【FGA:18】STRAYDOGS


「レディーッス、エーン……ジェントルメーッン! 皆さま。大変長らくお待たせしました……今夜はこの街……『アルファルファ』が送る最高の! エンターテイメントーッ……『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』の決勝戦の日だーっ!」



わあああああっ。


 会場のあちこちに設置された大型スピーカーのハウリングから程なく、コートや観客席を照らしていた照明が全部"がっ"と落ちると──眩い白い光のスポットライトに照らされたMCの男が出てくる。

 その男は続けて「まずは早速……今日の決勝戦の相手『STRAYDOGSストレイドッグス』の相手を決める緒戦をやるぞーっ!」と周りの観衆たちに発破をかける──すると、再びスポットライトが今度は2つ、コートの端を照らすとそれぞれ3人ずつコートに出てきた。



「緒戦? さっきの3人組アイツラ試合ゲームじゃないのか?」



 亜蓮は騒めく会場の騒音に軽く不快感を示すように"ぱぱぱっ"と手を左右に振る(魂状態であはあるが本人の意思によって腕を生やしたり脚を生やしたりすることができるらしい)とテレサに訊ねた。

 テレサはそんな騒音に同調する様に大声で「待ってましたぁっ!」と一つ、歓声を入れるとそのままのテンションで亜蓮のその問いに答える。



「あぁ……プリドさんたちは……"STRAYDOGSストレイドッグス"の人たちは今日の目玉ですから最後なんですよ!」



 「ほーん」と亜蓮は一つ相槌を打つと「それにしても野良犬たちSTRAYDOGSって……なんか擬人化したりバレーやったりしてそうな名前だな……」と言うとそのまま"ぐっ"と手すりに体重を預けるように魂の下半分カラダを乗っけた。

 そしてそのまま見入るようにコートで始まった試合3x3を観始めた。


 そんな中雷人はと言うと──相変わらず騒音で騒がしくなった会場やヒト達を差し置いて三度、考え込むと、「僕は少し席を外しますね」とテレサに言うと"そそくさ"とその場を後にした。

 「ん? 大丈夫かあいつ……」とあまり優れない顔色の雷人を心配するジェラミーに亜蓮は「あぁ……雷人アイツは考え込むときはああやって独りになりたがるんだよ。だから少し放っといてやってくれねぇか?」と視線を微動だに変えずに訴えかけた。

 きっとこの2人にも何かしらあるんだろう──と、未だ出会ってばかりのテレサやジェラミーは勝手に推察をすると「分かった」と一言、それ以上は何も言わず、何も聞かずに目の前で行われる試合に集中した。



「行かないよ? 私がここから離れたら誰が店番をするんだい?」



 時は少し遡り──亜蓮たち一行が『アルファルファ』に試合を観に行く前、"カフェ・レオナイル"ではそんなカミラの一言がテレサの心を一刺し、貫いていた。



「お、お母さんが行かなかったら……私とお父さん、2人だけになっちゃうよ!?」



 テレサはまるで有罪判決が下された被疑者の様な慌てぶりで必死に自分とジェラミーを交互に指差すと「分かってくれるよね?」といった目でカミラに訴えかける。

 そんな何かを訴えかける目をした実の娘にカミラは「いいじゃない。たまにはお父さんと2人だけで観に行きなさいよ」と早々に訴えを棄却するとさっさと厨房へ戻っていってしまった。

 唖然としてその場に立ちすくむテレサと「……え? 俺とじゃ嫌なの……?」と年頃の娘特有のを感じ少し涙を浮かべるジェラミーと3人組、亜蓮と雷人がその場にだけ残ると──テレサはふと何かを思いついたように雷人の方へ"ぎゅっ"と姿勢を向け、襟を正すと



「じゃ、じゃあ……あ、あの、その……い、一緒に試合、観に行ってくれますよね……? くれますよね……!?」



と今度はこちら側へ矛先を変えてきた。

 雷人は「え?」と突如立たされた矢面に戸惑うと「お願い! 行ってください!」と更に(言葉には表してはいないが)訴えかけてくる。

 そんな困惑すると雷人を尻目に──いつのまにか用意されていたミートスパゲッティに(腕を生やして)フォークを滑らす亜蓮が「あ? いや行かねーよ?」と無惨にもテレサの提案を拒否する。

 雷人は亜蓮が勢いよくかっこむものだから──テーブルに散った赤いケチャップがまるで今のテレサの心情を表しているようだ、と感じるとカミラと同じように「まあ……たまにはお父さんと親子水入らずの休暇を過ごしたら……?」と妥当なフォローを入れた。


かちゃかちゃ。


 そんな雷人の言を最後にその集団から声は消え、フォークやスプーンが擦れ合う音がしばらく続いた後──青ざめ動かないテレサに「……大丈夫か? ジェリーには悪いが……別に無理して来なくても良いぞ?」とジョーが言った時、おもむろにテレサ静かに雷人の前に立った。


刹那。


 テレサの頬にまでかかる暗い影にそれに不似合いな笑顔に嫌な予感が走る。

 慌てて話をかけようと何か話題を探そうと四苦八苦する雷人に──その少女は静かに耳打ちする様な小さな声で一言、こう言った。



「お客様、転移者ですよね? お金、無いんじゃないですか?」


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