第11話 鐘の音

【暮葉side】



「じゃあ、そろそろ私は教室に戻りますね」

「……えぇ」

「元気を出してください。先生も人間ですから、勘違いすることくらい……ぷぷっ、ありますよ」

「もうダメ…………私はオキシドール漬けにされるんだわ」


 佐保子先生に意外な一面があったと知って、ちょっと驚いた。でもそのギャップが私にとっては好印象で、先生との距離は更に縮まったような気がする。

 今日は先生ともかい君とも仲良くなれて、ラッキーな日だなぁ。

 ……あれ、そういえばなんで保健室に来たんだっけ? まぁいっか。

 そんなことを考えながら保健室を後にする。


 ……と、階段の踊り場に人影が。


「あれ、目黒さん……?」


 そこには、壁にもたれかかってスマホをいじっている目黒さんの姿があった。


「……あぁ、西條か」

「ど、どうしてここにいるの……? まだ1時間目の授業中だよね?」

「サボったの。文句ある?」

「え、あ、ええと……」


 怒らせちゃったかな……。

 これ以上彼女の逆鱗げきりんに触れないように、そっと脇を通り抜けて──


「──待ってよ」

「は、はいぃっ!」


 ガシッと腕を摑まれて、思わず身震いする。


「一個聞いていい?」

「どど、どうぞ!」


 ややや、やっぱり陽キャ様は怖いよぉ……! 私のことをどうするつもりなの!?

 まさか私のことをウェイ族の神様に捧げて、生贄いけにえにするの!? そのつもりなの!?


「西條って、神戸と付き合ってるわけ?」

「つつつっつ!?」


 どうやら生贄にされる心配はなさそうだけど、これはこれで悩ましい展開になってしまった。

 みんなの前であんなことまでしたんだし、付き合ってると言っても過言ではない……?

 ……いやいや、ここはやっぱり「付き合ってない」って言うべきだよね。

 かい君にその気があると確定したわけじゃないし、私の勘違いだったらただの思い上がりになってしまう。


「付き合ってない……と思う」

「……そう」


 目黒さんは興味をなくしたように、教室の方へ向かおうと階段を登っていく。

 その綺麗に染まった金髪が、窓からこぼれた光を受けてキラキラと輝いていた。

 可愛いなぁ、目黒さん。肌も白いし、きっと美容にも気を付けてるんだろうなぁ。制服の着崩し方も洗練されてて、私服もお洒落しゃれなのかなぁ。

 ……そんな風に見惚れていると、階段を登りきった目黒さんが不意にこちらを振り返った。


「付き合ってないなら、私が神戸をもらってもいいよね?」


 えっ……?

 そう言葉がれる直前、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 私は何か言わなければと思いつつも、何も言えないまま、その場に立ち尽くすことしかできず。

 やがて目黒さんが立ち去り、私一人がその場に残されて。


 ただただ茫然ぼうぜんとしたまま、チャイムの音を聞いていた。

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