第12話 お仕事が終わるまで

 その朝、部屋を見渡すが俺のローブが無い。


「おい、セルバ!俺のローブが無い!どこやった!?」

 と聞くとセルバは


「お洗濯に出しております!」

 と元気よく言ったのでごちんと頭を叩いておいた。


「いてて…だって…シミができてましたし…料理のソースがついていたのでしょう。ついでに出しておいたんです。変わりのコートなら用意しましたよ、ほら」

 と真新しいコートが置かれていた。


「フードが付いてない…」


「何故顔を隠すのです?そんなに顔がいいのに!」


「人に見られるのが嫌なんだよ!!」

 とムスっとした。

 今日からあの男爵令息の依頼に行かなくてはなのに!


「では首に巻く布や帽子でお顔を隠されてはどうですか?」

 と帽子やらを用意してきた。


「ちっ!…」

 と真っ黒なシルクハットを手に取り被ってみる。


「わぁ!似合う!貴族みたいです!」


「お前…わざとだろ!」

 と睨む。


「そんな事ないですよ!カッコいいですよ!色男です!!」


「辞めろ!」

 と言い、支度をしているとノックされ、ヨハンナが入ってきた。


「どうしたんですか?何を怒ってるんですか?」


「…別に!」


「あら、帽子被ってくんですか?」


「…こいつが勝手に洗濯に出したんだ、俺のローブ!」


「だってぇ、ソースまみれだったし」


「まみれてない!ちょこっと付いてただけだろが!」

 と言っているとヨハンナが手をたたき


「はいはい、仕方ないですね、そんなちっさい事で、お待たせしちゃいますから早く出かけますよ!あ、タイが曲がっておりますよ!」

 とヨハンナはちゃっと素早くリボンタイを直した。あまりの自然の動作にセルバは


「わぁ!!夫婦ですね!!」

 とにっこり大声で言い俺はなんか赤くなりセルバの頭をさっきより強くぶっ叩いておいた。


「……ていうかお前も行くのかヨハンナ?何故だ?」


「…え?だってバルトルトさんのことだからうちの馬車には乗らないんでしょ?だったら私があの気持ち悪い貴方の馬車に乗りバプティスト様の所まで案内するしかないじゃないですか」

 と言うので確かにその通りだなと思った。


「ちっ!仕方ねぇ。さっさと終わらせて俺は森に帰ってやる!!」

 と言うとあははとヨハンナが苦笑いした。


 *

 死霊馬車をいつものようにバルトルトが呼び出した。


 私も何度か乗っているのでだいぶ慣れたけど…馬達はこれ死んでるのよね…。バルトルトは私が乗る時手を貸してくれた。

 珍しい。女性をエスコートするとは!


 でも…バルトルトはこの仕事が終わったらやっぱり森に帰ってしまうと思う。

 まぁ、そうよね、人嫌いだし女は嫌いだし私と結婚なんてごめんだろうし。


 森にいた時はプロポーズしてきたくせに。

 貴族に戻ったらお別れだなんて…。ほんと都合がいい人だわ。

 なんだか胸が痛くて仕方ない。


 なんとなく空気も悪く、会話も少なくなった。


「あの…この仕事終わったら…本当に森へ帰るんですか?」

 堪らなく私は聞いてみた。

 聞いてどうするのか。

 窓の外を向いていたバルトルトは静かにこちらに顔を向けた。


「何度も言ってるだろ。…帰ると。あそこは俺の居るべき場所なんだ」


「……そうですか…」

 本当に帰ってしまうのね…。


「……ヨハンナ……俺には貴族にはなれない!無理だ。ごめん。…だから…お前が貴族辞めろ!また前みたいに暮らそう…。お前がいないと畑も死ぬ」

 と言った。


「な、なんですかそれは…また私を家政婦にしたいんですか?」

 本当にバカな人。


「……まぁ。別にどっちを選ぼうともいいんだ。この仕事が終わるまでに決めておけ…」

 そう言うとバルトルトはすっかり黙り目を伏せ着くまで寝ていた。


 *


「やぁ、よく来てくれたね。長旅ご苦労様」

 とバプティスト様の男爵邸に通された。

 応接室に通され私達は話を聞くことにした。


「依頼の話だけどね…実は…連続殺人犯の行方を追っているんだ」

 いきなり物騒な話が出てきた。


「ほう…」


「実はうちの領地で数ヶ月前に最初の犠牲者が出たのだが、村の若い娘が顔を焼かれて殺されていた。身元不明だが行方不明になった娘の捜索願が出されていてその子だろうと目星はついたが何せ顔をやられているし確認が難しい。


 そうしてると次の犠牲者が出た。やはり顔を焼かれていて最初の娘なのかもわからなくなり、

 次々とその後も若い娘ばかり殺されていった。


 しかも皆茶髪で服は纏っていなかったから…判断できなくてネクロマンサーを探していたんだ」

 とバプティスト様は真剣に言う。


「……その娘達の魂を呼び出して直接犯人を聞き出せばいいんだな?」


「そうです。お願いできますか?これ以上犠牲者を出したくない」

 とバプティスト様は言う。


「遺体の所に案内してもらおう…。ヨハンナお前はここで待ってろ」


「え?行きます」

 と言うと二人とも面食らった。


「アホか!お前っ!遺体のとこに行くんだぞ!?気持ち悪くないのか!?」


「だ、大丈夫です…たぶん」

 しかし勝手に身体は震えた。

 バルトルトはそれを見て


「ほら見ろ、待っていろ」

 と言いバプティスト様も


「ええ、ヨハンナ様はこちらでゆっくり待っていてください。大丈夫ですよ。直ぐに解決して戻ってきますからね」

 とにこりと言い私は


「わかりました…気を付けてください…」

 と言い、二人を見送った。



 *

 俺はバプティストと村へ行き遺体の安置されている教会へ向かった。

 氷魔法での腐敗の進行を止めているようだ。布がかけられている。

 全裸らしかったのであまり確認はしていないが確かに特徴的な髪の色は皆似ていた。髪の長さも。


 俺は魂を召喚する為巨大な陣を描いて言った。一人一人呼び出すより皆いっぺんに呼び出して話を聞くことにした。


 一応バプティストに身体を乗っ取られないように魔具を渡しておく。


 陣が完成して死者の娘達の魂を呼び出すことにした。


「来たれ、彷徨える娘達の魂よ!我はネクロマンサー!呼びかけに応えよ!こちらへ来い!!」

 陣が光り娘達の魂がゾロゾロ湧いた。


 全部で五人。

 娘達は俺を見て


『やだっ!!カッコいい!!』

『ほんと!!貴方が私を呼び出したの?』

『あら、私だって呼び出されたわ』

『あたしが実は本命?』

『私に会いたくて呼ばれたの』

 と口々に言う。


『お前らを殺したのは誰だ?さっさと言え、無駄話はあの世でしてろ』


『……それが…私…目隠しをされてよくわからないの。恐怖だけはあったの』

『私もよ。悔しいわ!ネクロマンサー様、犯人を捕まえてえん』

『くっ!私まだ…処女だったのに!!好きな人もいたのに!』

『うう、辛い!悔しいい!!許せないい!!』

『女の敵だわ!無理矢理犯すなんて!!』


「被害者は皆、茶髪、処女が条件ですか」

 とバプティストが考える。


「折角呼び出したのに犯人がわからねぇとなると俺ももうお手上げだぜ」

 と言うと


「うーん、困りましたねえ」


『あら、こっちもいい男だわ!てか領主さまっ!』

『やだ!ほんと!お久しぶりですわ!よく村へ来てくれたものね!!私達の憧れでしたわ』

『領主さま、私達の無念を晴らしてください!』


「わかっているよ。しかし…犯人は一体…」


「こうなりゃ、茶髪の女でも囮に使っておびき出すしかねぇ」

 と俺が言うと…


「領主さまー!今、男爵邸から連絡があり…その、お連れの方が部屋から出て外へ行ったみたいで…もしやこちらにお邪魔してないかと…連絡が来ました!」


「!!ヨハンナ様が?」


「あの…バカが!!」


「ああ、どうしましょう…バルトルト様。彼女は…茶髪です!栗色の」

 とバプティストは青ざめた。


「ちっ!!」

 と俺は村の入り口目指して走り出していた。

 こんなに猛ダッシュしたのが初めてだ。熱い!もし、ヨハンナが犯人に捕まり犯されたら俺のせいだ!!


「ヨハンナ!!」

 と叫ぶと村の入り口に腰掛ける背の高い女…ヨハンナがふうふうと座っていた。


「ヨハンナ!!」

 ビクりとしてヨハンナがこちらに気付いた。


「バルトルトさん…あの私その…」


「バカめ!なんで来た!殺人犯がうろついてる村だぞ!バカか!!」

 と言うとヨハンナは息を整えて


「だ、だって!!男爵家にいても暇なんですもの!!」

 とうっうっと泣き出した。

 俺は呆れたが


「バカめ…」

 と頭を撫でた。

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