3・萌えて燃えて萌えまくって

 吉祥院さんの秘密を知った あの日から三日が経過した。

 俺は吉祥院さんのことが、違う意味でも気になり始めた。

 高嶺の花だと思っていた吉祥院さんにも、俗物的な趣味があると知って、親近感が沸き、話かけて親しくなろうかと考え始めるようになった。

 だけど、吉祥院さんの周囲にはいつも取り巻きの女子がいて、話しかける隙などなかった。

 結局のところ、名もないモブは、悪役令嬢と接点がないまま終わるのだろうか。

 考え事をしていた俺に、海翔が話しかけてきた。

「相変わらず彼女のことが気になるみたいだね」

 海翔は俺が、それとなく吉祥院・セルニア・麗華さんに注意していたことに気付いていたようだ。

「でも、どうして告白しないの? 遠くから見ているだけで満足するなんて、男らしくないよ」

「そんなんじゃないって」

 幼馴染みのこいつにも、さすがに転生者とか乙女ゲームのことは話せない。

 それに 朝倉 海翔は、攻略対象だ。



 小学一年の頃、朝倉 海翔は従兄に美少女アニメを見させてもらった。

 それに衝撃を受けた海翔は,そのアニメのファンとなり、オタクとなるのにそう時間はかからなかった。

 そして小学校二年、クラスメイトの前で、

「僕は一生、二次元の女の子を愛でながら生きていく」

 と断言した。

 小学生にして人生を踏み外したのだった。

 美少女ゲーム。美少女アニメ。美少女マンガ。

 美少女と付く物にはなんでも手を出す。

 だけど外見は美少年なので、その姿に騙された女子は数知れない。

 そして百人以上に告白され、その全てにおいて、

「僕は二次元の美少女が好きだから」

 という理由で断った。

 振られた女子は、二次元に負けたことにショックを受け、一時的に引きこもりになった者もいる。

 そして話は、なぜか海翔が、実は俺のことが好きだと言う話に展開した。

 しかも その話には根拠がある。

 実は小学三年生の時、海翔は俺にプロポーズをしたことがある。

 お金の面倒は全部 僕が見るから 結婚して、と。

 いきなりなにを言い出すのかと思いきや、美少女グッズの荷物持ちを一生してもらいたいからなのだそうだ。

 当然 断った。

 俺はリアルの女の子が好きなんだ。

 金の心配がなくても、なにが悲しくて女の子みたいな男の幼馴染みと結婚しなくてはならないのか。

 しかし、その話がどこかで聞かれていたらしく、小学校中の噂になってしまった。

 そして高校に入り、人気投票三冠王になった海翔に、多くの生徒が告白したが、全て玉砕。

 その数が百人を超えたところで、噂が再燃した。

 朝倉 海翔は俺のことが好き。

 しかし俺がノーマルなので、海翔は成就しない恋に身を焦がし、だから二次元の美少女に逃避しているのだと。

 だが海翔は、全校集会で二時間以上、これでもかと二次元美少女の愛に萌えて燃えて萌えまくっているかを熱弁したため、その話は沈静化した。

 ただ、松陽高校二次元美少女オタク代表であると認定されたが。



 ちなみにゲームでは、ヒロインが転校してきた時、その姿を見た海翔が一目惚れして、

「この僕が三次元に萌えるなんて」

 というのが、朝倉 海翔のルートの始まりだったりする。



 攻略対象の一人にして、学校代表二次元美少女オタクの朝倉 海翔。

 ヒロインが転校してきた時、こいつはリアルに目覚めるのだろうか?

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