いじわるな子


 僕の隣にはいじわるな子がいる。僕が欲しいものを隠してしまうし、欲しくない言葉を浴びせるし、表情はいつも硬い。意地っ張りで、僕を振り回したりする。だから僕は彼女に分からせてやるんだ。


「愛してるよ」


 何度も何度も、彼女が顔を真っ赤にさせてふにゃふにゃになるくらい。


「ば、馬鹿!何度も言うな!」


 茹でタコのような彼女は僕の背中を叩く。それはちょっと痛いけれど、その痛みすらも愛おしく感じてしまうから不思議だ。


「澪は?」

「え?」

「澪は僕のこと、どう思ってる?」


 僕が欲しいもの。それは、彼女が隠してしまう心だ。言い淀み、俯いてしまった彼女の顔を覗き込む。眉を下げて頬を上気させた彼女がちらりと僕を見る。それは酷く被虐的で、僕の胸の奥に潜む加虐心が騒ぎ出す。


「あ」

「あ……?」


 僕の言葉に首を傾げ、オウム返しをする澪。僕はにっこりと笑って言葉を続ける。


「い」

「い……?」

「し」

「……!」


 三文字目で澪は僕の意図に気付き、僕を軽く睨みつけた。


「ね、言ってみてよ」


 耳元で囁くと、澪はピクリと身体を強張らせた。


「―――ッ!あ、愛してるわよ!これでいいでしょ?!」


 真っ赤な顔でふん、と鼻を鳴らして顔を背ける澪。僕は満面の笑みで彼女の頬に唇を落とす。


「ありがと、澪。僕も愛してるよ」

「も、もう!」


 声を上げながらも、どこか残念そうな澪はとても分かりやすい。ニヤニヤと澪を見つめていたら、彼女が僕の腕を引っ張った。目を見開いた僕の唇に触れる柔らかいもの。僕の顔に熱が集まるのを感じる。目の前の澪が勝ち誇った顔で笑う。ああ、やっぱり彼女はいじわるだ。でも僕は、そんな彼女が世界一、いや宇宙一愛おしく感じてしまうのだった。


Fin.

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