サブカルギルド 19

 どうやら、シロと光里、千百合さんは年が同じらしい。そしてどういうわけかサウナで我慢比べをしていたら、すぐに千百合さんがダウンしてしまったらしく、そのまま連れてきたそうだ。

 頭の中はそんな事実よりも、学生結婚をしている人が目の前にいる事に集中していた。

「学生結婚なぁ、俺もシロと考えてたんだけど、やっぱり収入が安定してからって話になったんだよな。」

 クートが言うと、シロがからかって、

「そうだったね。結婚指輪と婚約指輪を両方とも買いたいからだっけか?」

 若干クートが赤くなっている。これまた珍しい。

「あー、風呂上がりの熱がまだ抜けてないわー。」

「私はなくてもいいって言ったんだけどね、それだけは譲れなかったらしいの。」

 こだわりを互い許容し合えるのも長続きの秘訣か・・・。

「それにしても、クートにそんなこだわりがあったなんてしならなかったよ。」

「私も初めて聞いた時は少し驚いたの。」

 赤が増してる。そりゃ恥ずかしいか。

「だって、あったらうれしいだろ。」

 不貞腐れたようにそう言う、しかし言われてみると確かにそうかもしれない。・・・そうなのだろうか?

 俺が不思議そうな顔をしたのを見透かしたのかクートが、

「そりゃお前らほぼ毎日一緒にいるから離れる時の気持ちなんてわかんねぇよな。」

「そんなっ・・・。ことあるな。うん、それじゃまだわかんないや。」

 こちらの会話がひと段落したのを見計らってか、それとも処置が終わったからなのか、紅さんが会話に混ざってくる。

「僕は代わりに『これ』をプレゼントしたんだよね。」

 そう言って見せてくれたのはハートのペンダント。

「まぁ、まさかその場で意味を調べ出すとは思わなかったけれど。」

 参ったというように軽く両手を上げる。

 すると光里が、

「ハートのペンダントは愛・幸福の意味合いと、幸せな結婚・恋愛に導くって考えがあるんだっけか。」

 驚きのあまり少し場が凍った。

「・・・参ったな、そんな風に知ってる人がいるなんて思わなかったよ。」

 倒れていた千百合さんが起き上がったようで、

「ぅん、こーくんまた浮気?」

 再度場が凍る。『また』とな。

「ち、違うよ!俺はただお話してただけだし、さっきの女の人たちだって、ただのナンパだったんだから・・・。」

 言い切る前に紅さんに抱き着いて、こちら側を観測する千百合さん。

「て、あ、そういうことか、光里ちゃん、シロちゃん、連れてきてくれてありがとうね。」

 すぐに事の顛末を察したのか感謝を述べる。頭の回転がめっちゃ速そう。

「ううん、気にしないで、そういうのは勝った人のするべきことだから。」

 珍しくシロが強気だ。どういう関係なの?

「一回勝っただけで調子に乗るな、今回は調子が良くなかっただけだし、次は勝つし。」

 やっぱ妹ちゃんだったりしない?

 こちらを見た。

「君、今すっごい失礼なこと考えなかった?」

「いえきのせいじゃないですかね。」

 仮面は張れたけど少し早口になってしまった。

「そう、ならいいわ。でもこーくんはあげないから。」

 譲られてももらわないから。

「わ、私だって、ひろくんはあげないよ!」

 そこで張り合わなくていいから。

「ん、あぁ、君が広旅くんか。私はてっきりもっとガタイが良いやつかと思ってたよ。」

「もやしですまんな。」

 嫌味じゃないだろうし、軽く褒めていたのだろうけれど、持たざる者からしたら嫌味に近いのだ。

「てか、二人は俺のことなんて紹介したんだ。」

「紳士だけど奥手すぎる人。」と、シロ

「顔怖いけど優しくて助けてくれる人。」と、光里

 予想外の評価だ。

「俺そんなに頼りがいある?」

「「・・・。」」

 どうして何もしゃべらないんだ。

「ほんとに聞いてたのか?ヘタレだって言われてんだよ。」

 『奥手すぎる』『優しい』ってそういうことだったのか・・・。

「まぁ、そうやって付き合えてるならいいんじゃないか?進み方はそれぞれだしな。」

 千百合さんは、見た目に反してしゃべり方が強いな・・・こういうキャラもありだな。

「おいこらまた失礼なこと考えてるだろ。」

「いえいえそんなことないですよー。」

 ・・・そりゃ生きてる人間を文字に起こすってのは、ちょっと冒涜的かもしれないな。


 しばらく話してから、それぞれのテントに戻ることにした。

 春原夫婦は途中で離れて、クートとシロは当たり前のように、一つのテントに入って行ってしまった・・・。残ったテントは一つである。

 俺はてっきり、野外宿泊の時は、男女に分かれてそれぞれの現状を惚気のように話して寝るイベントがあるんじゃないかと思ってたんだが・・・。(※彼が惚気たいだけです。)

「まぁ、一緒に寝よっか。別にいつものことだし、そんなに気にする必要ないよね。」

 と、光里は口に出しているけれど、その声はとても照れているし、普段より少し高い。

 とはいえ、外で寝るわけにもいかないので仕方なく二人で寝るとするか・・・。

「そうだね、普段通りだし別に・・・。」


 お互い別のシュラフに入って、横になって、ちょっと気になって光里の方を向くと、同じように彼女も、こちらを見ていた。

 目線が同じで、文字通り目と鼻の先にいて、文字通り息のかかりそうな場所で、ちょっとびっくりして心臓が跳ねて、それがスタートか跳ね続けたまま止まらなくて、すぐに後ろを向いてしまった。

 後ろを向いても心臓が鳴りやまないのは、すぐ後ろに光里がいるという現実を、温度で感じているからだろうか。

「ね、なんだかちょっと恥ずかしいね。」

 照れているけれど、とてもうれしそうに言ってくれる。

「そうだね。思ってたよりもよっぽどドキドキするかも。」

 自分で言った言葉だけれど、そんな返事に困るような言葉返さなくてよかったじゃんか・・・!

「でもなんだか、素敵だね。」

 これは一人語りか、それならゆっくり聞いておこう。

「好きな人と同じテントの中で、同じように寝れる。それだけでも幸せなのに、こうして近づいたら体温まで感じられる。」

 言葉のタイミングで背中に質量と熱を感じた。やはり、心地いい温度だ。

「きっと私、自分でもびっくりするくらい、君のことが好きなんだと思う。だけど、あんまり暴走しちゃったら収拾がつかないから、だから・・・。また   私から・・・。」

 と、あっさりと途切れてしまった。眠ったのだろう。

 背中に彼女の寝息と温度を感じながら、今日のところは寝るとしよう。本当は、今日の体験を小説に落とし込みたかったけれど、それができない日だってあるものだ。

 それに、そうするべきじゃないものだってあったはずだから・・・。

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