【FGA:17】ザ・ストリート・オブ・アルファルファ


「"アルファルファ"って……あの野菜のアルファルファ?」



 焼きとうもろこしにポップコーン、焼きそばにフランクフルト……まるで祭りの様な"にぎにぎ"と賑わう出店の数々の中を闊歩しながら──雷人は隣を"せかせか"と歩くテレサに訊ねる。



「え? あ、はいそうですよ! アルファルファです! この街では"アルファルファ"がよく採れるからって──なんとも安直な発想ですけど…-あ、ちょっとお父さん! 試合見ながら食べれるもの買ってきて!」



 そう実の娘に言われ「はいはいちょっと待ってくれ……今行くって! だから背中を押すな!」と半ば無理やり人口密度過多の人混みの中に特攻させられ、アゴで使われる父親ジェラミーに軽い同情の苦笑いを浮かべながら──雷人は「じゃあその3x3スリーバイスリーの大会って?」と質問を続けた。



「その大会はですね、正式には『ザ・ストリート・オブ・アルファルファ』って言って……世界中の人たちストリートボーラーが集って優勝を争う大会なんです」



 「ほーん」と2人から少し遅れて浮遊しながら着いて来る亜蓮が辺りをちらちらと見回しながら相槌を打つと「じゃあよ」と今度は雷人に代わってテレサに質問をする。



「そこらへん歩いてる……なんだ、あの毛むくじゃらの馬ヅラのヤツとか、恐竜の頭はっつけたみてぇなヤツとか……アレ、アレはなんだ……ロボット? みたいなヤツらもバスケやんのか?」



「もちろんやりますよ? 馬ヅラというか……彼らは獣人族で恐竜と人のハーフみたいな人たちは爬虫類人レプテリィアンの人、ロボットに見えるのは……アンドロイドの人たちですよ」



 静寂──この世界に来てからと言うもの信じられないモノばかり見て幾分か慣れたかと思っていたが──それは全くもって錯覚であったと言わざるを得ない。

 雷人は亜蓮がそわそわと(ふわふわと、ではない)緊張して落ち着かない様に周りを見渡しているのに倣い、改めて視線を右に左に揺らし"じっくり"と周りを眺めると──なるほど。くんが、怖いモノ知らずのくんがそわそわするのも無理もないな、と頷いた。

 亜蓮の言う通り、屋台や周りを歩く人々は──否、者が多いのは、この世界が異常なのか──否、と認識する。事実、この街に来てからというもの辺りから聞こえてくるのは「お、人間だ」や、「噂のレオリオラの人間か?」などと──人間ぼくたちを珍しがるヒトたちが多かった。

 雷人が物思いにふけている頃、「ところでよ……」とこれまた疑念の思いが強く籠った声で亜蓮が話を切り出す。



「ああいう……クソだせぇセンスの仮面着けてるのもそのナントカ種族とかなんか?」



 怪訝な視線を向ける亜蓮の目先を追うと──確かに。大きな丸いバスケットボールのデザインをした画面に大きく"B"と書かれた──そんな仮面をつけた人間が質素な服を着てどこかコソコソとした足取りで歩いていた。

 聞かれたテレサは特に視線を動かさず手元のメモに必死に何かを取りながら「あぁ、それはですね……」と片手間に答える。



「貧困街で行われる試合ゲームは結構やりたい放題ノールールなものが多いですから……そういった文字通り試合ゲームを観たい一部の大金持ちだったり貴族だったりは変装する為にああして仮面なりなんなりを付けて試合ゲームを見にくる事があるんですよ」



 「へ、へぇ〜〜」と自分から聞いた癖にイマイチにリアクションを取る亜蓮に「あ、それと」とテレサは補足を加える。



「ああやって独りに見えるからって襲っちゃダメですよ? ああいう人は独りに見せかけて実は何人もスゴ腕の護衛SP雇ってる人が多いですからね……『いいカモだ!』なんて言ってよくチンピラが喧嘩を売っては返り討ちに遭ってますよ」



 やたら物騒なワードが出るテレサの言に雷人はやっと物思いから脱出すると、いつの間にか迎合していたジェラミー(手にはポップコーンや焼きとうもろこしなどなど)やテレサに置いてかれまいと慌てて歩速を速めた。

 そして数分後経ったあたり──辺りの喧騒が激しくなってきた事に気づいた。

 そこで初めて雷人は自分たちがこの街『アルファルファ』の中心に着き、かつこの場所で先ほどカフェに滞在していた3人組が出るという試合ゲームの会場である事を察知する。



「ここでさっきの3人組の人たちが試合ゲームするんだね……」



 そこはでも──典型的で、街中そこらへんにありふれているバスケットの外コートであった。

 灰色の整備があまり行き届いていない地面コートにところどころ欠けた白い線ライン、ゴールのバックボードも恐らく練習や本番で何回も何回も叩かれているのだろう──そう簡単に推察できるほどボロボロで、そんなボードに着いたギラギラと光る赤いリムと試合にあたり新調したのか──白いネットが逆にそのボロボロの設備にある種のになっているのか、ゴールそこだけ適当にコラージュしたなんとも試合会場コートに思える。

 加えて、そのボロボロのコートの中心に赤い塗料で乱雑に『アルファルファALFALFA』と書かれているのが尚のこと、一層不思議な感覚を思わせる。



「まぁこうやってテキトーにバスケに触れてけば……どうにかこの国レオリオラの代表選手ロスターになれ──る事はもうないか……」



 雷人と同じくそのコートをぐるりと軽く観回した亜蓮はそう言うと"がくり"と(魂のくせに)分かりやすく項垂れると「ちょっとソイツ分けてくれねぇか?」とローテンションでテレサが美味しそうに頬張っている香ばしいチキンに釣られたのか、そのチキンを一つくれないかと交渉を始めた──そしてその光景を横目に雷人は今一度、ここまでの経緯を思い返していた。



(どうにかここから……この状況から巻き返せる方法はないかな……? 多分、この国の王子様とその親衛隊の人には嫌われちゃったから──もうこの国の代表選手ロスターにはなれないかもだけど……どこかに──)



ピィーッン。


 突如、会場に甲高いスピーカーのハウリングが聴こえてきた。

 それは試合の始まりの合図なのか──同時に周りにちらほらと見えていた観衆に"どっ"と会場の外で騒いでいたヒト達がになだれ込んで来る様に入ってくると──あっと言う間に試合会場は満員御礼大盛況という様なヒトの多さでごった返す。

 "ぎゅうぎゅう"と身体の四方を押されては押し返していく内に先程のスピーカーからこの会場のスタッフか──愉快な声が聴こえてきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る