幕間② 保健室にて

【佐保子side】



「うわああああああああああん! 佐保子せんせぇええええええ!」


 急に扉が開いたかと思いきや、西條さんが保健室内に転がり込んできた。


「あーはいはい、あなたの佐保子ですよー」

「うわあああああああああああああん!」


 幼稚園児のように泣きながら抱きついてくる。……神戸海賀め、うちの可愛い西條さんに今度は何をしやがった。

 ……いや、まだ海賀君のせいとは決まっていないか。子供を監督する立場として、勝手に決めつけるのはよろしくない。


「海賀くんがぁ……海賀くんがぁ……」


 よしあの野郎絶対に許さん。ここにあるありったけの消毒液でオキシドール漬けにしてやる。


「私に抱きついてきたんですぅ……」


 な、なんですって!? そそそ、そんなの……。


 セクハラ行為じゃない!


「西條さん、落ち着いて。ね?」


 とりあえず、彼女の話を聞いてあげよう。そのためにも一度泣き止んでもらわなければ。

 西條さんは繊細せんさいな女の子。きっとあのゲス野郎にセクハラされて、とても傷ついているに違いない。

 彼女を長椅子に座らせて、カウンセリングを始めるべく私もその隣に腰かけた。


「……ううっ、ぐすっ」

「よしよし、辛かったわね」


 子供みたいに涙を手で拭う西條さん。その姿を見て可哀想に思いつつも、私は母性本能があふれ出て止まらなかった。

 なんだろう、この子にはとても庇護欲ひごよくき立てられるというか……あぁ、こういう子のことを「守ってあげたくなる系女子」っていうのね。

 母性MAXの私としては、膝枕してあげてよしよししてあげたいし、なんならおっぱいを飲ませてあげてもいいんだけど(※母乳でません)。……流石にそれは教師と生徒の一線を越えてるし、後者に至っては完全にコンプラ違反なので、我慢、我慢。


「……西條さん、落ち着いた?」

「……はい、ぐすん」

「ゆっくりでいいから、何が起こったか、私に教えてくれる?」

「……朝、登校して」

「うん」

「かい君と挨拶して」

「うん」

「抱き合って」

「うん!? ……うん」


 私はむせそうになるのを必死で我慢して、続きを促す。


「クラスの皆に感想を聞かれたんですけど……質問責めにあって、耐えられなくて」

「……それで保健室にきたのね?」

「はい……」


 私は一度、頭の中で情報を整理する。


 まず、挨拶をしたところまでは良いだろう。健全な高校生の形だ。

 問題はその次。……急に抱き合うって、話が飛躍しすぎじゃない!?

 そりゃあ質問責めにも合うでしょうよ。クラスの真ん中で抱き合う……なんて……。

 …………待って、私ちょっと嫌な予感がする。

 普通の意味で「抱く」は、「抱擁ほうようする」とか「ハグする」って意味になるけど。

 まさか、あっちの意味で「抱く」って言ってないわよね……?


「西條さん、一応聞いておくのだけど。「抱く」って「男女の関係」の方の意味じゃないわよね……?」

「??? ……かい君は男で、私は女ですよ?」


 それはつまり……「男と女なのだから、体の関係になるのは当たり前」と言ってるのね。


 …………アウっトおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 え、つまり西條さんと海賀くんは、クラスのど真ん中で、その……セ、セックスをしたということ!?

 いやそれ、お悩み相談じゃなくて法律相談に行った方がいいやつよ!? 公然わいせつ罪とか、青少年保護育成条例とか、その辺りに抵触ていしょくしそうだし!?


「さ、西條さんはこの件について、どう思っているのかしら」


 流石の私も動揺を隠しきれず、どぎまぎしながら尋ねた。


「その……とても恥ずかしかったんですけど、嬉しかったというか……うーん、やっぱり恥ずかしかったです」


 嬉しかった!? ま、まさか、西條さんってそういう性癖が……!?


「西條さん……それは海賀くんと西條さんのどちらから始めたことなの?」

「かい君の方から……」


 あんにゃろう西條さんを汚しやがって……絶対に許さんんんんんんんん!!

 ……でもまずは、西條さんを更生させなきゃ。やって良いことと悪いことをきちんと教えて、子供を正しい方向へ導くのが大人の務めだもの……!


「西條さん……公共の場でみだらな行為をしてはいけないって、知ってる?」

「え……それはもちろん、知ってますけど…………」


 西條さんは困惑した顔で返事をしてくる。


「じゃあ、西條さんが教室で海賀くんと性行為をしたのも、いけないことだって分かるわよね」

「…………??? …………!?!?」

「……え?」

「えっ……えっ?」

「……」

「……」


 その後、私の勘違いだったことが分かり、死にたくなりました。

 誰か私をオキシドール漬けにしてください……。


 

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