第3話 美少女に振り回されます

「うぅ、響夜くんのえっち」

「ごめんて。あとここで言われると俺がやばいやつみたいなんだが……」

「実際そうでしょ、もう……」


 美亜が頬を膨らませて拗ねた表情をする。

 俺たちはライブまでまだ時間があるということでファミレスに入ってドリンクバーで時間を潰すことにした。ソファの席を美亜に譲って自分は椅子の方に座ろうとすると袖を掴まれる。


「どうしたの?」

「隣、来ないの?」


 沈黙する。本当にこの子は何をしたいのだろうか。


「え、えっと美亜? 隣に座るって彼氏くらいしか……」

「だから、隣」

「はい?」


 今の会話の流れだとまるで俺が……。


「彼氏でしょ?」

「んなわけあるか!」


 思わず大きな声を出してしまって、慌てて周りを見る。こちらに向けられている目線に頭をさげる。申し訳ない。

 離してって言っても離さないであろうからしょうがなく隣に座った。


「言っておくけど俺は彼氏じゃないからな」

「さっき胸揉んだのに?」

「あれは不可抗力だろ!」

「またまた〜、喜んでたくせに」


 思わず言葉に詰まる。確かに柔らかくて天国みたいだった……って思い出すな俺!

 危うく文字通りの夢の国に入りそうになり、首をブンブン振って振り払う。


「女の子があんなに簡単に胸揉ませてどうするんだよ」

「誰でもってわけじゃないもの。響夜くんだけだよ」


 思わず美亜の瞳を見つめると、綺麗な澄んだ眼に吸い込まれそうになる。

 と、美亜の耳に目がいく。

 やばっ、と思う間もなく俺のいたずら心にスイッチが入った。


「ほほーん」

「な、何?」


 俺の言葉に何か感じ取ったのだろうか、美亜が少し顔を引きつらせる。


「お前、無理してるだろ」

「っ!? そ、そんなわけ……!」

「耳真っ赤なのに?」


 美亜は動揺した表情を浮かべ黙り込む。図星だったようだ。

 俺はその頃にはニヤニヤが止まらなくなっていた。

 まっすぐ美亜の目を見て囁く。


「ねぇ、さっきからそんなに俺を誘惑して、どうしたいの?」

「べ、別に誘惑なんんか……!」

「へぇ、じゃあこれでも?」


 はっと身構える美亜。だが、俺がしたのは頭に手を乗っける、ただそれだけだった。


「え……?」

「嘘だよ、からかってごめんな」

「あ……」


 俺はそのまま手を引くと、呼び鈴を鳴らして店員さんを呼んだ。横目でちらっと見ると美亜は拗ねたような表情を浮かべている。

 参ったな、危うくさっきと同じことをするところだった。手首を掴んで俺の方へ引いた時のことを思い出しながらため息をつく。


「ご注文をお伺いいたします」

「ドリンクバー二つ、お願いします」

「かしこまりました」


 初対面の相手に俺は何をしようとしているのだろうか。とっさに冷静になった自分を褒めてやりたい。いや、家に帰ったら絶対褒めよう。ご褒美にアイスでも買うか。

 そんなことを考えていると唐突に美亜が口を開く。


「ねぇ、響夜くんは私を見てなんとも思わないの?」

「なんともって?」

「む、胸大きいな、とか、エロいな、とか」


 俺は美亜の言葉に唖然とする。それ、自分で言うか!?

 しかし、美亜の真剣な表情を見て、俺はなぜか冗談で返しちゃいけない気がして真面目に返した。


「胸大きいな、とも思うし、少し透けそうなその服もエロいな、って思うよ」

「や、やっぱり……」


 俺の答えになぜか唇を噛み締める美亜。それを横目に俺は言葉を続ける。


「でも、だからって君を好きか、とか、彼女にしたいか、とか聞かれれたらそれは違うかな。反対に嫌いでもないし」

「ど、どういうこと……?」

「見た目と中身は違うだろ」


「っ!」


「だから、俺は女子の見た目で女子を好きになったり嫌いになることはない。まあ世の中、胸が大きいから好き、とか、エロい服着てるのはビッチだ、とか偏見持っている奴はいっぱいいるけど、俺はそんな風には思わないぞ」


 俺からしたら、そんな奴らは人の表面しか見てない自分勝手な人間だと思うからな。

 俺の言葉に美亜が俯く。あ、あれ、俺なんか間違ったこと言ったか……? え、えっと、ど、どうしたいい!?

 

 俺がテンパってると不意に美亜が顔を勢いよくあげる。なぜか目に涙をいっぱい溜めて、満面の笑みを浮かべていた。


「私決めた! 絶対君を振り向かせてみせるから!」

「う、うん? どういうこと?」

「だから!」


 びしっと人差し指を鼻に突きつけられる。


「やっぱり私は君のことが好きってことだよ!」

「はぁ!?」


 俺は思わず叫び声をあげたのだった。




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