第三章 その六 命令

翌日の夕暮れ時、鳴神は新屋敷からの電話で叩き起こされた。いや叩き起こされたと言うよりも、鳴り止まない着信にいい加減根負けしたと言う方が正しいのだが。


「やーっと出やがったか。横塚が店に来る、てめぇも早く来い。今から秒で来なかったら叩き割るからな。」


新屋敷のここ脅しは。流石の鳴神も「ノドはやべぇ、クレープ屋見付けた時食えなくなるわ。」と珍しく急いで部屋を出た。問題点はそこでは無いと思うのだが。



開店前のドワーフの扉を開けると、バーカウンターに見知った嫌な顔があった。


「よお、鳴神ぃ♪」


県警無期未解決事案調査室の警部、横塚だ。おそらく勤務中だと思われるが平気な顔でロックグラスを傾けている。


「へぇ、もう来てたんだね。」


鳴神は横塚の顔を見るなりタバコをくわえた。『おまわりさん』と呼ばれた瞬間横塚の目つきが変わる。交番での挑発をまだ根に持っているのだろう。

口だけに笑みを浮かべ睨みつける横塚を尻目に鳴神はカウンター内に入っていく。と、同時に奥の厨房から新屋敷が顔を出してきた。


「お、意外に早かったなハナイチ。早速から話聴こうじゃねぇか。」


「新屋敷さんまで勘弁して下さいよ。」と横塚の目に笑みが浮かんだ。何故だかこの無礼極まりない性格の横塚も新屋敷には遜った態度で接する。付き合いの浅い私には不思議でならないが、未だにその辺りの理由が判らずにいる。


「ひゃっはっはっ!!まあなんだ、ハナイチが迷惑かけたな。そこは謝っとくよ、手間かけた。ハナイチ、手前も上っ面だけでいいから謝っとけ。」


「上っ面でも嫌すね。捕まる理由が無ぇすから。」


捕まる理由はちゃんとあると思うぞ鳴神。


「おお♪鳴神ぃ!お前は俺にも新屋敷さんに謝んなきゃなんねえって事が理解出来ないのなぁ!妖怪ブッ叩くしか能が無いからしょうがねぇか!」


言い方には腹が立つが、ここは横塚の言う通りだと思う。・・・鳴神が私を睨む。いや実際そうだろ。


「とりあえず新屋敷さん、話始めていいですかね。もうお察しかと思いますが。」


「ああ、爺さんの事件だろ?警察はどこまで分かってんだい?。」


鳴神の出勤を待っていたはずなのに、新屋敷と横塚はまるで鳴神が居ないかのように二人で話を始めた。


「単刀直入に言いますけどね新屋敷さん。ってのがコチラのスタンスなんですよねぇ。いつもそうでしょ?」


出た。これが警察(コイツら)のやり方だ。毎度よく悪びれもせずにこうも無茶を言えるものだ。


「確かにいつもそうだな!ひゃっはっはっ!とりあえず今お前んトコで分かってる所だけでも置いてけよ。」


しかし次に横塚が吐いた言葉は耳を疑うような内容だった。


「あ、それとね新屋敷さん。今回は依頼じゃないんですよ、ウチからの『命令』、と思って下さいませんか。」


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あの日、爺ちゃんが鬼をブン殴った。 梅蟹 誠 @sei_umegazami

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