第11話 むず痒い家
「お別れだ」
と告げられ胸がズキリと痛む。
そんな…。
そのまま後ろを向き階段を上がろうとするバルトルトをバプティスト様が掴む。
「お待ち下さい。バルトルト・バルタザール・ブルーノ・レーリヒ様。お時間を取らせてすみませんがもう少しお話をさせてください。貴方も一緒にダイスラー伯爵邸まで来てもらいます」
と言った。
「な、俺はもうこの女とは無関係だろ?森へ帰らせてもらう。それにもう王子でもない!ただの平民だ」
「まぁまぁ、貴方…仕事を受けたでしょう?実はそれ私が出したんですよ。ああ、依頼内容は本当で、ちゃんと報酬も支払いますよ」
とバプティスト様はそう言ってにっこり爽やかに微笑んだ。それにムッとしながらもバルトルトは仕方なく同じ馬車に乗り込んだ。
ていうかこの三人で馬車に乗るなんて気まづい。
「いろいろとすみません、ヨハンナ様。私も騙されていたとはいえ浮気したようなものですからこの婚約は白紙になるでしょう」
と言われて
「えっ!?そ、そうなんですのね…」
「ええ、ですからバルトルト様と末永くご一緒に…」
「アホか!俺は平民でこの女は貴族の娘に戻るんだから結婚などできない!」
とバルトルトは横を向く。
「おや?私がいつ結婚と言ったのです?」
と言うとバルトルトがギロリとバプティスト様を睨んだ。
「それに平民…と言っても侯爵位は持っているでしょう?貴方のお母様は処刑されましたが貴方に爵位は継がれてる筈です」
「俺は国を捨て隣国に逃げた。どの道貴族なんか命を狙われるしな…侯爵家など他に継ぐ者もいる」
と言うとバプティスト様は
「でしたらヨハンナ嬢の夫となり支えて差し上げたらどうでしょう?きっとヨハンナ様のご両親も喜びます」
「バカらしい!俺は森へ帰る!!」
とバルトルトはふてくされた。
*
しばらくすると馬車はダイスラー伯爵邸に到着して玄関から泣きながらお父様とお母様が飛び出して謝罪した。
「ヨハンナ!!ああ、なんと言うことだ!まさか毒を飲まされて森へ捨てられたなんて!!」
「先程騎士の方から事情を詳しく聞きましたわ…。あの子が…ローレが全てやったことだと…。私達も操られていたなんて…」
とお母様は青ざめていた。
「いつからか記憶が混濁していたんだ。術師に解いてもらいようやく正気に戻ったよ…。済まなかった!そして娘を助けていただきありがとうございます!殿下!」
とバルトルトさんの手を握る。
流石にお父様の手を払い除ける事もできなくてバルトルトは
「べ、別にあんたらの事情なんて知らなかったんだ。狼に喰われそうで厄介だったからだ!俺は別に善人じゃないぜ!後殿下は辞めろ!」
と言う。
お母様は
「それでも娘の恩人には違いありませんわ。バルトルト様さえ良ければ娘と本当に結婚してここの領主になってください!!この子背が高くてモテなくてこの先結婚相手なんてもうおりませんわ!!」
となんか失礼なこと言われたわ。
「いや、俺は森で…」
「実はあの森はうちの男爵家の領地内なんだ。この話を蹴るなら貴方には住む所は無くなりますがいいのでしょうか?」
とバプティスト様が言う。
「ち、貴様!!」
と睨むが
「それに依頼もまだこなしてないだろ?しばらくはこの伯爵邸にお世話になり考えてみればいい。ヨハンナ様のご両親には事情も話しているし大歓迎のようだよ?」
と両親を見るとウンウンとうなづいて歓迎モードだった。
「バルトルト様が女嫌いと言うことも聞きましたのでお世話は最近雇った見習いの少年に任せることにしますよ!おいでセルバ」
とお父様が呼ぶと13歳くらいの少年がテコテコやってきた。同じような黒髪でまるで並ぶと兄弟みたいだった。
「セルバです!よろしくお願いします!」
とでかい声で挨拶した。
「うるせえ!!めんどくせえ!!何だよここの家は!!」
とうんざりしたような顔になるバルトルトに私はクスクスと笑った。
「ちっ!仕方ねえ!依頼が終わるまでいてやる!
「とにかく皆さん疲れたでしょう?きちんとお風呂に入ってお食事しましょう!」
とお母様が言ってバルトルトは頭を掻いた。
*
ヨハンナの伯爵邸にしばらく住むことになった。依頼の為とは言え…。いや、結婚も勧められたが…。俺は貴族なんかになる気はない。どうせ結婚すんなら森でひっそり住みたいのに!!
くそ!
と考えているとノックされてあのうるせえ声のガキ…セルバが入ってきた。
「お風呂の用意ができましたっ!!お身体を洗います!!」
と大声をだす。
「だからうるせえよ!!俺は一人で入る!!」
と布を受け取り風呂に案内される。バスルームに姿見がありあの女に首筋につけられた後があって吐きそうになったが何とか堪えた。
おぞましいことしやがって!だから女は嫌なんだ!!
でも助けられた時ヨハンナに抱きつかれた時は…なんかホッとしたな。なんでだ?
……でもヨハンナに思い切りあの女に無理矢理キスされてるのを見られたし、その時ヨハンナは泣きそうだった。何故か胸が痛かった。
俺は何回も口を濯いだ。
「気持ち悪い」
頭から全身を洗いあの女の香水の匂いとか落としていく。
風呂から上がるとニコニコとセルバが待っていて風呂上がりの水分補給に
「安全なお水です!!」
と言いながら先に水入れから自分のグラスに水を移して飲んで見せた。
「大丈夫です!グラスにも毒はありませんよ!!」
とデカい声で言うし、何度も新しい布で拭き取った。
「も、もうわかった!うぜえ…やめろ。飲むよ…」
とコクコク新鮮な水を飲んだ。
するとパチパチと拍手された。
「うぜえな!!水飲んだくらいで拍手すんな!」
「お食事の用意もできております!!食堂にお連れしまっす!!」
と元気よく前を歩くセルバに付いていく。
何だほんと。
俺は新しい白いシャツと黒いズボンを履き、ベストを着ていた。メイドが顔を染めていたが目線は合わせないようにしていた。
あの奥さんとかに言われたのだろうか。
何だよほんと。気を使いすぎだろ?
食堂に来るとヨハンナが俺の買ったあのアクセサリーを身につけドレスを着てにっこりしていたからドキリとした。
この女!別に今つけなくてもいいだろ!!
と思ったが存外似合ってるな。あの時あんまりよくデザインを見てなかったがよくよく見るとなかなか良いものだ。高いはずだ!!
「さあさあ、お食事にしましょう!」
と奥様が進めて俺は
「い、いただきます…」
と久しぶりにこんな…大勢のところで食事をする羽目になった…。
なんてむず痒いんだろう!!
「おかわりいりますか!!?」
とデカい声のセルバも側にいてなんか命令くれとキラキラした目でこちらを見ていた。
「う、うるせえよ!まだ食ってねえよ!!」
というと皆笑い出した。
くそ、何だよこれ…。こんなのしばらく続くのかよ、勘弁してくれ…。
と俺は思った。
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