第4話 これはしょうがないこと

「そろそろ落ち着いた?」

「あ、ああ……」

「はい、とりあえず飲み物飲んで」

「ありがとう……」


 美亜から受け取ったオレンジジュースを一気飲みする。美亜の宣言に驚いて叫んでしまったから、喉がカラカラだった。


 叫んだ後、ふと我に返った俺は周りの視線が突き刺さっていることに気づき思わず頭を抱えてしまった。そして今の今まで美亜に宥められていたのだ。


「変なこと言わないでくれ本当に……」

「私の本当の気持ちなのに変なことって言うの?」

「うっ……」


 美亜が目を潤ませて俺を見てくる。美少女のそんな表情、あざとい以外のなにものでもない。

 もしかして目に涙溜めるの自由自在にできるんですかね……もしそうだったら一生勝ち目ないんですが……。


「ごめん。でも、初対面の男に好きとかそれこそ意味わからないだろ」

「いいの! 私が好きになっちゃったんだからしょうがないじゃない」

「はぁ」


 思わずため息をついてしまった。まだ今日出かけることになった理由であるライブ会場にもついてないのに、この調子じゃ先が危ぶまれる……。


「それに初対面じゃないもの……」

「ん? なんか言った?」

「ううん、なんでもない!」


 美亜が何か呟いたように感じたが、勘違いだったようだ。


「俺たちは今日別れたら次いつ会えるかわからないんだから、好きになってもしょうがないと思うけど?」

「またこうやって会えばいい」

「君どこに住んでるの?」

「神奈川」

「……近いのかよ!!」


 ここは東京。俺は東京生まれ東京育ち。神奈川から東京なんて場所によっては本当にすぐだ。会おうと思えばすぐ会える距離なのである。

 会えないから好きになるな作戦(?)が失敗に終わり俺は頭を抱えた。


 そもそも、美少女に好きと言われて嫌なわけがない。だが、唐突すぎるし、何より、美亜の突飛な行動に振り回されて、「こいつと付き合ったらやばいことになる」という警鐘が頭の中で鳴り響いていて、どうにも付き合いたいと思えないのだ。


 と、その時だった。


「グゥ〜」

「……ぷっ。あははは! 何お腹すいてるの?」


 俺のお腹が盛大に鳴った、それはもう、大きな音を鳴らしたのである。恥ずかしくて片手で口元を多い俯く。美亜が爆笑していた。笑いすぎだから!


 俺は美亜が爆笑してるのを見て、もう諦めることにした。

 こいつは変人、気にしてもしょうがない!


「お腹すいたからなんか食べる」

「あ、じゃあ、この期間限定の桃パフェ気になってたから私も食べたい!」

「じゃあ俺は梨パフェの方にする」


 この時の俺は、このパフェを巡って盛大にやらかすことになろうとは思ってもいなかった。


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