第20話 それはきっと生きている理由だったのです

「お姉ちゃんは本当なら死んでいる………………つまり、ギリギリで生きてるって事…………いつ何が起こってもおかしくない…………これまで何も無い事の方が不自然なくらいに。そこにはどんなにコンディションを良くしても、調子が良くでも、いつでもひっくり返ってしまう脆さがある。そして、それは………………きっと何の前触れもなく突然やってくる…………」








 人混みの中に消えていく圭吾を見ながら、紫はその事実を呟く。








 「私は“覚悟”が済んでる…………いつでもお姉ちゃんにその時が来ても大丈夫だけど…………アンタはできてないわよね………………」








 紫も圭吾に続くべく階段を上った。








 「アンタがお姉ちゃんを語る言葉には“実感”がない…………実感が無いんだから、きっと覚悟も済んでない………………仕方の無い事だけど…………もしその時が来たら……………耐えて乗り越えるしかないんだから…………」








 当然、紫もエントリーしているが順番はまだまだ後だ。無理矢理人を掻き分ける必要は無く、遠くからプロジェクターで試合を見ても問題無い。










 「…………私はこの対戦に反対なのよ…………だって、お姉ちゃんが今も生きてるのは…………きっとアンタとの約束を果たすためだと思うから…………その約束のためにお姉ちゃんは生きてて…………それが果たされてしまえば…………きっとお姉ちゃんは…………」










 紫は両手を力強く組むと、胸の前に持ってくる。








 その両手は震えており、それを静めさせるように紫は俯くと、思い切り目もつぶった。








 「…………バカバカしい妄想…………なんだと思う…………でも、お姉ちゃんを見てると…………そう思っちゃう…………」








 しばらくして震えは止まり、紫は顔を上げる。いつも圭吾が見る無愛想な顔で周囲を見渡し、普段の自分を意識づける。








 「………………奈菜瀬ちゃん来てるはずよね。何処にいるのかしら」








 ラインで連絡はとっている。時間と細かい場所までは決めていないが、ここに奈菜瀬は来ているはずだ。








 背の小さい小学生をこの人混みから見つけるのは難儀だが、折角なら友達と試合を見たい。






 そう思った紫は奈菜瀬の探索を開始し、人混みの中へと消えていった。






 ――――――その足は僅かに振るえていた。

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