

 クートの挨拶は聞こえなかったのだろう。ほぼあくびだもんな。

「はいこれ、光里の分。」

 歩いていてのでタイミングが良く、光里の分をそのまま渡す。

「二人の分も持っていくよ。」

「わかった、こっちがシロでこっちがクート。」

 そう言って、エッグサンド&イチゴクリームをクート、エッグサンド&焼きそばをシロと指示して渡す。

 光里は不思議な顔をしていたけど、まぁ、いつものことなのだ。

「不思議だろうけど、気にしなくていいよ。俺も最初は正気を疑った。」

 光里がシロとクートの分を運んでいる間に、自分と光里の分を運ぶ。紙コップもジュースもシロが用意してくれていたので、そのまま四人で朝食を囲む。

「「「「いただきます。」」」」


 朝食を終えて、しばらくゆっくりしているとクートがこんなことを切り出す。

「ツッチー、今の進捗はどれくらいだ?」

 今まで聞かれたことなかったので、どう答えたものかと悩んでいたら光里が答えてくれた。

「大体6割くらいだよ。」

「そうか、じゃぁそろそろ、始めてもいいかもな。」

 “はじまる”とは?

 疑問符の浮かんだ顔を見て察したのか、クートが続ける。

「昔の約束だよ。みんなでゲームを作ろうってやつ。」

 懐かしい、と言っても思い出したのは大体1年前なので何とも言えない。

「まさか、忘れたとは言わないよな?」

 揶揄うように言われるのだけど、1年前まで忘れていたとは言えない。

「そりゃもちろん、でもほら、どのゲームジャンルにするか決まってないだろ?」

 やりたい気持ちはあるのだけれど、ジャンルによってそれぞれの力の入れ方が変わってくるはずだ。

「それならもう決めたぞ、いわゆるギャルゲーだ。」

「理由を聞いても?」

「ここに神絵師が一人、プログラミングはギャルゲーなら一人でもできる。シナリオライターが二人いれば分岐が多いところも問題ない。楽曲は昨日会った二人がいる。」

 と説明を聞いている間にいつの間にか春原夫婦がやってきていた。

「曲は任せて!シナリオに合ったいいものを作るからさ!」

 とやる気満々である。頼もしい。

「光里、勝手に巻き込んじゃったけど、その、良いか?」

「もちろんだよ‼」

 とても食い気味だった。

「私、ゲームは全然やったことないけど、楽しそう!」

 きっと、ギャルゲーという分野を全く知らないからこその反応なんだろうなぁ・・。

 なんて思いながら、若干の構想を・・・。ここに美少女が3人いるのに考える必要があるのか?

「なぁおい、ツッチー、お前のその顔、まさかだよな?」

「いいや、そのまさかだよ。

 シナリオライターとプログラマー、音響は決まった。それなら一つだけ足りない。」

 クートがまじかよ・・・。という言葉を顔で表している。

「声優・・・。」

「そう、声優が足りない。」

 横から質問が入る。

「声優が足りないとどうなるんですか⁉」

「ズバリ!キャラクターの可愛さと印象が薄くなる!」

 と言うと、ばっちり全員に声優の大切さが伝わった。

「で、クートには女性の声優のお友達さんは三人以上いるのかなぁ?」

 「居たとしても言えない‼」という表情は俺だけが読み取れた。

「い、いるわけないだろ、ましてや三人以上なんて無理だ無理。」

 ここで紅さんも気づいたようで、「そう言うことか」と言っている。

「ギャルゲーというのは美少女がたくさん出てくるからこそ、売れると言って差し支えない。可愛いキャラを作るには、作者の想像力も大事だが、声の主も大事なわけだ。」

 唐突に語り始めた俺に対する反応は光里だけが優しい。

「というわけで、三人にはヒロインの声を担当してもらいたい!」

「お断りだバカ!」

 言い切って0秒でシロに断られてしまった。そりゃそうか。

「シロはクートのだもんな。」

「わ、分かってるならなぜ言った!」

 若干の恥じらいがあるのはちょっと面白いけれど、実際問題いないのだ。

「声優、見つけるのたぶんつらいぞ。あとお金もかさむし。」

 千百合さんがなだめてくれた。さすがお姉さんだな。(睨まれた)

 このメンバーであればお互いに「作りたいから」と時間も割けるが、そうでない人間を巻き込むとなればお金のやり取りが発生する。はてさてどうしたものか・・・。

「声優・・・あっ。」

 光里が意味深なことをつぶやき、スマホを開き始めた。

「光里?どうしたんだ?」

 光里はスマホを叩きながら話す。

「うん、ちょっとね、昔の知り合いがもしかしたら・・・。やった!」

 本人は嬉しそうだけど、周りの人は全く理解してないぞ。・・・さっきの俺こんな感じだったのか。

 光里が話を続ける。今度はこっちを向いて。

「昔の友達が声優願望で、今聞いてみたら、ちょうど同じ学校だったの!三人とも!」


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