第53話 再会

開会式後、各国の代表がスタジアムから出て、スタッフの誘導のもとそれぞれのホテルに戻っていた。

日本代表は、今度も一番最後。


「お待たせしました。日本代表の皆さんこちらへお越しください」


スタッフに促され出口に向かっていた。

傑は、今度も一番後ろだった。

だから、他の選手は気づかなかった。

傑が出口の陰から出てきた女性を見て立ち尽くしたことに。

そして、体の震えが尋常ではないことに。


「久しぶりね。


よりにもよって、このタイミングで現れたのは傑の、いや綾人の母親『赤羽愛』だった。


「あなたがサッカーをしているようでよかったわ」


傑はなにも喋らない。いや、声が出ない。

サッカーしていれば、いずれどこかで会うだろうとは思っていたが、

まさか、こんな早く、しかもこんなタイミングで現れるとは思ってなかった。


「・・・な、・・・・なんで・・・」

「あら、あなたのことを母親である私が知らないはずないでしょ?」

「・・・・・・!!」


「ええ、知ってるわ。あなたの奥さん、私の義理の娘になるのよね。可愛らしくていいわ」


愛は、あの時から、サッカーを楽しめなくなった時から、痛いほど確信を、嫌なところを徹底的についてくる。


愛のことでいっぱいだった頭の中は遥のことで埋め尽くされていく。不安と恐怖。

それのみが頭の中を埋め尽くしそうになった時、


「久しぶりだな、赤羽」

「・・・・・」


傑の後ろから、美咲が彼を守るように現れた。


「み・・・さきさん」

「あら、お久しぶりね公安の方だったかしら」


美咲の後ろには捜査員と思しき刑事の姿が複数人いた。


「こんなところまでなんのようだ、赤羽」

「あら、息子の晴れ舞台よ。母親が観にくるのは当然だわ」

「母親・・・?お前が・・・?」


美咲は、その言葉に言葉にできないほど怒りを覚える。


「あんなことをした、いや、お前が人の親・・・?」


美咲は、愛が今も子供たちを対象に行なっているの内容、

そして、傑の体の状態を、遥に知らせていないことまで知っている。

それ故、とてつもなく怒りを覚えた。


「いつか必ずお前らの背後にいる連中まで辿り着いてやるからな。いくぞ傑」

「は、はい・・・・」


美咲に連れられ愛から離れていく。


「ふふ、そう簡単にいくと思わないことね。何せ、私たちの研究のスポンサーは・・・・」


答えを言いかけて、口をつぐんだ愛は、傑たちとは反対に歩き始めた。







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