第32話イアソンと緊急ミッション2

「イアソン様!!」

「わかっている!!」



 オークの集団に俺たちは予想外の苦戦をしていた。大きい理由は二つある。一つは混戦のため、思うようにメディアの強力な魔法を打てないという事と……



「何をしている、テセウス!! メディアの魔術の射線に入るんじゃない」

「そんなこと言っても、この状況ですよ!!」



 連携不足だ。シオンを追放した俺達は、今回のために臨時でスカウトをしたのだが、思うように力を発揮できないでいた。テセウスは戦闘力はあるものの、前へ突っ込みがちであった。そして視野も狭い。これがシオンだったら、状況を判断して、メディアやアタランテが動きやすいようにサポートをしてくれただろう。そしてもう一つ……



「きゃっ!!」

「テセウス、治療を!!」



 オークの矢が刺さったアタランテのサポートのために、テセウスが抜けた前線を俺一人で何とか守りぬく。何匹か屠ったが、相手の攻撃が激しくなる。これ以上は支えきれなくなる。



「どうした、お前の法術はそんなものなのか? 早く治療を済ませてこちらの援護に来い」

「だって、俺は前線で戦うのがメインですよ。回復はあくまでもおまけですって」



 法術の練度が全然違った。シオンと同じ中級法術のスキルを覚えているが、効果量が全然違った。パーティーを組む時に持っているスキルだけしか聞かなかったから、熟練度でこうも効果が違うのは予想外だった。

 目の前のオークどもの相手が精一杯で中々前に進めない状況が歯がゆい。あと一手あと一手足りないのだ。



「イアソン様!!」

「おう」

「火よ!!」



 メディアの声で察した俺は相手を押し返して、何とか距離とる。そしてメディアの魔法によって、オークたちが焼き払われて、オークロードへの道が開ける。今しかない。他のやつに狩られる前に俺が狩る!!



「メディアよくやった。よし、今のうちに突っ込むぞ!!」

「はい、イアソン様!!」

「まだ回復が……」

「く、傷が……」

「ならばいい、テセウスはそのままアタランテの治療を!! 終わったら、近くのパーティーに合流して援護をしろ!!」



 俺の言葉について来れたのは、メディアだけだった。テセウスのやつまだ治療が終わってなかったのか……まあいい、奴らには後方支援をしてもらおう。オークロードの周りには肩に乗った小柄なオークしかいない。おそらく、あの大剣に巻き込まれないように、他のオーク達は近づかないようにしているのだろう。何人かの冒険者が必死に喰らいついているのには理由がある。オークには指揮系統が一つしかないのだ。つまり、賢いリーダーがいてもそいつが戦闘にかかりっきりの場合は指揮が疎かになるのである。確かにこの大きなリーダーのオークは賢いのかもしれない。だが、何人もの冒険者と戦いながら頭を働かせ、指示を出すのはさすがに難しいだろう。そしてダメ押しとして……



「俺も加勢してやる!! 足を引っ張るなよ。お前らメディアの護衛を頼むぞ」

「イアソンか!! ありがとうよ」



 一人の冒険者が引いたタイミングで入れ替わるように、俺は全力を出し切る勢いでオークロードに攻めかかる。指揮をする余裕を与えないように。戦闘に意識を集中させるように、俺はさっきまでオークロードの近くにいた小柄なオークがいないことに気づく。どうせ逃げたのだろう。あんな小物はどうでもいい。




「ぶひぃぃぃ」



 オークロードが何かを叫んでいる。部下への命令だろうか? 意味さえ分かれば、対処方法はとれるのだが、わからないものは仕方ない。俺はまた無意識にシオンの事を思い出したことに気づいて舌打ちをする。



「一気に攻めるぞ!!」

「おーー!!」



 オークロードと切り結んで、俺は違和感を覚える。こいつは確かに強い。このままでは圧倒的な力と体力によって、力負けをするだろう。だがそれだけだ。こいつの攻撃はすべてが力任せで、知能が高いようには感じない。なんというのだろう……ただの強いオークというのだろうか? まあいい、もう決着はつく。俺は背後から熱気を感じたので、オークロードの一撃を受け流す。ミスリルの剣がキィィィィーと音を立てながらも、なんとか相手の隙をつくった。腕に負担が来たが、もう終わりだ。そして俺は周りの連中に指示を出す。



「魔術が来るぞ、ひけ!!」

 


 俺たちはその隙をついて相手から距離をとる。背後からのすさまじい熱気が俺の横を通り、オークロードにぶつかるかとおもったがそうはならなかった。

 その前に横から投げられたオークによって、邪魔をされたのだ。どこかから投げられたオークが盾になってオークロードへの直撃が防がれたのだ。盾にされたオークは爆発と共に消し炭になっただろう、だがオークロードはどうだ? 仕留めることができたのか? というか、俺達との戦いに集中していたはずなのにどうやって魔法に気づいた?

 煙の中かから巨体が迫ってくる。その巨体は俺たちを無視して、まっすぐに強力な魔術を放ったメディアの方へと向かう。ふざけるなぁぁぁ。俺を無視しただと!?



「きゃあぁぁぁぁぁ」



 メディアを守っていた冒険者たちは大剣の一振りでふっ飛ばされる。だがそれによってわずかだが時間ができた。悲鳴を上げているメディアの顔が見える。



「メディアーーー!!」



 なんとか追いついた俺はメディアをかばうが不安定な状況だったために、オークロードの攻撃を受けきれずに、メディアごと他の冒険者と同様に吹き飛ばされた。とっさに彼女を左腕で抱えるが全身が痛い。特に右腕がやばい、骨が折れたのか動かない。ああ……全身が……痛い……俺は死ぬのか? こんなところで? 無様に、こんなダンジョンで、オークロードごときに倒されるのか?



「イアソン様イアソン様ぁぁぁぁぁ」

「なんでだよぉぉぉ、俺は英雄なんだ!! 神に成功を約束された存在のはずだ。その俺がこんなところで……」



 戦線は崩壊した、崩壊してしまった。オークロードと渡り合える冒険者たちの壊滅。今回の冒険者で一番強力な魔術を使えるメディアはパニック状態になってしまった。ああ、くそ……俺たちはここまでなのか……メディアが俺をかばうかのように覆いかぶさってくるが邪魔だ。早く逃げろというのに……



「カサンドラ、シュバイン!! そのでかいオークを頼む!! 俺だ、シオンだ!! その黒いオークは俺の仲間だ。攻撃をしないでくれ」

「任せて、炎脚 (フランベルジュ)」

「ぶひぃぃぃぃ」

「大丈夫か、イアソン、メディア」



 絶望の中に聞こえたのは俺がもっとも聞きたくない声だった。なんで貴様がここにいるんだ、シオン……俺がピンチの時に現れたその姿はまるで俺が目指している英雄の様じゃないか。

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追放された俺が外れギフト『翻訳』で最強パーティー無双!~魔物や魔族と話せる能力を駆使して成り上がる~ 高野 ケイ @zerosaki1011

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