第38話 翌日のリフレッシュ休日

イラン戦が終わり、次のカタール戦まで、二週間。

試合翌日からは、三日間、休日が与えられていた。


「傑ー、今日どうする?」

「うーん、どっか食事にでもいくか?」

「あ、いいねそれ」

昨日、母親と会ったばかりで気が滅入っていたため、少しでも気が紛れるところに行きたかった。

遥も、美咲からある程度のことは聞いていたが、家では一切その話題には触れたくなかった。


「・・・・温泉に行きたい」

「・・・急だね。食事も兼ねて旅館でもいく?」

「うん、行きたい」

いつもの傑ではなく、なんだか弱っているような、子供心が戻ったかのような感じだった。


「じゃあ、早速準備していこうか!」

「わかった」

いつでも思い立つことがある傑に対応するため、遥は前もってある程度の遠出用の荷物を押し入れから出す。


「あとは、下着とか歯ブラシとかね」

傑は自分の下着と二人分の歯ブラシを、遥は自分の下着を素早く用意し、バッグに詰め込んだ。


「あ、もしもし?午後から入りたいんですけど・・・・」

遥は、手際がよくいつもお世話になっているお忍び用の旅館に電話をかけている。


「よし、行こう!」

「おお」

傑の自家用車に荷物を乗せ、運転席に傑が、助手席に遥が乗る。


この車は、初めてスペインでMVPと得点王をとった時の賞金で買ったもの。

値段は、数千万。

ぶつけられても、相手の車がへしゃげるだけ。


エンジンをかけ、車を出した。




寄り道をしながらも、およそ三時間。

目的の旅館に到着した。


「お待ちしておりました」

いつものようにお上さんが出迎えてくれる。


「こんにちわ。すいません急に」

「大丈夫ですよ。傑さんはいつものことなので」

「あはは・・・。本当にすみません」

遥は、いつもの会話をしてチェックインを済ませる。


「では、こちらが部屋の鍵となっております。露天風呂付きですのでごゆっくりと」

「「ありがとうございます」」

二人は、いつもの部屋に向かい、早速くつろいだ。


「それにしても、今回は本当に急だね」

「まあ、ちょっと・・・・」

急といえども、いつもは前日までに判断をする。

それほど、嫌なことだったのだろう。

本来なら、生き別れの母との再開、それは感動ものなのだろうが、事情が違いすぎるため、参考例がない。


「とにかく、今日から三日、ゆっくりしようよ」

「そうだな」

二人は、夕食の時間まで、部屋に備え付けてある露天風呂に入り、体を休めた。


新婚の頃は、二人で入ることに恥ずかしさを覚え遠慮していたが、流石に慣れてきた。


「ふう・・・・」

最終予選、それが終われば本選に入る。

そうなればおそらく、アジア枠で中国も上がってくる。

両親の息がかかったチームと選手。

それを考えただけで、嫌になってくる。


「?どうした・・・・」

遙が、肩に頭を置いた。


「ここにいる間ぐらい忘れようよ」

「・・・・すまん」

せっかくの二人きりの休日、嫌なことは考えないことにした。


しばらくしたあと、夕食の準備ができる頃に風呂から上がり、楽な格好で食事をまった。


「お待たせしました」

給仕さんが何人かで、テーブルに並べ、部屋から退出する。


「それじゃあ、「「いただきます」」

二人は、久しぶりにサッカー以外の話で花を咲かせた。



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