【FGA:19】事件


(そんな事言われたら……まぁ、断れないよね……でも)



 "するする"と人と屋台の間を抜けていく雷人は鉄板や往来する人から来る熱気に少し汗を滲ませながら手で顔を煽る。

 "ぶんぶん"と──全くもって役に立ちそうにはない自分の手から送り出させれる自然の風であったが──やはり、涼しい風はおろかそこらを漂う熱気がさらに固まりとなってより一層体温が上がってしまう風しか来ないので雷人は「あっつ……」と一言、独り言を言うとさっさと辞めてしまった。



(ここに来ることで……どうにかその"聖杯トーナメント"に出れる様な……そんな事が起きるなんて思うのは……流石にダメだったかな……?)



 "すっ"と屋台と屋台の間の横道を抜ける。途端に人も食べ物の香ばしい匂いも途絶え、静かな暗闇だけが現れる。

 少し人の波を外れればこんな静かに世界が待っているとは思ってもみなかったので──雷人は軽く驚くと、その暗闇に一滴の懐かしさを感じた。

 こう思い返すのは何度目か──女神に出逢った時の世界の様だ────なんて一つ「ふっ」と笑うと、そのままティーカップに注がれた熱々のコーヒーに溶けていく砂糖の塊の様に暗闇に溶けていった。


反面。


 頭を冷やす為に熱気を抜けていった雷人とは違い、亜蓮はの中にいながら──なんとも頭だけは冷静だった。

 あんなに好きなバスケットボールの試合ゲームが観れているのに──こんなに心が騒がないのはではいからか──それともがストリートバスケットであるからか。


否。


 彼がこんなにも冷めている理由は──今、目の前で行われている試合ゲームに如何ともし難い怒りを覚えているからだった。

 どんな試合ゲームか。それは簡単に言えば────亜蓮は思わず「おい、あんなの許されるのか?」とテレサに聞く。



「それが……仕方がないんですよ……さっきも言った通り、は"やりたい放題ノールール"ですから……。あぁいったいかにも『ラフプレイをする為だけに来ています』と言った人たちも受け入れられますから。それにこれもさっき言いましたが、を観たいがために来ている人も……少なくありませんからね」



 亜蓮はテレサのその言を聞くと「ちっ……」と一つ舌打ちをすると「萎えた。あいつらの試合ゲームになったら呼んでくれ。そこらへんぶらぶらしてるから」とだけ言うと"ふわふわ"と朱色の身体を揺らしながら盛り上がる客の間を抜けていった。

 テレサは「あっ……」と何かを言おうとしたが──"がっ"とジェラミーに肩を掴まれ制止される。

 先ほどのテレサの様にジェラミーは「分かってやれ」と言わんばかりの瞳を向ける。そんな目を向けられたテレサもさすがにこれ以上何かを言うのは得策ではないと──肩をすぼめるばかりであった。



 そんな三者三様、色んな想いが交差している時──ここ、『アルファルファ』の"はずれ"である事件が起きていた。

 それはこの"ザ・ストリート・オブ・アルファルファ"に力試しをしようと離島からやってきた──"ディーノ・D・ディーマディ"とその妹である"ヴェロ・D・ディーマディ"兄妹が、2人の保護者役として来ていた"ティラン・ L・ヴィンスケイト"から離れて行動していた時だった。

 「おっさん! ちょっと俺らそこらへんでなんか食うもん買ってくるわ」と妹の手を引っ張り屋台の波へと駆け出したディーノであったが──ちょうど食べごろか、香ばしく焼けた焼きそばを買おうとしたその時──突如後ろから「……ディーノさん? きゃあディーノさんだ! あ、あの……『トロート』の"ディーノ・D・ディーマディ"さんですよね? 私たち貴方のファンなんです! もしよかったらこの後一緒にお茶しませんか?」と、それはそれはに声をかけられたものだから──ディーノは「え? お、俺の事知ってんすか? なんだな照れるなぁ……」と見るからに嬉しそうに赤面した顔で「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 見るからに怪しい人たちだよ!」と必死にディーノを止めようともがくヴェロの言うことも聞かないで"ほいほい"その女性たちに着いていってしまった。


案の定。


 見るからに"美人局"的な──そんな女性たちに着いていってしまった先でお約束の睡眠薬を入れられたお茶を飲まされ"すやすや"と眠ってしまうと「この時を待ってました」とばかりに扉を乱暴に開け、身体のあちこちが姿をした男たちが3人、入ってくるとそのまま手際良くディーノたちを縛り上げてしまった。



「ふぅ……悪いな、ガキども。お前らはちょっと分が悪すぎるから不戦勝にさせてもらうぜ? なぁ、"トリプルD"……に、妹の"ダブルD"さんよぉ。……ところで"大地の牙グランドファング"が見当たらないが……まぁいい。あの爺さんぐらいは放っておいても大丈夫だろう」



 薄れゆく意識の中──ディーノはそれだけ聞くとそいつらがあの──アンドロイドたちだ、と確信すると──流石に睡魔に勝てずそのまま深い、深い眠りへと堕ちてしまった。


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