episode.6 スケバン が ログイン しました !(カメリア視点)



 ツユクサがログイン開幕大海原ダイブの後、都市を目指して進み始めた頃。

 ほぼ同時刻にログインしていた椿――カメリアはというと。



「――お姉様!どうか私たちも連れていって下さい!」

「姐さんがいれば鬼に金棒よ!」

「姐さん最強!姐さん最強!姐さん最強!」



 ……何か変なことになっていた。



「……どうしてこうなった」



 大丈夫かカメリア。

 お前の親友は大丈夫じゃないまま大海原にダイブしたぞ!

 そんな幻聴が聞こえてくるような聞こえてこないような感覚になっている彼女は置いておいて。

 何故このような状況になったのか、それはおよそ二時間前に遡る……。





 ◇◆◇◆





「――へっ!?」



 遡ること二時間前。

 ツユクサより少し早くログインしたカメリアは、

 例のドアの先を進むと広がる景色に一瞬呆然としていた。


 目の前に広がるのは中世ヨーロッパ風の石造りの城塞都市。

 青い青い空の下に城壁が整然と立ち並んでいるのが遠目にわかる。

 背後には小さな噴水が鎮座している。周囲は開けており、広場になっているようだ。

 目の前には大通り。如何やら街の外へ行けるようだ。

 視界の端には何やら小さなウインドウが輝いている。



 *第一防衛都市『アヴィラ』に到達!

 ・マスターミッション『安住の地へ』が解放可能です。

 タッチするとミッションリストを開きます。



 どうやら此処はアヴィラという街らしいことが分かる。

 事前に情報収集をしていたカメリアにとっては驚くことではない。

 βテスト参加者がSNSで情報共有していた中で、アヴィラという単語は頻繁に出てきていた。

 βテストではこの街が主な拠点になっていたそうだ。


 カメリアが驚いていたのは街についてではなかった。



「こりゃあまた、随分と豪勢な……」



 丁度目の前。目と鼻の先、色とりどりの大量の花弁が舞い落ちている。

 落ちた花弁は大きさも形も様々で、何時までも見ていられるほど幻想的だった。



「お、触れないのか。映像だけなのかね」



 触れれば蜃気楼のように手をすり抜けて地面に落ちる。

 落ちた花弁は地面に触れた瞬間、その存在が無かったかのように消え失せた。



「……んー、差し詰めサービス開始祝いのファンファーレって感じかねぇ」



 自分の姿は質素な麻のシャツとショートパンツ。上下とも黒。

 周りには自分とほぼ同じ姿をした男女が大量にいる。

 よく見ると半数以上は獣耳を付けていた。あれが獣人族か。



「って。見惚れてる場合じゃねぇや。さっさと行動行動ォ……!」



 そう言うと視界端のウインドウをタッチ。

 同時に広場を脱出。早歩きで目の前の大通りをすり抜ける。

 通りの左右には出店が軒を連ねる。

 詳細文を流し読みして手に入ったSP(スキルポイント)を早速使用する。



「確かスキル枠は残り2個……あ、全部1個10SPか」



 迷わずスキルのリストから[敏捷強化]と[筋力強化]を取得する。

 どちらもステータスを底上げするスキルだ。



[敏捷強化]

 ・敏捷値が1%上昇する。

 Lv.20まで成長可能。


[筋力強化]

 ・筋力値が1%上昇する。

 Lv.20まで成長可能。



 これらは所持しているだけで戦闘していれば勝手に経験値が溜まる。

 所謂パッシブスキルという名で区分されるやつだ。

 一方でカメリアが所持しているスキルには[格闘術]があったが、

 これは戦闘時に[格闘術]を使用すれば、使用した分経験値が入る。

 こちらを呼称するならばアクティブスキルとなるだろう。



「どうせ格闘術しか戦闘スキル使わないだろ。気配察知もあるし大丈夫大丈夫」



 使用方法は音声認識と動作認識両方にしておくかねぇ。面倒だし。

 と、脳筋一直線の思考しか感じられない発言しかしないゴリ…カメリア。

 スキルの設定をいじった後リストを閉じると別のウインドウを開く。

 どうやら所持しているアイテムのリストらしい。



「薬系が10づつ……初期装備はバンテージか」



 そう言って軽く指を操作した後、ウインドウからバンテージを取り出す。

 安っぽいシンプルなデザインの白いバンテージだ。2本ある。

 直ぐに装備しよう。手に近づけると光を放ち、収まる頃には拳を覆っていた。



「――此処からは街の外になります。

 魔物との戦闘があるかもしれませんがよろしいですか?」

「YES!!」



 気付いたらそこは門の前。

 顔を上げると門番のNPCらしき男性が話しかけてくるが、

 間髪入れずに応答すると動きを一瞬止めた後、門の外へ手を向けた。



「げ、元気ですね……ではどうぞ。

 20時には門を閉じますのでそれまでにはお帰り下さいね!」

「サンキュー!」



 右手のグーサインと礼を言い、門の外へ入っていくカメリア。

 門の外は草原が広がっている。遠目にはなにやら動物の影がちらほらと見える。



「行くぞオラァ!」



 その影……先程門番が言っていた魔物だろう。

 上がるテンションに身を任せて、ダッシュで駆け寄っていく。

 そんな彼女の姿を見て、門番は一言。



「……美女なのに、話すと何故か近所の悪ガキ共みたいだったな」



 とても残念なものを見た門番は何事もなかったように業務に戻るのだった……。





 ◇◆◇◆





 草原には一匹の獣。長い耳と比較的小さな体躯。身体は茶色の毛皮で覆われている。

 要するにウサギであった。正確にはウサギを模した魔物だろう。

 そのウサギが足元の草を食んだ後、ふと顔を上げると――



「――[キック]!」



 ――視界いっぱいのブーツが迫っていた。



「ギッ!?」



 そんなブーツを叩きつけたのは間違いなく先程爆走していたカメリア。

 吹き飛んだウサギを追い、更に追い打ちを重ねるべく拳を握って一言。



「[パンチ]!」



 落下地点に体重を乗せた拳をズドンッ!と振り下ろす。

 鳴くこともできないまま、ウサギは光る粒子になって消え失せた。



「ふぃ~……こんなもんか」



 所持アイテムのリストを確認すると、

 先程倒したウサギの肉がリストに追加されている。

 追加された分を含めればもう50個はあった。



「スキルも大分育ってきたなぁ。大体Lv.5にはなったか」



 スキルリストを開いて進捗を確認する。

 見れば先程ウサギを倒したことで丁度格闘術がLv.5になったところだった。



「しっかし……このゲーム自分のステータスも数値隠されてるのイラつくわ。

 %表記で上がってることしか分からないの不便過ぎるだろ」



 スキルリストの一つ前のウインドウ。

 今の自分の装備やステータスの変動が記載されているが、

 所謂「~%上昇」の表記は並んでいるものの、

 現在のステータスは明確に数値化されていない。

 ただし例外も存在する。HP(体力)とMP(魔力)がそれだ。



「HPが基本100で、MPも100。

 HPは初期装備で底上げされて……今は1000か」



 どうやら魔物を倒し続けても基礎のHPとMPは上がらないようだ。

 恐らくは装備とスキルに依存するのだろう。



「んー。ログインしてから大体1時間半か。

 一旦街に戻って素材売ってくるかねぇ……ん?」



 流石の脳筋カメリアでもここまでノンストップで戦いっぱなしだったせいか、

 少し疲れてきているようだ。

 そうして街へ帰る為に街の方向へ顔を向けると、複数の人影が目についた。



「――いいじゃん。俺たちと狼狩りしようぜ?」

「そうそう。女の子2人じゃ不安でしょ?」

「……いえ、大丈夫ですんで」

「うう……」



 アヴィラへと続く街道のど真ん中で、4人の人影がたむろしている。

 執拗に迫る男2人に引いた様子の少女2人。

 全員カメリアと同じく初期装備らしい服装だが、男二人は

 パーティ勧誘をしているようだが、どう見ても質の悪いナンパにしか見えない。



「遠慮しなくてもいいんだよ?」

「いや遠慮とかじゃないんで」

「俺たちβ版でもいいとこいってたんだぜ?」

「数多い方が効率良いし、な?」

「いやぁ……」



 どうやら男2人はβテスターのようだ。

 それなら自慢するのもやたら偉そうなのも納得がいく。

 年場も行かない少女2人にしつこくナンパしている時点で台無しだが。



「……なんだ。ただのナンパか」



 カメリアは特に興味も無さそうに街道を歩く。

 一見薄情にも見えるが、これは現実ではなくゲームだ。

 現実で起きているなら止めに入る程度の正義感はあるカメリアだが、

 ゲームプレイ中に知り合いでもないプレイヤーの揉め事に介入するほど暇ではない。



「いざとなりゃ運営に通報すりゃいいだろ。面倒臭い」



 そのままズカズカと、我関せずと街道の端を進んでいく。

 当然4人の視界に入るが、目も合わさずに通り抜けようとする。

 しかしまあ、一応カメリアのアバターも女性であるわけで……



「おっ!お姉さん1人ィ?」

「……ん?」

「丁度良かった!今パーティ勧誘しててさ!

 俺らと5人で狼狩り、行かない?」

「――ちょ!何を勝手に」

「いいじゃんいいじゃん!ナイスアイデア!4人より5人の方が狩りも楽だし!」

「……っ!」

「なあどうよお姉さん。俺たちこれでもβテスターでさぁ。

 経験値効率のいい狩場とか、スキルの良し悪しとか教えてあげるからさぁ」



 こうして絡まれるのもまた必然と言えよう。

 男二人は横を通り抜けようとしたカメリアに近づき、1人は彼女の目の前で、

 もう1人は数歩離れた場所から絡んできた。

 近くで見ると男2人はそれぞれ初期装備だが、ピアスなどのアクセサリーを付けているのが目に入った。年齢は意外と低そうで、もしかしたら年下かもしれない。

 どちらも金髪、ピアス装備に馬鹿そうな言動。

 カメリアは脳内でチャラ男A、チャラ男Bと名付けていた。



「面倒臭い……」



 少女2人は少し遠くに。チャラ男Bが目を離さないようにしているので、

 断れば人質にしようとでも思っているのだろうか。

 だとすればこの一般脳筋ゴリラを甘く見ていると言わざるを得ない。



「……あー、お前らさ」

「ん?」

「なになに?」

「PK(プレイヤーキル)設定ってどうしてる?

 俺、あの設定OFFにしてるやつあんま好きじゃねぇんだよな……」

「お?お姉さん結構アグレッシブな感じ?」

「だったら俺たちと相性バッチリじゃん!俺たちもPK設定は当然ONだぜ!」

「そうそう、チキン野郎共とは違うんだよなぁ」



 PK設定をONに、つまり他のプレイヤ―を倒すことを自慢げに語るチャラ男達。

 奥にいる少女達はそんな彼らに対し更に冷めた視線を送っているが、

 後ろが見えていない彼らは知りもしないだろう。

 今は目の前の美人に夢中のようだ。



「へー、それは良いことを聞いた」

「お!?お姉さんノリノリだね!」

「じゃあ早速行こうぜ!ほら!お姉さんも行くってよ!」



 そう言ってチャラ男Bが振り向き、それに釣られたのかチャラ男Aが後ろに意識を向けた。その瞬間。



「――[キック]」

「ぼガァッ!?」



 カメリアは全力でチャラ男Aに前蹴りを繰り出した。

 しかし相手は大の男。武器は初期装備のニュービーの攻撃。

 そこまでダメージがあるとは思えない。

 しかしチャラ男Aはその場でうずくまってしまった。

 うずくまらずにはいられなかった。

 それはある意味当然だろう。何故なら彼女が蹴り抜いたのは……



「ヒェッ……!?」

「おーおー、やっぱ急所の概念あんのか。VRでも金的は効くかァ?」



 蹴り抜いたのはチャラ男Aの股間。

 人体の急所であり、尚且つ男性にとっては体の内で最も弱い部分と言ってもいい急所中の急所。金的である。

 キックの音に驚いたのか。

 チャラ男Bが振り向くとそこにはうずくまり股間を両手で抑えるチャラ男Aの姿が。

 痛みを想像したのか、思わず生娘のように悲鳴を上げる。



「おま……ふざ……」

「はいはい[キック]」

「ぶごォ!?」

「はよ倒れろ。[キック][キック]」

「がァ!?」



 動けないチャラ男Aに容赦なく追撃をかますカメリア。

 丁度蹴りやすい位置に来たチャラ男Aの顎を丁寧に前蹴りで振り抜いた後、

 側頭部を蹴り抜く。

 それでチャラ男Aの位置がさらに変わり丁度射程範囲に入った股間を再び蹴り上げる。



「[キック]。しかし何で絡んでくるかね。[キック]」

「ごァ!?……ゲッ!?」

「まあこういう対人戦も醍醐味ではあるけどさ。[キック]」

「ゴファァ!?」

「[キック]。こっちはさっさと街に戻りたいだけだってのに」

「ギャァ!?」

「お試しPKだと思えばいいのかねぇ……ん?死んだか?」

「……」



 キックを叩き込み続けるとチャラ男Aは青色の粒子となって散っていく。

 どうやら倒し切ったようだ。

 他の3人を見ると、少女たちは今までの怯えた顔を硬直させている。

 チャラ男Bは少し呆然としていたが、チャラ男Aが倒されたことを認識すると、

 表情をこわばらせ、腰のメイスを抜いた。



「テメェ……!やりやがったな……!」

「油断してる方が悪いだろ?」

「ふざけんなよクソアマァ!」

「面倒だから早くしろ」



 鬼気迫る勢いのチャラ男Bとは対照的に、カメリアの様子は大分静かなものだ。

 ダルそうにチャラ男Bへ近づいていく。

 チャラ男Bはカメリアにダッシュで近づくと、そのままの勢いで右手に握ったメイスを彼女の頭部へと振り下ろす。



「死ねやァ![パワースイn――」

「遅い」

「ゴッ……!?」


 ガラ空きになった胴体に左足で前蹴りを当てるカメリア。

 腹部、それも鳩尾近くに突き刺すように叩きつけられたそれは、

 チャラ男Bの勢いを殺すには十分すぎるほどであった。



「[キック]」

「ッ……!?」



 動きが止まった瞬間を逃さず、股間を蹴り上げる。

 チャラ男Aの惨劇を見ていたチャラ男Bは声も上げられずその場に沈む。



「ほれっ!」

「ぎェァ!?」

「[パンチ]」

「ゴッ……!?」

「[パンチ]。[パンチ]。経験値貯めないとな」



 悲惨な状態にもかかわらず、カメリアの表情は平静そのもの。

 作業のように[パンチ]と[キック]を叩きこみ、チャラ男Bはあえなく散っていった。



「んー。PKの経験値量は意外と低いのか。勉強になったわ」



 スキルリストを覗いてもβテスターだと言っていたわりには経験値があまり溜まっていない。どうやらPKで得られる経験値はそれほど多くないようだ。

 しかし経験値はおまけに過ぎない。もう一つの目当てを探しに所持品リストを漁る。



「お、結構あるじゃん。狼の皮に肉、薬草なんかもあるし」



 大漁大漁。とチャラ男達が死亡と共に落としたアイテムを数えながらほくそ笑む。

 このまま街で売り払うか……とホクホク顔で帰路に着こうとする。



「……あ、あの」

「ん?なんだお前ら……ああ、絡まれてた奴らか」



 そう言って女子2人の方へ振り向く。

 カメリアの蛮行……もとい救出劇を硬直しながら見ていた2人は、

 恐る恐るカメリアへ話しかける。



「……すいません。巻き込んでしまって」

「た、助けて頂いて!ありがとうございます!」



 少女2人の内、ダウナー系の少女は申し訳無さそうに、

 小動物系の少女は慌てながらそれぞれ礼を言った。



「別にいいよ。あいつら邪魔だったし」

「邪魔……」

「経験値もアイテムも貰ったし。いいストレス解消になったわ」

「ひええ……」



 カメリアは特に気にした様子もなく、蛮族的な思想をぶちまける。

 少女たちはそんなカメリアの言葉に引いているものの、

 若干尊敬の念を抱いている節がある。

 特に小動物系の少女はキラキラとした目をカメリアに向けている。



「そもそも、なんで絡まれっぱなしだったん?」

「え?」

「いや戦ったりとか、できないですよぅ……」

「あんなの黙って運営に通報しときゃいいだろ」

「へ?通報?」

「ヘルプから使い方見られるぞ。メインメニューの端」

「……ほんとだ。気付かなかった」



 メインメニューを可視化して2人に見えるように説明する。



「なんだ。初心者か?」

「はい……というか、VRMMO自体初めてでして」

「一応攻略サイトは見てきたんですけど、序盤の立ち回り云々しか書かれてなくて……」

「情報収集ならSNSの方が楽だぞ。精度悪いけど情報量はダンチだ」

「なるほど……」



 その後も適当に一言二言アドバイスをしていると、結構な時間が経っていた。



「じゃあ俺もう行くから。次絡まれた時は無言で通報しとけよー」

「はい、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「へいよー」

「あ!最後にお願いが!」

「あぁん?」



 なんだ?乞食か?と一瞬身構えたカメリア。

 それも知らず小動物系の少女はキラキラとした目をさらに輝かせながら。



「――お姉様とお呼びしてもいいですか?」

「嫌」

「そんなぁ!?」

「当たり前じゃん……足速ッ!」



 頭でも逝ったのか。

 思わずたじろいだカメリアは速足でその場から去っていった。



「お姉様ぁ!私もお供に!」



 後ろから聞こえてくる声を無視して街へと進むカメリアだった……。





 ◇◆◇◆





 しかし、まあ、悪いことは続くもので。



「――いたぞ!」

「……あ、さっきのチャラ男じゃん」



 街へ入ると先程股間を破壊したチャラ男AとBが。

 報復か?とワクワクしながら見ていたカメリアだが、

 次の瞬間再び衝撃が奔ることとなる。



「姐さん!お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

「へ?」



 直後。近寄ってきたチャラ男ABはその場でお辞儀する。

 それはもう、地面に突き刺さるんじゃないかと思わしきほどに深々と。

 あっけにとられたカメリアは、その場で呆然とする。

 なんとなく既視感を感じるが、気のせいだろう。気のせいのはずだ。



「なんだお前ら……」

「ウッス!あの後!俺たち心洗ってきたっす!」

「姐さんの一撃で目ェ覚めました!」

「姐さん言うな」



 気のせいかチャラ男二人の目がキラキラしている気がする。

 というか若干顔を赤らめてチラチラとカメリアを見ている。


 ……正確には、カメリアの足を見ている。



「ですので!改めて姐さんとパーティをですね!」

「ウス!自分達、死ぬ気で姐さんのフォローできるよう努める覚悟です!」

「勝手に決めんな」



 街の、大通りのど真ん中で熱烈なアプローチ。

 当然目立つことは避けられず、3人は遠巻きに注目されていた。

 その喧騒の中、1人の少女が中心へ突撃していった。



「――お姉様!やっと追いつきました!」

「うわぁ……」

「な!?お前さんは!」

「さっきのお嬢ちゃん!」

「ああああ!さっきのチャラ男!お姉様から離れてください!」

「隣に来るな腕を組むなお前も離れろ」

「そんなお姉様!殺生な!?」



 邪魔なので蹴ろうとするが、街中は戦闘禁止エリア。

 NPCもといプレイヤーに対する攻撃はモーションすら行うことが制限される。

 その為腕にしがみつく小動物を振り払うこともできず、

 その場で喧騒を眺めるしかない。



「ハァ、ハァ……速いよ……」



 後ろの人ごみの中に先程のダウナー系少女の声が聞こえるが、

 如何にも息絶え絶えの状態で、この場を収めることもできないだろう。



「お嬢さんには悪いが!これだけは譲れねぇ!」

「そうだ!確かにさっきお嬢さん達に迷惑かけたのは悪かったが、

 姐さんだけは譲れねえんだ!」

「知るか」

「お姉様は私たちと女の子同士で冒険するんですぅ~~!

 野郎どもは男同士で仲良くしてればいいじゃないですか!」

「お前さっきまでビビってなかった?」

「言ってくれるじゃねぇかアァン!?」

「こうなったらタイマンじゃぁ!勝った方が姐さんの一番の舎弟だ!!」

「やってやろうじゃないですか!」

「聞けや」



 少女と男二人が言い争う中、カメリアは台風の目の如く無視されていた。

 今なら離れられるか……?と数歩離れてウインドウを出す。

 そのままログアウトしてしまおうとメニューを操作していると、

 その端、フレンドリストに目がいった。



(そういや月草は人魚族スタートだっけ。地味に気になってたんだよな)



 βテストの情報でも魚人族の情報は殆ど無かった。

 せいぜい最初の街の名前と場所が知られている程度だったので、

 親友が人魚族を選んだ時、何処でプレイしているのか非常に気になっていた。



「フレンド通話フレンド通話っと」



 現実逃避だろうか。さらに数歩離れて通話を開始する。

 月草……LOOだとツユクサだったか。今どうしているのだろうか。



『――はい――い』

「お?繋がったか?」

『……あーあー、聞こえますか?』

「聞こえる聞こえる。なんだ元気そうじゃねぇか」

『あ、椿ちゃぁん!』

「カメリアな」

『ご、ごめん。カメちゃん』

「変なあだ名つけんな」

『それでねカメちゃん』

「無視か……」



 想像より大分元気そうだ。

 人魚族という特異な種族にしてしまった親友だが、

 なんとか楽しめているようだと、

 変な渾名を付けられたこと以外は概ね安心したカメリア。



『それで、それでね?』

「はいはいなんだよ。言っとくけど今大分驚くこと多かったから、

 今更そんな動じることなんかないって――」

『――今イワシの大群に追われてるんだけどどうすればいいと思う?』

「……ハァ?」



 ――カメリアの苦労はまだ続きそうだ。



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