つまり全面的にアンタが悪いってこと?

「心当たり、ね」


 そう呟いて、少し考える。


 赤月が落ち込んでいたのは、さきほどの遠野の発言から今日のことだというのはわかった。昨日は焦って逃げていく赤月を見たぐらいで、それ以上関わってはいない。だから、午前中に落ち込んでいたのだとすれば、俺は本当に関係がない。


 ただ、午後ならもしかすると俺かもしれない。


「なあ、赤月が落ち込んでたのっていつだ?」

「え、っと……昼休みの後。なんか、いつもと様子が違ってて、それで声かけたから」

「ああ……」


 遠野の答えに頭を抱えたくなる。

 間違いなく、原因俺ですよね。これ。

 いや、でもどれだ? 心当たりはあるにはあるが、それのどれで赤月は落ち込んでいる? 

 一ノ瀬から逃げたことか? それとも部活に誘ったこと? まさか……。


「ねえ、なんかわかったの?」

「多分。いや、でもな……」


 俺が嫌いって言ったぐらいで落ち込むようなタマか? あいつ。

 あの時だって、割と普通に喋れていたし、いや、確かに勧誘は断られたが……。


「なによ。わかったなら教えなさいよ」

「あ、ああ……」


 しかし、これ、言ったら遠野は絶対キレそうだ。

 いや、でも言った方がいいか? 後で知られて倍怒られるのと、今怒られておくのと、どっちがいいかと聞かれれば、断然後者だ。


 昔、悪さをして母親に問い詰められた時、下手に隠して後から決定的な証拠が見つかった時は、マジで死ぬかと思ったし……。


 ここはひとつ、潔く殴られよう。


「非常に言いにくいんだが、昼に赤月と会ってな、その時なんだが……」


 ざっくり、赤月のあれこれだとか、一ノ瀬との一悶着だとかについては隠して、その時の会話内容を説明する。

 最初はぽかんとして聞いていた遠野だったが、俺が赤月に「嫌いだ」と言ったことを説明した辺りで噴火した。


「は、はあ⁉ あ、アンタ、あんないい子に嫌いって言ったの⁉」

「いや、まあ、うん。言いました」


 そこに至る経緯に関しては弁明の余地ありだと思っているのだが、それを説明することは出来ないので、彼女の怒声とも悲鳴ともつかない捲し立てる声を甘んじて受け止める。


「なんで⁉」

「いや、なんつーか。ちょっとな」

「そのちょっとの部分を聞かせなさいよ!」


 まあ、気になりますよね。


「悪い。そこはちょっと守秘義務的なアレで……」

「守秘義務ってなによ」


 いや、俺もわからん。間違ったかもしれん。


「あれだ、黙秘権。黙秘権を行使する」

「つまり全面的にアンタが悪いってこと?」

「それは違う」


 即答だった。それはもう「つ」の辺りから準備していたぐらいには、完璧な即答。若干、食い気味だったかもしれない。


「そ、そうなの? でも、花蓮が人に嫌われるようなことをするとは思えないんだけど……」

「いいか遠野。世の中にはお前が想像もできないぐらい面倒臭いやつらもいる。そういうやつらからすれば、赤月のぐいぐいと来る感じは迷惑でしかないんだ」


 というか、あいつの場合それ以前の問題な気がしなくもない。いや、それも赤月のことを少しでも意識していれば、悪くは思わないのだろうが、少なくとも人によっては迷惑以外のなにものでもない。

 誰でも寝込みを襲われるのは嫌だろう。


「それはつまり、アンタがその面倒臭いやつってことよね?」

「……否定はしない」


 自覚はしているが、こいつに言われるのは、歯の奥に魚の小骨が引っかかって取れない時と似た不快さがある。もしくは、のりが口の中の上の方に引っ付いた時か。

 要するに、歯がゆい。

 そう感じるのは、こいつに事情を話していないからだろう。事情さえわかれば、今回の一件が、俺と赤月どちらの責任によるものなのかはっきりとするはずだ。

 今はそのことは話せないし、話さなくても良さそうだ。

 どうやら、遠野の中で答えが出たらしい。


「一先ず事情はわかった……。けどやっぱりアンタのせいじゃないの」


 自分でも少し自意識過剰だと思いながら話したのに、どういうことなのか、遠野は呆れた様子でそう言った。


「……マジか?」

「マジよ、あの子、人に嫌われるって本当に初めての経験だろうし……」


 ……はい?




―――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


おはようございます。高橋鳴海です。

昨日は予約投稿でミスをしてしまい、一話多く投稿してしまいました。

なのでお詫びの気持ちを込めて、本日も二話投稿します。

昨日は同時刻でしたが、今日は分割でもう一話を昼の12時に投稿するので、少しでも皆さんの休日に貢献できたら嬉しいです。


高橋鳴海

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る