織田裕樹

裕樹と友里

 とりあえず、津川の嫁さんの自殺騒ぎは収まったようなので安心した。


 津川が浮気を告白しだしたのには驚いたが、それは大した問題じゃない。後は友里と俺との問題だ。


 ふと友里の姿が目に入る。彼女は寂しそうな、それでいて安心したような表情を浮かべている。素直な気持ちが表れているのだと思った。


「友里」


 俺は友里の肩に手を置いた。


「あっ、どうして裕君がここに居るの?」


 不思議そうな顔で聞いてくる。


「偶然、あの娘と食事していたんだ。幸田瑠美さん。横に居る幸田義人の奥さんだ。もし、力ずくで止めなきゃいけない場面になったらと付いて来たんだ」

「そうなの……」

「浮気相手は津川だったんだ」

「うん、私も今日気が付いた」

「えっ? 津川がバラしたのか?」

「ううん、違う。自分で気付いたの」


 その言葉の意味を考えると胸が苦しくなった。


「今日、記憶障害の治療薬が届いている筈なんだ。帰って試してみようか」

「えっ? そうなんだ……裕君はそれで良いの?」


 友里は真っ直ぐ俺を見つめて問い掛ける。曖昧な聞き方だったが、俺の覚悟を問うていると気付いた。


「友里の記憶が戻って、俺達の関係がどうなるのか分からない。でも、俺は友里がなぜ浮気したのか分かったんだ。もう逃げる訳にはいかない」

「私が浮気した理由が分かったんだ……」


 友里が悲しそうな表情になる。その顔を見て、間違ってはいないと確信できた。


「ああ、帰って話をしよう」

「分かったわ。帰りましょう」


 友里も覚悟を決めたようだ。俺達は四人から離れて、タクシーで帰る事にした。

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