第5話 旅の始まり

 あくる日、まだ夜も明けきらぬ内に、俺は眠るエタンを起こさないように、一階に設けられた馬屋に繋いである己の馬に乗り、城へと急いだ。

ベルヌール街に出たところで、眠たそうなフランシスと落ち合った。

「おはよ」

 と、彼はあくびまじりに言った。やはり彼も見かけだけだが荷物は少ないように思えた。

「おはよう」

 俺が答えると、彼は嬉しげに口角を引く。

 また、彼方から馬で駆けてくる影がある。オリヴィエだ。俺たちはその場で彼を待つ事にした。

「なんだ、先に行っていれば良かったのに」

 と、追い付いたオリヴィエは言う。

「みんなで行った方が楽しいじゃない」

 フランシスは言った。

「あとはマウロだけか……あいつの家はコンベール街だから別の道を来るかもしれんな。先に行ってるか」

「そうしようか」

 と、俺は頷く。

それから三人で城に赴くと、やはりマウロは先に辿り着いていた。大きなこん棒を背に背負った姿は、やはり銃士には見えない。

「遅いじゃないか」

 マウロは腕を組む。

「お前、その姿まるで山賊だぞ」

 笑いを堪え、皆で背を震わせていた所を、オリヴィエが冷静にツッコミをいれる。確かにそうだ。

 と、皆で騒いでいた時、城の門が開き、犬の門番がやってくる。その奥から、馬の手綱を持った従者に連れられたアイリス姫があらわれた。髪が伸びるまでは故郷へは帰らないと言う決意だと言う風に、長かった髪をばっさりと切り、ドレスではなくズボンにマント姿だ。一見男装のようにも見える。首に黄の走った宝石のネックレスをしている。腰にはしっかりレイピアを帯びていた。

「皆、集まってくれてありがとう。行きましょう」

 昨日の事はなかったかのように、アイリスは振る舞っている。それならばそれで構わないが。

「は! 道中警護に尽力致します!」と、皆を代表してオリヴィエが言った。そうして、馬に飛び乗ったアイリスに、「まずはどこを目指されますか?」

 紳士的に尋ねた。

「そうね……まずはおば様のいらっしゃるイサファの国に行きたいわ」

「わかりました。私が先導致します。ついていらして下さい」

 前方にオリヴィエ、その後にアイリス、彼女を挟むように俺とフランシス、一番後ろにマウロと言う形で、旅は幕を開けた。……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る