第5話 これは憧れの……!

「お待たせしました」

「すご……」

「美味しそう……!」


 俺たちは思わず声を上げる。俺の前に置かれたパフェには、梨ゼリー、バニラアイス、生クリーム、そしてトップにはこんもりと梨のコンポートが盛られていてとても豪華だ。思わず写真を撮ろうとスマホを出す。


「「あっ」」


 美亜も同じことをしようとしていたのか肘がぶつかる。とっさに謝ろうとすると、そのまま美亜はひょこっと俺のスマホを覗き込んできた。


「男の子でもそういう写真撮るんだね」

「わ、悪いかよ」

「悪いなんて一言も言ってないよ? 可愛いなぁって思っただけ」

「くっ……」


 俺のスマホの壁紙を見て美亜がニヤッとした表情の美亜を浮かべる。俺のスマホの壁紙は美味しそうなパンケーキの写真。確かに、あまり男子が撮る写真ではないだろう、その自覚も十分にある。


 だが……。


 俺は甘いものが好きだし、写真とかが好きなんだからしょうがないと思う!

 俺は開き直って笑みを浮かべた。


「俺の方が写真撮るの上手で嫉妬でもしてるのか?」

「そ、そんなことないっ!」

「お、おう……図星だったんだな……」


 冗談で言ったつもりだったのにまさかの反応をされて言葉に詰まる。

 この子は俺を困らせる天才なのか!?


「え、冗談だったの?」

「あ、あぁ……」

「……響夜くんのばかぁ!」


 ぽかぽかと腕を叩かれる。力が弱く全然痛くはない。むしろめっちゃ可愛いと思うが、こんなことをしているとアイスが溶けてしまう。


「痛い痛い、ごめんって」

「もうっ、意地悪」


 俺はとりあえず誤魔化すことにした。


「ほら、一緒に撮ってやるから。そのパフェこっちに寄せて」

「う、うん……」


 途端に大人しくなる美亜。なるほど、一緒に撮ってあげれば上手な写真になるからかな? 


 美亜のパフェは俺の梨のパフェの桃版で、強いていうなら真ん中にさくらんぼがのっていた。いやなんでだよ! 俺の方にはのっていなかったのに……美少女サービスか!?


 そんなことを考えながらもシャッターを切る。結構綺麗に撮れたんじゃないだろうか。


「じゃ、後で送っとく」

「ありがとう」


 そこで不意にいたずら心がむくむくと顔を出した。俺はすっとスマホを美亜に向ける。


「えっ?」


 パシャっ。

 何が起こったのかわかっていない美亜。写真を確認すると、可愛く首をかしげた様子が撮れていた。

 さっとそれを見せる。


「ちょっ……!?」

「あんまり可愛いことするから撮っちゃった」

「……」


 美亜は黙ってプルプル震えてる。その様子をニヤッと笑って眺めていると不意に美亜がスプーンを持った。

 そして……。


「もぐっ」

「へっ?」


 美亜が食べたのはまさかの俺の梨パフェだった。

 思いもよらぬことに目が点になる。


「そ、それ俺の……」

「意地悪する響夜くんにパフェはありません」

「俺だって食べたいんだけど!?」

「それなら……」


 なぜかちょっと考える仕草をする。それもしっかりパフェを取られないよう自分のところに寄せて。嫌な予感しかしないだけど……いやほんと今日何度目の嫌な予感だよ……。

 そしてその予感は当たっていた。


「じゃー、はい!」

「はっ!?」

「どーぞ?」


 こんもりとパフェが盛られたスプーンを差し出される。これは俗に言うあーんというやつでは……。


「え、えと、」

「食べないの? 食べないんだったらあげないよ?」

「……」


 俺は葛藤する。美少女にあーんされるなど嬉しくても恥ずかしい。だが、それで断って食べられないのも嫌だ。

 俺は静かに決断する。ここでパフェを諦めるわけにはいかない!


「じゃ、じゃあ、もらう……」

「はい、あーん」

「……もぐ」


 満面の笑みを浮かべる美亜にちょっと悔しく思いながらも食べさせてもらう。途端に梨の香りとアイスの甘みが口に広がった。


「……美味しい」

「ねっ! はい、じゃーもっとどーぞ」

「え、いや、自分で食べる……」

「それならあげない」

「いや、俺のなんだけど……」

「先に意地悪したのどっちだっけー?」

「……ごめん」


 うん、勝てる気がしない。てか、写真を消してとかじゃないんだね、そこは持っててもいいということかな?

 ……いや、後で送ってあげるか。


 ちょっと意地悪なことを考えたが、今はそれ以上に目の前の状況がやばい。

 俺も懲りないな、と自分で自分に苦笑いしてしまう。


「はい、そういうことで私に大人しく食べさせられてください」

「……はい」


 結局、桃のパフェも二人で美味しくいただきました。



 ……もちろん、俺は美亜に食べさせてもらって、だけど。




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