第52話 スペイン編⑦

「目立たない方がいい」


試合開始前のそんな言葉は、すでに忘れてしまっていた。

長年サッカーから離れていたとはいえ、耐え難い過去を思い出しそうになるとはいえ、やはりこの瞬間の快感は忘れられない。


”相手を嘲笑うかのような瞬間”

”相手が味方がとんでもないものを見る目でこちらを見上げる瞬間”


そして何より、


”ゴールを決め、観客の大歓声が自分一人に注がれる瞬間”


「ああ、戻ってきてよかった」


大歓声を浴びながら、チームメイトに駆け寄られながら、

そう口にした。



先制点を挙げた後、アランたちの猛攻により同点にされたが、

傑がハットトリックを決め試合の大勢は決した。


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リーグ終了後


「またな、スグル」

「代表戦ではお手柔らかに頼むぞ」


クラブでの最終戦を終え、ワールカップ日本代表の招集により、

今日、日本に帰ることになっていた。


「ああ、また。代表戦では本気で行く」

「おいおい、それは流石に・・・・」

「諦めるの早すぎるぞ、お前。いくらスグルがやばいとはいえ」

「じゃあ、勝てんのか?」

「「・・・・・・・」」

「おい、なんか言えよ」


しばらくチームから離れるとはいえ、ワールカップの間だけ。

すでに契約更新も済ませてある。


傑の試合を見た各クラブチームから移籍の打診があったが、

縁ある監督の元を離れる気にはなれなかった。

チームメイトと終始笑いながらしばらくの別れを済ませ、

遥と共に空港に向かった。


遥とともに空港に向かった傑を待ち構えていたのは、

クラブのサポーターとカンテラの子どもたちだった。


「またな〜!!スグル!!」

「さっさと戻ってこいよ!!」


メディアも構えており、大観衆と大量のフラッシュに包まれながら、

空港の中を歩いていく。

カンテラの子どもたちの中には、あのサイドバックの少年もいた。


傑は歩み寄り、少年の頭に手をおいて


「またな」


いずれ同じピッチに立つであろう少年に声をかけ出国ゲートに向かった。



〜そして現在〜


大歓声の中、ワールドカップ出場国の全チームが出揃い、世界の祭典が始まった。

この中でたった一つの国だけが、優勝杯を手にすることができる。










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